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ぼくは「奴隷」じゃない 中学生「5000万円恐喝事件」の闇 みんなのレビュー
- 中日新聞社会部 (編)
- 税込価格:1,760円(16pt)
- 出版社:風媒社
- 発行年月:2000.9
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紙の本
口を閉ざし続ける被害少年の心を開かせたのは、フツーの大人ではなく、その心を知り尽した暴力団員だった。
2000/10/09 00:15
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投稿者:井出彰 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ちょっとやそっとでは驚かない最近の少年犯罪だが、一人の少年から捲き上げた金額を知ったほとんどの人が自分の耳や目を疑った。5万円、いや50万円、では500万円、いやいや何と5000万円である。平均サラリーマンの10年分の稼ぎである。捲き上げた方も捲き上げたものだが、捲き上げられた少年の一体どこからそんなお金が出てきたのか。そして加害者の少年は、そんな大金を何に使ったのだろうか、とニュースで知った時、まずそのことが頭の中を駆け巡った。まだ今年のことである。
その後、テレビや新聞で断片的なことは知ったものの、やがて次から次へ、よくもこれだけ起るものだと感心さえする列島を襲う事件の山で、いつしか関心は薄れてしまっていた。時代は余りにも忙しすぎる。そんな表面を流れてゆく急激さとも、あるいは多発する少年犯罪の根は関係があるのかもしれない。
ともかく、そんなときに、この事件の真相や全貌を垣間見せてくれる、地元中日新聞記者20人による渾身の報告書ともいうべき本が出た。
事件の内容が少しずつ本人の口やマスコミによって押し開かれてゆくにしたがって警察署や学校の怠慢さや対応の杜撰さが暴かれてゆく。この事件だけでなく、この二、三年全国各地で耳にタコが出来るほどのお粗末な構図である。事件がこんなになる前に、ここでも親は学校にも、警察にも、児童相談所にも相談にいっているのである。そして学校は警察へ、警察は児童相談所へ、児童相談所はまた学校とよく相談したらいいと、たらい廻しにするだけ。
少年たちの犯罪は、この本では暴力の連鎖と呼ばれているが、かつて自分たちも先輩からイジメられ、今度はイジメに廻っている。そのイジメられた者がまたイジメを行っている。先輩たちは今や本格的な暴力団となっていて今でも後輩たちをユスり続けている。だから少年たちは先輩の分も含めてユスるから額は膨らみ続けるのだ。
この学校は名古屋でも有数のマンモス校であると共に進学校でもあるという。それぞれの家庭はそれほど貧しくない。むしろ恵まれているといえる。親たちは一生懸命働き、マイホームを造り、子どもたちにふんだんに優しさを振り撒いている。振り撒くことに忙しくて少年たちの心の深処に想い至ることは出来ない。もしかしたら気配を感じ取っていても自分たちはこれだけ優しさを振り撒いているのだからと、そのことを大切にする余り気づくことを通り過ぎてしまった。これも他の少年犯罪と変わりはない。
ただ、この事件で一つだけ特殊なのは、サンドバックのように叩かれ瀕死になってもなお口を閉ざしている被害少年の心を開かせたのは、かつて自分もイジメを行い、ユスりもした経験のある、父親を暴力団組長に持つ、暴力団の一人だったことである。単なる暴力団の気まぐれな義侠心なぞと片づけれない問題点を含んでいる。優しさや豊かさの裏側には他人の窺い知れぬ闇がはり付いている。この心の襞を現代のフツーの大人たちはもう忘れてしまっている。このことを記憶しておくだけでも、この事件の、この本は読んでおくべきである。 (bk1ブックナビゲーター:井出彰/『図書新聞』代表 2000.10.09)
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