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十字架とハーケンクロイツ 反ナチ教会闘争の思想史的研究 みんなのレビュー
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紙の本
<ナチス・ドイツとキリスト教会の闘争の歴史を豊富な資料と鋭い考察で克明にたどった画期的ナチズム論>
2001/01/30 15:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:宇波彰 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、ナチス・ドイツの時代における国家とキリスト教の関係を論じた力作である。
ナチスは、ヒトラーに対する個人的な崇拝をドイツ国民に求め、各家庭にヒトラーの写真を飾ることを強制した。1934年にニュールンベルクで開催されたナチスの党大会は、リーフェンシュタールによって、「意志の勝利」としてして映像化されたが、その冒頭のシーンでは、ヒトラーは飛行機で会場へと向かう。それは「空から降りてくる神」として、ヒトラーをカリスマ化・神格化しようとする試みであったとされている。このように、ヒトラーを「天から遣わされたキリスト教的な指導者」に仕立て上げようとするナチスと、キリスト教会が衝突するのな当然のことであった。「あとがき」のことばをかりるならば、「政治的な救済論を掲げるナチズムは、伝統的な教会の精神的価値に対する正面からの挑戦者として登場した」のである。
評者にとって特に興味深く感じられたのは、『20世紀の神話』の著者で、ナチスのイデオローグであったアルフレート・ローゼンバーク(「意志の勝利」にも姿を見せている)とキリスト教会の側が、論争をするくだりである。それは、国家権力と宗教との闘争の具体的な現れである。もちろん、ナチスの側は最終的には暴力で対応する。つまりアルチュセールのいう「抑圧的国家装置」が作動することになるが、その前段階での「イデオロギー的国家装置」の争奪戦がナチスの御用哲学者と教会のあいだで繰り広げられた。
国家権力と宗教の対立が、ドイツとは異なったかたちで展開されたのが、ノルウェーとデンマークの場合である。この二つの国はいずれもドイツの武力に屈して占領されたが、両国のキリスト教会は、それぞれ独自の仕方でナチスに抵抗した。著者はその抵抗の原理がルターの宗教思想であったことを、さまざまな資料を用いて論証する。著者は、当時ノルウェーのキリスト教会を指導する位置にあったベルグラーフの行動を高く評価するが、ベルグラーフは「ノルウェーにおける占領権力に対する闘争の主要な武器」がルターだと言い切っていたのである。そしてルターの思想の根底にあるのは、「人間に従うよりも神に従うべきである」という使徒の教えであった。ヒトラーの言いなりになるよりも、信仰を守るという鉄則であり、ノルウェーとデンマークのキリスト教会の指導者たちは、この教えに忠実であろうとした。たとえばデンマークでは、キリスト教会の尽力によって多くのユダヤ人がナチスの弾圧から逃れることができた。
「人間に従うよりも神に従う」という原理の実践は、非常な困難を乗り越えなければできるものではない。本書はきわめてアカデミックな論考である。それにもにもかかわらず、評者はその困難な行動を記述した本書を、感動をもって読み終わったのである。 (bk1ブックナビゲーター:宇波彰/明治学院大学教授 2001.02.01)
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