紙の本
文科系遺伝学の必然性。
2003/06/29 23:15
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投稿者:ソネアキラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「遺伝子は人間の姿やかたちのみならず、一人一人の心のあり方にまで影響を及ぼすのだろうか」。本書は、思わず、考え込んでしまうような命題を考察したものである。作者は、人間行動遺伝学の見地から認知能力とパーソナリティの発達に及ぼす遺伝と環境の影響に関して、双生児研究から追究している。
村上春樹の小説のような話なのだが、かつて、双生児の女の子と短い間だが、つきあっていた。彼女は一卵性双生児の姉の方だったと記憶している。ある夜、彼女の自宅に電話をした。てっきり、彼女だと思って話をはじめたら、妹だった。姉とそっくりな声だった。
作者曰く、一卵性双生児とは遺伝的に全く同じであるということ。生まれてすぐに別々に遠く離れた地で一卵性双生児が何十年かぶりで再会したら、趣味、性格などに「驚くほどの相似性」があったという有名なエピソードが紹介されている。
ぼくたちは「遺伝」なんて言葉を耳にすると、どうも文学的な解釈をしがちで、すごく運命的なものを感じて、ともすると、一生そこから逃れられないなどと嘆く人も存外多いだろう。しかし、作者は従来の「貧しい遺伝決定観」に対して「多要因の全体的な力動という視点が欠落しているのだ」と批判している。
本書の冒頭で、「進化論」を唱えたチャールズ・ダーウィンと昨今またぞろ物議を醸している「優生学」の祖であるフランシス・ゴールトンが似すぎたいとこ同士として紹介している。ちなみに、優生学は、ナチスのホロコーストの温床と目され、「悪魔」のレッテルを貼られた学問。しかし、遺伝を論ずるのには、避けて通れない問題である。
二人は、いとこであるのだから、容貌は似ているのは当然なのだが、進化に対する考え方まで似ていると。このエピソードのオチとしては、晩年の二人の写真が掲出されており、歳月を経たら、二人は異なる道を歩んだためか、その容貌はすっかり異なってしまった。
いわゆるゲノム学がこのまま発展したら、前述の優生学の再来を招くのではないかと危惧されている。そのために、作者は、遺伝学も理科系のみならず、文科系からのアプローチも必然であると述べている。
「いま必要なことは、ただ手をこまねいて悲観的な未来像を描くことではなく、新しいミケランジェロが自然に生まれ育つような新しい遺伝観に基づく豊かな社会を築くことである」と結んでいる。同感である。
大学の心理学のレポートというと、いまも『性格を決定するのは、遺伝か、環境か』などという十年一日的なものなのだろうか。
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おもしろかったーこれ! 確かに新書にしとくの惜しいわ。
「行動遺伝学」っつーのの本で、一卵性双生児と二卵性双生児とふつーの人とを比べながら、遺伝の影響と環境の影響を測ってみよう! という学問。双子の研究は事例集めるの大変だし、倫理的な問題もあったりするので難しいと思うけど、それだけにとても有意義。優生論の絡みもあるし、教育論の絡みもあるし、おとーたん、おかーたんの気になるところでもあるし。
行動遺伝学の事例で有名なのは、オオカミに育てられたふたごの「アマラとカマラ」のお話。環境も教育も大事だよねという結論に導くためによく引用される、それはそれで正しいと思うけれども、そもそも「才能」「資質」がなければ教育も環境も無駄になる。教育者や親をやる人には、才能や資質を見抜く力が、まず求められる、みたいな話。
英語の授業の実験で、双子ちゃんをたくさん集めてやった話が面白かった。
いわゆる講義形式と、おしゃべりを通して学ぶ形式を、たくさんのふたごを2つのクラスに分けてそれぞれ学ばせて、結果を比較する。それぞれの授業形式の特性がはっきりと出てて面白い。結論は、「どっちもいいところがある」「子供の気質にあわせるべき」みたいなこと。そらそーだよな。
検証しましたというには被験者の数が少ないのかも知れないけど、あんまり欲張り言えないだろうからなーこの分野。
はぁ、久々にあかでみっくなご本読んじゃった、少しはかしこくなったかしら。
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【目的】
【引用】
【感じたこと】
【学んだこと】
新しい環境が新しい遺伝的素質を開花させる。
資質に合った役割を。
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心は遺伝するか。
本書はYESと答える。
一卵性双生児などの統計的な検査が根拠だ。
資質が共通していることが非常に多いという。
ただし、運命決定論ではない。
遺伝がすべてではない。
たとえば、親の資質がそのまま子どもに遺伝するわけではない。なぜなら遺伝するのは遺伝子であり、それ自体ではなく、その組み合わせが意味をもつものであるからだ。
ここからたとえば、「適性が違えばそれにあった教育環境は違う」などの知見に結びつく。
人は一人ひとり違うのだから、その人自身をしっかり見つめなければならないという、いってみれば当たり前のことを再確認。
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行動遺伝学の入門書。一卵性双生児に関する統計調査の重要性が強調されています。統計データの解釈に関わる部分でもありますので、取り付きにくいところもありますが、なかなか興味深い結果がたくさん紹介されています。
著者の主張は全くマット・リドレーが『やわらかな遺伝子(原題:Nature Via Nurture)』とほぼ重なるように思われます。知識能力や性格などは遺伝的要素が高いのだけれども、その発現は教育を通して顕れるのだということを強調しています(そう記述する動機はよく分かります)。いくつか参考文献が最後に挙げられているのですが、それなりに売れているマット・リドレーの著作が挙げられていないのは残念です。
また、『心はどのように遺伝するか』は疑問ありです。必ずしも心が"遺伝"するわけではない、というのは著者の主張だと思いますので。
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[ 内容 ]
ヒトゲノム、クローン技術と、21世紀は遺伝子の時代に突入しようとしている。
そしていま一卵性・二卵性双生児の研究から、身長や体重だけではなく、IQや性格への遺伝的影響も明らかになってきた。
遺伝子はどのように人間の心を操っているのか?
遺伝をめぐるさまざまな誤解を解く「心と行動の遺伝学」。
[ 目次 ]
序章 偉大ないとこたち
第1章 遺伝のメカニズム
第2章 遺伝を測る
第3章 遺伝の多様性
第4章 遺伝のダイナミズム
第5章 遺伝から観た環境
第6章 遺伝と教育
第7章 遺伝の意味論
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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心を働きと捉え、心は遺伝的であることを言っている。人間の心理現象も生命現象の一部なのだから、遺伝するのは当然だと言えるのだろう。運命論的遺伝観を否定し、教育や環境の重要さも説いている。
遺伝を決定論者的に解釈するのではなく、自然なものとして素朴に受け入れ、自分にとって有益な情報とし、生きてゆくために学ぶべきこととをして捉えられるきっかけになると思います。
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遺伝子はその人の在り方を決めるわけではなく、その人の生き方が遺伝的特徴を発現させる。ということが印象に残った。遺伝的情報は水の流れる谷のようなものであり、ある方向に流れやすくなっているというイメージ。(ウォディントン)
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違う環境で育った「一卵性双生児」と「二卵性双生児」の違いを比べる事によって「何が遺伝的に決まるのか」を調査した結果が書かれている。 心情的には「肉体的特徴」が遺伝で決まるのは納得できるが、「精神的特徴」が遺伝するのは認めたくない。しかし、実験結果的には多くの「精神的特徴」が遺伝により決まるという。本書には具体的にどの特徴が遺伝してどの特徴が遺伝しないかなど詳しく記されている。遺伝に興味がある人には必読な一冊。
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安藤寿康先生の一般書デビュー作(のはず)。すごく分かりやすく面白く遺伝と双生児研究の話がまとめられている。最後の方の、安藤先生ご自身の博論の内容をまとめた章もすばらしい。「遺伝」とか「双生児研究」に興味のある方は、安藤先生の近著も良いけど、この本もぜひ。なんでしょう。2010年代の本よりも、もっと臨場感の溢れる感じがあります。
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すごく分かりやすくて面白かった。
肉体的、精神的なものが遺伝するのは事実であり、そのような主張が人権侵害にあたると非難するのは、キリスト教信者が地動説を否定するようなものだ。でもそれは親子がそっくりになるという意味ではない。
鳶が鷹を産むのも、蛙の子は蛙なのも、遺伝であり、しかし、鷹も蛙も周りの環境と努力で将来どうにでもなれる可能性はあるのだ、という、まったく非センセーショナルな内容だった。
遺伝子の組み合わせの話は、「ひとりひとりがかけがえのない存在」という主張をはじめてピンとくるものにしてくれた。
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専門的な内容で、ちょっと読みたいだけの自分はかなり読み飛ばしてしまった。もう少しざっくりした内容の本を探すことにする。
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人間の心と行動の遺伝を研究する人間行動遺伝学をわかりやすく解説していた。遺伝学ときくと、農学ないし分子生物学でのシーケンサーを使ったDNAを分析することが頭に浮かぶ。しかし本書は、統計的手法を用いた心理学や教育学のアプローチで書かれていた。この意味で個人的には、遺伝学を少し身近に感じることができた。
双生児をサンプルとし、一卵性と二卵性との間の特徴の異同が分析が主となっている。なおこの前座として、IQの相関係数の中央値が、一卵性双生児、二卵性双生児、きょうだい、親子、親・養子の順で高くなっていることがまず紹介される。
社会的関係性の分析は興味深い。上司からのサポート、自律的な関わり、プレッシャーの側面、親からのあたたかさは遺伝的規定性があるという。
遺伝的な条件を加味した上で、活動の場を与えて発達を促すことが理想だということは発見だった。つまり、教育や環境だけでは解決できない問題を、冷静に整理できるということである。
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やはり内容が多少古いのかもしれない。エピジェネティクスについては、まだ研究が進んでいなかったという事か。
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「教育とは人間の遺伝的制約を「乗り越えて」、環境によって人間の可能性を開花させることではないということだ。」
遺伝の多様性は人間の数よりずっと多い。だから、同じ遺伝的組成を持つ人は2人いない。みんな個性的。
知能に対して、遺伝の貢献度は0.5、環境は0.35、それ以外が0.15。しかし、政治の世界では知能は遺伝しない。
学習方法により特定の技術を促進できる。
とても面白い本だった。