紙の本
実に重みと薀蓄のある著作で、21世紀に生かされるべき考え方を示す
2006/06/11 21:17
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
建築家にして東大教授を務めていた芦原義信氏の街並みに関する著作である。内容は街並みの美しさに関する考え方を述べたものである。本書には街並みのみならず、西洋と日本の建築の違いなどについても触れられていて、大変読みやすく説得力がある。専門書に近いのだが、構えて読む必要はなく、リラックスして読めるところに特徴がある。それというのも、作者がそれまで集めてきた世界中の写真や絵が豊富に使われているからでもある。
本書はまず、建築の要素である天井、壁、床の話から始まる。人間が定住するための住居は、その気候、風土によって大きく左右されるという。その上で、日本の住居、海外各地の住居について解説してくれる。分かっていたつもりでも再び納得させられる。ここで強調されているのは空間の外部と内部という意識である。
これが街並みの如何に大きく影響していると言うのである。街並みとはよく使われる言葉であるが、街並みは何によって構成されるのか。当然のこととして建築物、街路、広場などである。これらが街並みの要素であるが、この他に手段として掘り下げられた庭(サンクン・ガーデン)、建築物の街路からの見え方などの考察が披露される。
広場は欧州、ことにイタリアの街ではよく見かけるが、わが国ではきわめて乏しい概念である。近年の再開発ではポケット・パークなるものが出現しているが、本書では嚆矢となるニューヨークのパレイ・パークやロックフェラー・センターにあるチャネル・ガーデンを取り上げている。
街並みと直結するものに、街路に並ぶ建物に取り付けられている屋外広告看板(そで看板)がある。著者は銀座通りの街並みを規定する建物輪郭が、これらの広告看板で隠されて、ほとんど見えにくくなっていることを指摘する。これでは建物の輪郭線が見えてこないので、景観の豊かさが失われるという。
最後に作者は、世界の街並みを論評している。イタリアのチステルニーノ、イランの古都イスファハン、インドでル・コルビュジェが設計したチャンディガール、ブラジルのブラジリアなど豊富な例が分析されている。
本書は1979年に発刊されたものなので、もう四半世紀以上が過ぎているが、都市の成り立ちから始まって、様々な都市、建築、街並みに関する著者の思いが伝わってくる。都市や建物の外観をよくしようと主張する著者であるが、チャンディガールやフランスのユニテ・ダビタシオンのように住民の忍耐に依存するようなものは否定している。それにしてもわが国の無秩序な都市の外観(街並み)を何とか改善しようという意欲が溢れている。銀座通りや日比谷公園の具体的な提案もある。
潤いのある街に住みたいものだが、居住者自身が意思を示し行動しなければならない。自治体だけを当てにしていたのでは、容易には実現しないであろう。著者は残念ながら3年前に亡くなったが、建築家からのこうした継続的な提案が人々を動かしていくのだと思う。
紙の本
疑問の点はあるが興味はつきない
2008/07/09 20:26
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Kana - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本の建物は靴をぬいで内部にはいるというところから,西欧の建築や街並みとのおおきなちがいが生じていると著者はいう.また,日本の建築が柱でささえられるのに対して西欧の建築が壁でささえられてきたことも対比している.靴をぬぐ習慣はいまもかわっていないが,日本の住宅もツーバイフォーのように壁でささえて厚い断熱材や二重窓などで外部から遮断するようになってきている.それをかんがえると,はたしてこのちがいが今後もうけつがれていくのかどうかは疑問におもえてくる.
著者はまた,ル・コルビュジエのような近代建築家が設計した都市は建築間の距離がとおいため徒歩には適さないことを指摘している.その例として,くるまをもたないひとがおおいインドのチャンディガールをあげている.著者はコルビュジエが現場にいくことをあまりこのまなかったことを指摘しているが,そのために人々の生活にあわない都市空間がつくられたのだろう.それでいて「今から数百年たった将来,もし今日の建築が存在するとしたら,おそらくコルビュジエの建築だけだろう」とも書いているが,現場をみずに設計した建築が将来は生活にあうようになるとはかんがえられないから,なぜコルビュジエの建築がのこるのか,わからない.
いろいろ疑問の点はあるが,著者の指摘に興味はつきない.
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もはや古典的名著となった1冊。
特に、p.57の「街路の構成」におけるゲシュタルト心理学を応用した文化的比較に驚嘆した。
都市・空間・街路に心理学を応用できる可能性を示した重要な1冊といえるだろう。
文庫本も出ているので、そちらの方が入手しやすい。
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1979年著...と古いのに、読んでいて未だにハッとさせられることが多い本。
内部と外部空間の考察、建築輪郭線の考察、西欧諸都市の評価、ル・コルビジェの評価と考察など。
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見たことある文面だと思ったら、受験国語なんかに出てきたモノだった。日本人の考える「内」と「外」のとらえ方を軸に、諸都市の特性を論じる。日本の都市のあり方について、一石を投じている。深い含蓄がキラリと光る名作です。
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芦原先生の議論には同意しかねるけど、
街並みについて語られた本の中では最上。
続編も悪くない。同意しかねるけど。
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留学中にアーバンのスタジオで悩み、思考方法の違いに悩んでいたとき、
’街並みの美学’続・街並みの美学’を読んだらすっきり解けたように思います。
変更後の建築のスタジオでフランス人のパートナーとディスカッションする際も、
その違いを理解して進められるようになったのはこの本を読んで思考の整理ができたからだと思います。
もっと早く読んでおくべきでした。
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建築に関する16章という本の中で知った。
建築という実態とその外にある道路や外部空間との関係について考察を行っている。
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どういう風に建物が並んでいると美しいのか、D/Hの関係、サンクンガーデン、第一次境界線、入り隅等々の説明が書かれている。著者が分かりやすく書いていてくれているのでとても読みやすかったし、理解しやすかった。ただ、パリやローマの話になると行ったことないとイメージに苦しむ気がする。実際イタリアの話の部分は、イメージするのに苦労した。
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古本屋で拝見し気になっていたが、我慢できずに購入。
「街並」を考える上で参考になった。
D/H比率、壁、通り…
「内部」と「外部」の空間領域をはっきり持つこと
その2つの領域について空間を同視して考えられること、統一して考えられること
そして。
「街並みの美学」を提唱するのは、根底において人間のためのものであり、人間の存在を肯定した実践の書物であるということ
気候・風土、文化が違うと街並みも変わってくる。
世界を飛び回っていろいろな街を見たくなってしまった。
続編もあるらしいので、そちらも読まないと…
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日本は図と地の境が曖昧である。街並みに魅力がある街は一見外部でもそもそも家の中まで外的秩序に従う。日本は。外的秩序をなす外部空間に魅力が少ない、それはとりもなおさず日本人の習性として外部を外部として認識しているから。街並みをどう考えるべきか、個としての建築ではなく全体としての街。
大いに参考になった。続編もあるらしいので読む。
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【再読】
空間の考察、日本と欧米の比較。
「うち・そと」を切り口に、日本と欧米の街並みの違いを示す。
素人にも議論の切り口が分かりやすく、建築の教科書的書物となってる(らしい)というのも頷ける。
A)日本の風土が街並み形成にそぐわない建築につながった
↓
B)生活の西洋化や建築素材の変化(コンクリート)がある現状、街並みも西洋化していかないといけない。
基本的に筆者は欧米の街並み礼讃で、多少バランス取る為にいままでの日本の街並みをA)を理由にしょうがないと認めている(正当化してあげている)のだが、今後はとなると、結局→B)にすべしという展開ばかりという点に違和感。
都市計画というよりは、建築家としての視点なのでそれも已む無しか。
違和感掘り下げて考えたい。
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日本には街並みが成立しない。理由は素足で家に上がるから。この一見繋がらない論旨、読み込むと納得。著者の造詣の深さに感服。思考、文化に関わる根深い問題でもあるだけに解決は難しいのだと痛感。建物だけ何とかすれば良いとは安易に思ってはいなかったが。
数十年前に書かれたこの本で提起され建築その他多くの関係者が読んだであろうが、今の日本の街並みは洗練されたのだろうか。。と少し憂う。
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P31 気候条件、入手できる建築資材の種類→
日本(湿潤):「壁」否定
西欧(乾燥):「壁」肯定
→街並みの形成にも強い影響
P60
田園都市風の前庭のある街並み(アメリカ郊外):外的秩序が内的秩序に浸透
ギリシャやイタリアの街並み:内的秩序が外的秩序に浸透
わが国の街並み:道路と内的空間との浸透を遮断する塀→無表情で単調
P61 街並みとは本来、共通性(建築技術や工法)の上に成立しているのであって、それによって街路や地域に対する強い愛着心が生まれる。
P64 スラムには二つの種類がある
①フィジカル・スラム:老朽、過密や上下水道、特に排水のような都市施設が不十分であるため、物理的に不衛生、不健康な都市環境
②ソシアル・スラム:住居や都市施設等は完備しているのにもかかわらず、近隣に対する無関心、疎外感から非行、性犯罪等の多発する都市環境
J・ジェコブス:用途のある程度の混在を主張、ストリートウォッチャーの存在が大切
P72 イタリアの街路と建物の関係は、街路が十分にゲシュタルト心理学でいう「図」となりうる要素をもっている→街路が同時に街の主役として重要な役割を演ずることを意味するのであり、街路の空間に生活の一部が浸透している
P78 西欧の建築に対してわが国の住宅はきわめて低く狭いことが、同じ大きさの自動車や電車の出現によってはっきりとする。
P82 広場が広場として成立するための条件
①広場の境界線がはっきりしていて「図」となりうること
②空間の閉鎖条件を良くするような「入り隅み」のコーナーをもって「図」となりやすいこと
③境界まで舗装が完備していて空間領域が明瞭で「図」となりやすいこと
④周囲の建築にある種の統一と調和があり、D/Hがよい比率をもっていること
P102 敷地の一部を高くする→「出隅み」の空間、低くする→「図」としてのゲシュタルト質を形成し、屋外でありながら充実した室内のように「入り隅み」空間をつくる=サンクンガーデン
ロックフェラーセンターが秀逸!!
P105 自己完結的に内部に収斂した公園:NY(セントラルパーク)、パリ(ブーローニュの森林公園)、ローマ(ボルゲーゼ公園)のように、自然景観を中心としてきわめて広い敷地にまたがった自然公園としてそれ自身が独立している場合に適切な手法。日比谷公園は小さすぎる(南北500m×東西290m、一部330m)し、都市中の都市という位置から言っても孤立することは不適当。
P109 都心の公園や外部空間の重要な考え方
①インメディアシー:「視覚的に連帯していること」、「近くにあること」、「すぐに手のとどくこと」
②ヴェスト・ポケット・パーク(vest-pocket park):小さい公園
P121
「第一次輪郭線」:西欧、建築本来の外観を決定している形態
「第二次輪郭線」:アジア、建築の外壁以外の突出物や一時的な附加物による形態
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久しぶりに読んだ!
自分が考えついたと思ってたこと、ほとんどこの中にあったじゃんと気づくw
「小さな空間」が好き。
内部に秩序を持つということは外部に無関心ということ。
境界の内部に異なる意見がないと言う意味での境界はもはや崩壊。新しい意味での境界の設定が必要。個人個人が独立できる新しい住まいの形式を作り出す事が必要。
詩人はつねに小さなものの中に大きなものを読み取ろうとする。
小さな空間
個人的、静寂、創造的、詩的、人間的。