- 現在お取り扱いが
できません - ほしい本に追加する
模倣犯 The copy cat 下 みんなのレビュー
- 宮部 みゆき (著)
- 税込価格:2,090円(19pt)
- 出版社:小学館
- 発売日:2001/03/21
- 発送可能日:購入できません
- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
紙の本
オリジナリティを希求する凡庸な模倣者
2002/01/14 02:06
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
昨年評判をとった本のうち、ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』、三浦雅士『青春の終焉』、清水徹『書物について』の人文系三冊とフィクション系から本書を選んで、年末年始のしずかな時間をこころゆたかにすごすつもりが、結局読了できたのは本書だけ。上下巻あわせて千四百二十二頁(三千五百五十一枚)を丸二日かかって合計十五時間で一気読みした感想は、怒濤、叫喚、重厚にして軽妙、洒脱にして沈痛、ただただその圧倒的な物量(文字量と人物の数)に疲れた。
くっきりと濃く深く内面と外面の両方から丹念に造形された登場人部の一人一人が、それぞれ一つの独立した物語世界の可能性を開示するなかで、ただ一人けっして内側からその心の世界が叙述されることのない「ピース」の存在が際立っている。内面を持たない表情と言動だけの(つまりTV向けの映像だけの)人物、純粋な悪の演出者にしてオリジナリティを希求する凡庸な模倣者(なぜなら「ピース」の独創性は「大衆」の想像力によってあらかじめ夢見られた犯罪の模倣でしかないから)。この前代未聞の人物を描ききるためにこそ、この物量は必要だったのだ。私はそう得心している。
──たとえば、オリジナルなコピーとも言うべき「ピース」の本質に同時に迫っていく、しかしその軌跡はついに交錯することがない二人の登場人物(ジャーナリストとしての真相究明を最終的に断念するルポライターと犯罪捜査の最前線に立つことをあらかじめ放棄したデスク役の巡査部長)の次の述懐。
《この事件で本当にオリジナルなものがあるとしたら、それはたったひとつだけなのかもしれない。犯人たちを動かしていた衝動。彼らが死んだときに、それも一緒に消え去ってしまった。再現不能、再生不可能。あたしたちが──いいえ、みんなと一緒よ、みんなでやってることよなんて顔をするのは卑怯だ──あたし、この前畑滋子がやっているのは、彼らを動かしていた衝動の粗悪な模造品を、誰に何の許可を受けることもなく、ただその模造品がどれだけもっともらしくつくれたかを見せびらかしたいが故に、せっせとこしらえているというだけのことじゃないのか。》(下巻289頁)
《「こう言えばいいかな。今度の犯人たちは、前代未聞のことをやってのけた。連続殺人の実況中継だ。そしてその中継が一番盛り上がってる最中に、不可解な死に方をして謎を残した。こんなべらぼうな筋書きが、ごく普通に暮らしていて、直接的には事件に関係のない人間たちの心のなかに、いったいどんな感情を呼び起こすものなのか──俺はそれを知りたいんだ(略)」/ネット上の未遂報告は、まったくの勘違いかもしれないし、最初から作り話かもしれない。だが、そうだとしても、なぜそんな勘違いや作り話が生まれるのかということを探るのには意味がある。それらの砂上の楼閣は、今回の未曾有の事件を社会が消化してゆくために必要なものであって、だからこそ創り出されたのだろうから。/そして、そういう創作をするエネルギーは、実はほかでもない、犯人たちを動かしてあんな事件を起こさせたエネルギーと根を等しくするものなのではないかと、武上は思うのだ。》(下巻450-451頁)