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紙の本
率直に映画への熱い思いを誠実に語りながら大林自身の映画人としての“職業の秘密”を披瀝している。
2001/01/22 18:15
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投稿者:高橋洋一 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」の、“尾道三部作”などで知られる映画監督・大林宣彦の作品は、いつも不思議な現実感と、現実のような虚構がないまぜになり、それが相互に入り組みながら独自の夢のような“大林ワールド”を形作っている。観客はひととき、大林の創りだした魔法のような世界に引き込まれ、登場人物たちと“時”を共有し、再び現実世界へと戻るが、素晴らしい映画の全てがそうであるように、その映像体験によって、観客の内面には、ある懐かしい情感の余韻が刻印される。それが、恐らく、大林映画にあって、人の心を優しく揺さぶる深い魅力となっていると思われる。
大林宣彦著『ぼくの青春映画物語──穏やかな一日を創造するために』は、そうした大林の映像が、どのような過程を経て観客の前に姿を見せるのかを、これから映画作りを志そうとする、あるいは映画好きな著者たちを主な読者として想定して、分かり易く親しみ易い、語りかけるような言葉使いで明らかにしている。率直に、温かい心持ちで映画への熱い思いをさりげなく、誠実に語りながら、大林自身の映画監督としての“職業の秘密”を披瀝している、楽しく、興味深い一冊となっている。
大林は、尊敬する黒沢明監督の「科学文明の進歩だって、人間を本当に幸福にしているかと言えば、怪しい」、映画評論家の淀川長治さんの「二十一世紀は大勝利、でも人間は大敗北。人情もマナーも無くなります」いう言葉を引き、その意味を考えながら、ジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーグらの作品を手掛かりに、映画先進国であるアメリカの“夢”の崩壊と21世紀を目指しての夢の“再生”への道筋を探る。
次いで、いわゆる演技指導などは行わないなど、自らの映画作りで大切にしていることを具体例を挙げて語る。例えば、10代の少女に無理やり演技をさせてみても所詮は素人の学芸会だと言う。「けれども、彼女らは現実に、ひとりの十代の少女として、この世の、いまを生きているのだ。そのいまの、彼女らの生命の輝きを、キャメラが捉え、映画の中に活かすことが出来れば、それは映画自身の、生命の輝きともなるだろう」と大林は考え、それを映画作りに実践する。彼女が演じるのは、ひとりの少女の15歳から18歳までの成長記というとき、それは四季を通じての物語だから、日焼けなどは許されない。撮影以外の時は、メイクさんから貰った大きな麦わら帽を被り、さらに大きな日傘をシェルターとする生活をしなくてはならない。我慢の連続で、少女らしい夏など過ごせはしない。しかし、こうした“虚構”の中で、彼女は着実に成長し、そこにひとつの“真実”が生まれる。大林映画の魅力の秘密は、こうした“虚構の中の真実”に芽生えるのだ。
映画作りを通して人が生きることの意味も考えさせてくれる心温まる内容となっている。 (bk1ブックナビゲーター:高橋洋一/評論家 2001.01.23)
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