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白亜紀に夜がくる 恐竜の絶滅と現代地質学 みんなのレビュー
- ジェームズ・ローレンス・パウエル (著), 寺嶋 英志 (訳), 瀬戸口 烈司 (訳)
- 税込価格:3,080円(28pt)
- 出版社:青土社
- 発行年月:2001.8
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紙の本
「〈たわごと〉はいかにして〈定説〉となったか」
2010/01/26 20:42
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る
フォーティの「生命40億年全史」を読んでいてとても興味深かった部分の一つは、恐竜の絶滅が隕石衝突によるものだという現在すでに定説となっている説が、新説として提唱されたときのことを語ったところだった。
この説が79年に登場した後、80年代を通じての大論争となり、応酬は次第に過激になり、ついには個人攻撃をも含んだ熾烈なものにまで発展した。隕石衝突説、というのはそれほどまでに地質学界に衝撃をもたらしたものだった。
いまから考えると、なぜそれほど激越な反応が現れたのか分かりづらい。これを理解するには、近代地質学の成立にかんする事情を考える必要がある。
それまでの地質学では、たとえば聖書による創造の記述通りに地球の歴史を解釈しようとするものであるとか、様々な地質学的イベントをご都合主義的な天変地異によって説明したりするなど、恣意性を免れていないものが多かったという。そうした状況を是正するためにチャールズ・ライエルは、過去の地質学的現象は現在観察できる地質学的現象と同一であり、変化は漸進的に起こった、という斉一説を唱えた。ライエルは近代地質学の父とも呼ばれ、この原理は地質学が科学として成立するための要諦となった。
つまり、天変地異によって地質学的現象を解釈するのを禁じることが近代地質学のそもそもの前提だったので、隕石衝突という天変地異で恐竜の絶滅を説明する、ということは、地質学的にはまず真っ先に却下すべき主張ということになる。
しかも、息子で地質学者のウォルターも一緒だったとはいえ、提唱したのはルイス・アルヴァレスというノーベル賞を受賞した物理学者だった。専門外の人間による地質学そのものの前提に挑戦するかのごとき新説の登場は、当然のごとく賛否両論を巻き起こした。
この新説は、息子ウォルターが地球の地磁気逆転現象の調査のために行っていた研究から派生した。地層の時間経過を正確に測定するため、貴金属を用いた年代決定法を模索していたとき、イリジウムという地球には希な物質を用いてそれを行おうとした。そして、当該地層におけるイリジウム濃度を検出したところ、恐竜の絶滅した白亜紀と第三紀の境界、K-T境界において、突然のイリジウム濃度の増大(イリジウム・スパイク)が見つかった。イリジウムは地球には希だが、隕石には多量に含まれている。
アルヴァレス親子は、境界とイリジウム・スパイク(漸進的な増大のピーク、ではなく、突然の増大を指してスパイクと呼ぶ)の一致は偶然ではありえず、このことは恐竜の絶滅の謎を解く鍵になるのではないかと推測した。
で、それが新説として「サイエンス」に掲載され、かまびすしい論争となるわけだ。発見に至る経緯も興味深いけれど、地質学はおろか、古生物学、天文学、さまざまな学者たちが、肯定のためであれ、否定のためであれ、綿密な調査を行い、何度も否定派からの批判を受けたために、より詳細かつ厳密な調査をすることとなり、結果としてより確実な研究結果をもたらすことになるという科学的議論の好循環もまた面白い。
著者は、この説がもたらした学際的な動きは、「科学史上きわめてまれ」なものだと言うほど大規模なものだった。
この本は、そうした論争の経緯をまとめつつ、アルヴァレス親子による地質学を革新する新説が、いかにして発想され、それがまたいかにして定説としての確たる土台を築くまでに至ったのかを詳細に述べていて、きわめて興味深い科学的発見のドキュメントとなっている。
できるだけ詳細に、そして一般向けに分かりやすく書かれていて、とても面白い本だ。帯には、「〈たわごと〉はいかにして〈定説〉となったか」と書かれているとおり、学問的には論外とされた説が、みるみる証拠を固めていき、今知られるような定説の地位を得ていく、エキサイティングなサクセスストーリーでもある。
また、広島に原爆を落とした爆撃機と一緒に飛んでいた機から、原爆投下を目の当たりにした人物でもあるルイス・アルヴァレスという人物についての記述が興味深い。なお、ルイスはSF作家アーサー・C・クラークの「太陽系最後の日」所収のエッセイに、地上管制着陸誘導装置の発明者として、そして友人として出てくる。
紙の本
偶然がもたらしたもの
2002/07/03 14:57
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、恐竜絶滅の原因が巨大隕石の地球への衝突であるという学説が、さまざまな論争を経て、最終的に定説として認められるようになった過程を、謎解きのような感覚で自然科学の素人にもわかりやすく、論じている。
最初に隕石衝突説をかかげたのは、物理学者ルイス=アルヴァレスとその息子で地質学者のウォルター=アルヴァレスであった。彼らは1980年代に、白亜紀と第三紀の地層境界線(K−T境界線)に含まれるイリジウムの異常に高い値は、直径10km以上の巨大隕石の衝突が原因であり、衝突は地球の地質、気候に大変動をもたらし、恐竜を含む動植物の大量絶滅を引き起こしたという大胆な仮説を立てる。多くの証拠がこの仮説の正しさを裏づけていたが、当時の地質学界の反応は、冷ややかどころか、戦闘的であった。
火山活動、侵食堆積運動のような恒常的現象を研究対象にしてきた地質学者たちにとって、隕石の衝突という偶然的事件が地球の歴史を大きく変えるというのは、決して認めることのできない考えであった。彼らはK‐T境界線でのイリジウム異常値も火山活動がその原因であると考え、隕石衝突説は頭ごなしに否定をする。彼らはまた、隕石の衝突が事実であったとしても、それが恐竜絶滅の原因となったとはいえず、むしろ恐竜はそれ以前に絶滅の方向に向かっていたのだと主張する。
このような反論に対して、アルヴァレス親子とその支持者たちは、丹念な調査研究と議論を続けながら、ひとつひとつ反証をおこなってゆき、ついに隕石衝突説の正しさを全面的に証明する。
本書を読んでもっとも印象的だったのは、隕石衝突という偶然の出来事が、それまで1億年以上繁栄してきた恐竜を絶滅させ、その後の生物の歴史を完全に塗り変えてしまった事実である。われわれ人間も巨大隕石衝突というたった一度の偶然的事件がなければ、存在しなかったであろうと考えると、生物の進化における必然性や法則とは何だろうと思ってしまう。
また本書における隕石落下直後の地球の状況を描写するくだりは、さながら地獄絵を見るようであるが、そんな状況でも恐竜以外の生物が多く生き残り、繁殖をしたという事実は、生物種の底知れない強さというものを実感させてくれ、感動的でさえある。
紙の本
「暗黒」世界到来の「偶然」と「必然」に思いを馳せる書
2019/06/18 21:50
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:永遠のチャレンジャー - この投稿者のレビュー一覧を見る
子供たちの神秘のアイドル「恐竜」が絶滅した原因は何かという難問に驚きの回答を与えたアルヴァレス父子の「小惑星衝突説」を、地質学者である著者は詳細に検証します。
科学者たち(地質学者、古生物学者、天文学者、生物学者、化学者、気象学者、統計学者、地球磁気学者、そして物理学者など)が喧々諤々の論争を繰り広げ、新たな証拠を発見してゆく道程は第一級のミステリーです。
著者は、彼らの科学研究が、優越的階層構造(数学>物理学>化学>天文学>地質学>古生物学>生物学>心理学>社会学)や単純化された数式で表される法則発見の「大望」によるものではなく、「象牙の塔」(大学や研究機関)以外の「地面に掘ったトレンチ(溝)」の中で泥臭くおこなわれたと指摘します。
そして、恐竜絶滅原因を探る学問領域での既成概念やドグマ(教条)、偏見、経歴などに縁遠く、閃きの天才物理学者であった父ルイス・アルヴァレスがホームズ探偵役を、地質学者の息子ウォルター・アルヴァレスが経験豊富で慎重なワトソン役を互いに演じ、「偶然がもたらす幸運」を見逃さなかったことがこの謎解き成功の鍵だというのです。
科学者たちは手分けして、イリジウム濃度、アンモナイトや有孔虫の化石記録、衝突クレーター痕などの証拠を見出し、あるいは反論否定し、想像を超える巨大地震や津波を引き起こす大衝撃、地球規模の暗黒と凍結、酸性雨、オゾン層破壊や温室効果による気候激変をもたらした「犯人」を追い続けます。
地道に収集されたデータが統計グラフ化された際に、ペルム紀から三畳紀、ジュラ紀、白亜紀、第三紀にかけて、2600万年毎の絶滅を示す「周期性」が導き出された事実には、思わず戦慄を覚えます。
これは太陽系の銀河面交差(横断)の周期と等しく、必然的に小惑星帯を通過する地球が小惑星と衝突しやすくなることを天文学の成果は教えてくれます。衝突隕石が地殻を吹き飛ばし、マントルの圧力を減じて玄武岩を噴出させ、地球のNS磁極を逆転させてしまうと考えれば筋が通る訳です。
恐竜などの絶滅種と生命を繋いだ哺乳類を分け隔てる阿鼻叫喚の「暗黒」世界到来の「偶然」と「必然」に、本書読者は新たな思いを馳せることとなります。
紙の本
従来のパラダイムに固執する人間の悲哀
2001/09/03 00:14
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投稿者:西川大亮 - この投稿者のレビュー一覧を見る
6500万年前、それまで繁栄を極めた恐竜が、突如絶滅した。原因は、ユカタン半島に衝突した直径10Kmの隕石が引き起こした大爆発と、その後に続いた大規模な環境破壊である——今ではおなじみになった隕石衝突説、本書はこの提唱から、定説に至るまでの流れを綴ったドキュメントだ。当初、隕石衝突説は当時の地質学におけるパラダイム(斉一説)に反していたため、地質学者からの猛攻撃を受けた。一つの革命的学説が認められるまでの生々しいプロセスを、読者は追体験できる。
きっかけは、白亜紀と第三紀(6500万年〜)の間に、高濃度のイリジウムを含んだ薄い層が、離れた2ヶ所で観測されたことだった。提唱者であるアルヴァレス親子は、このイリジウムが隕石起源であり、「衝突の冬」が恐竜の大絶滅を招いた、と主張したのだ。
反対する地質学者達の攻撃は執拗だった。まずこのイリジウムが隕石起源であることを認めず、ついで発見された直径250kmのクレータの信憑性を疑い、さらには化石の出現頻度から、恐竜は徐々に滅亡した、とまで主張した。どうあっても認めたくない、という熱意(?)が、行間から伝わってくる。
賛成派はこれらの疑問や反論に対して、一つ一つ証拠を集め丁寧に反論していく。反対派の主張には、明らかな言いがかりや我田引水があるので、よい意味で、勧善懲悪の物語を読んでいるような気にもさせられる。
部外者の目から見ると、隕石による恐竜の絶滅が、どうしてこれほどまでに非難を浴びるのかよくわからないが、そこが「常識」の怖さ、なのだろう。提唱者の一人が古生物・地質学者ではなく、物理学者であったことも(そして彼の人柄も)影響していたかもしれない。
反対派の滑稽なまでの反駁は、従来のパラダイムに固執する人間の悲哀を感じる。評者は素直に笑えなかった。明日は我が身、かもしれないからだ。
(西川大亮/北海道大学大学院 工学研究科 博士課程)
目次
まえがき 8
プロローグ 最大のミステリー 12
I 青天の霹靂
1 アルヴァレスの発見 28
2 過去は現在への鍵である 59
3 空から降る石 80
II K−T衝突はあったか?
4 裁かれる学説 110
5 反撃 130
6 火山 159
7 クレーターを捕まえる 176
III 衝突がK−T大量絶滅の原因か?
8 化石記録からの手がかり 220
9「めそめそとか、パーンとか?」 245
10 恐竜の死 270
IV 地質学の変容
11 全ての大絶滅は衝突が原因か? 306
12 絶滅とクレーター形成は周期的か? 330
13 地質学の黄金時代 349
訳者あとがき 367
参考文献 vii
索引 i
(原題)
Night Comes to the Cretaceous: Dinosaur Extinction and the Transformation of Modern Geology
<関連書籍>
『絶滅のクレーター』(ウォルター・アルヴァレズ/新評論)
『再現!巨大隕石衝突 6500万年前の謎を解く』(松井孝典/岩波書店)
『小惑星衝突』(日本スペースガード協会/ニュートンプレス)
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