紙の本
「ほんとうの」という言葉、そして「空色」という言葉に込められた、子ども時代が過ぎ行くころの甘くしびれるような痛み。ファンタジーの素敵を宿すハンガリーの名作。
2005/01/21 10:54
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
子どもの本を何となく卒業したころ、新潮文庫をはじめとする世界文学の名作にすっと移行できたのは岩波少年文庫のおかげではなかったか。シリーズ巻すべてに、創刊50周年(2000年)の新版発足に当たっての意気込みが付されている。改めて読んでみれば「歳月を経てなおその価値を減ぜず、国境を越えて人びとの生きる糧となってきた書物」という記述——それは求める本の理想にぴたり重なる。他社で長らく品切れがつづいていた本書も、いかにもその説明にふさわしい名作だ。
少年文庫シリーズに所収されたからこそ出会えた1冊であり、やはりシリーズ全巻制覇を目指すぐらいのつもりで読みつづけていこうかという気にさせられる。このシリーズに収められていれば間違いはないというブランドがすっかり少なくなった昨今の出版界においては尚さらのこと。
暮らしが貧しいから絵が好きなのに自分の絵の具が買ってもらえないというのは、今の子どもには分かりにくい状態だろうが、主人公のフェルコーはそのような境涯。お金持ちの少年から借りた絵の具のうち、空の色を描くのに使うつもりだった藍色(プロシアン・ブルー)のチューブが目を離したすきになくなってしまう。フェルコーを窮地から救い出してくれたのは用務員のおじさん。町外れの野原に咲き乱れる花で「ほんとうの空色」絵の具が作れることを教えてくれる。「ほんとうの」という言葉が鍵だ。
「空の色を描いてみて」と言われれば、就園前のおさなごでも、青いクレヨンを握って白い紙を塗りつぶそうとする。では、「なぜ空は青いのか」と問えば「太陽光が大気圏に達すると、空気の分子にぶつかって散乱を起こす。光のスペクトルのうち波長の短い青色が地上近くに散らばり、可視光線として地上にいる人間の目に映る。空の色は元々は宇宙の色、すなわち暗闇の色」だか何だか、科学知識のある人は説明してくれるに違いない。
この本で「ほんとうの」は科学知識として述べられはしないが、空は青く光るものとしてだけ登場するのではない。最初は青い花で作ったフェルコーの空色は確かに青い色だったのだが、ほんとうの空のように、常に一様ではなく変化するものだった。太陽光が雲にさえぎられてしまうときには、それなりの色になってしまう。ほんとうの空に実に忠実な色なのである。
フェルコーがこのような珍しい絵の具を持っていることは本人だけの秘密にしておければよかったのだが、別の人間に知られることによって、いたずらに使われてしまう。いたずらがもたらす意外で不思議な事件、どたばた騒動が面白く展開していく。にぎやかな物語ではあるのだが、それがしっとりした幻想性と同居しているのが、価値を減じない本書の魅力だろうか。
ファンタジーを身のなかに取り込んで生きることの素敵を結晶させたのが最後の3ページ。そこには、絵の具や少年時代を通過するフェルコーの姿が目の覚めるような「青」で描かれている。それはほんとうの「青」、つまり彼自身の「青春」時代へ移行していくことの暗示となっており、甘い痛みとしびれを残す結びだ。
作者は単なる児童文学作家ではなく、ルカーチ、マンハイム、バルトーク、ゴダーイなどそうそうたる文化人や芸術家と親交深かった作家であり、ハンガリー映画界にとって重要な1人であったということを加えておきたい。
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「ほんとうの空色」とは、綺麗な青い色という意味ではなく、「現実の空」の色。この絵の具を塗ると、曇りの空、雨の空、晴れた日の夜の空、と変わっていく。
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サンリオ・ギフト文庫
訳=北村順治
絵=大橋歩
文庫サイズの赤いハードカバーでフェルコはおかっぱ。
小学生の頃から好きな本でした。
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わたしは児童文学作家志望だが、こんな作品が書けたらどんなにいいだろうと思う。子供たちが自然体で描かれていて、冒険は良質の刺激に満ちている。背景となる大人の世界は、よく描きこまれている。最後まで正体のわからない用務員のおじさんがまたいい。訳も、とてもよい。
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これも姉の本でした。ダーシェンカと同じ児童文学全集の中の一つのお話しとして読みました。小学5・6年生の時だったかと思います。
貧しい少年が大事に大事にしていた手作りの空色の絵の具が起こす奇跡と、少年が大人になっていくことへの一抹の寂しさがよく書かれていると思います。
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こどもの頃の愛読書を再読してみよう!第1弾です。
このお話、やはりラストが素敵です。
ネタバレになってしまいますが、「半ズボンをはかなくなる」というのは、男の子なら誰もが経験する通過儀礼なのではないでしょうか。
‘ほんとうの空色’(=半ズボン)を手離す代わりに、主人公はガールフレンドのジュジを得る(=大人に向かって一歩前進)。
オチの構図がシンプルで分かりやすいのも、いいものだなと思いました。
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物語冒頭では貧しい少年の描写から始まっているので、昔よく読んだタイプの「貧困の中で幸せを見つける」というプロットの物語なのかなぁ・・・・と思い、中盤で野原の花の汁でつくった青い絵の具が出てくると、いわゆる手仕事世界系のほのぼの文学かなぁ・・・・と思い、その絵の具で描かれた絵の空にほんものの太陽や月や星が輝きだすとそのあまりのシュールさに唖然とし、と、同時にこの物語がどこへ向かって語られているのかチンプンカンプンに・・・・ ^^; 描写は美しいんだけど、いったいこの物語のテーマは何なんだろう????ってね。
全てが KiKi の中で解決したのは最後も最後、ラスト2ページでした。
少年の夢を広げた「ほんとうの空色」で彩られた絵や道具箱のふたや、そのしみを残した半ズボンに拘り続け、それを宝物のように大切にしてきたフェルコーが、かつての秘密の仲間の1人であり、彼にとって初めての異性でもあるジュジの目の中に、これこそ「ほんとうの空色」を見つけ出し、と、同時に少年時代の象徴でもある半ズボンに別れを告げるというプロットに思わず舌を巻きました。 う~ん、これは深い!!
(全文はブログにて)
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絵が上手なファルコーは、貧しくて自分の絵の具をもっていなかったので、貸してくれた子だけに絵を描いてあげていた。ある日、借りた中から、あい色の絵の具をなくしてしまう。不思議な用務員さんがお昼の鐘がなると一分だけ咲くという野の青い花をつんで、絵の具にしたらいいと教えてくれた。それは「ほんとうの空色」で、太陽や月・星が輝き出し…不思議な出来事の始まりだった。
ひみつのなかまと、ファルコー自身の不思議な体験。
素晴らしく貴重な空色も冒険と共になくなり、思いがけず、最後に残ったひとかけらの「ほんとうの空色」もやがて…
絵画的で美しい描写や、少年が大人になっていく通過儀礼のような象徴的なラストが印象に残る作品。
作者はハンガリーの多才な作家で、オペラの「青ひげ公」の台本を書いたり、映画人としても活躍したそうだ。
蛇足だけど、ねこのツィンツも面白い存在。(文庫“青い猫”としてもね、笑) そして、大社玲子さんの挿絵も好き。
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児童文学。野花を搾り取って出た汁を絵の具にして空を書いたら、天気に応じて絵の中で太陽が照り、雨を降らせ…。素敵なお話です。
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相変わらず感想文が下手なので読むかたは、このコメントは
ネタばれになっちゃうのかな・・・でもとてもうれしかったので
感想を書かせてください。
※※※
ハンガリーの世界観がじぶんのすきな世界観であることに
あらためて確信して ほうっ。。。と うれしいため息がもれそうだった。
日の昇る時間の屋車菊の花畑で 咲いているほんの数分の間に花を摘む。
どきどきとさせるこのシチュエーションに胸が高鳴る。
急いで想いを募らせ、花束をしぼる。
お母さんが雑巾をしぼるのを思い出しながら、
ギュッギュッとしぼる。
花束から青の色、
”ほんとうの空色”がうまれる
なんてすてきな話なんだろう。
”ほんとうの空色”をめぐって、絵具のほとんどを
いじめっこにとられてしまうんだけれど
ほんの少し、・・・ 残ったそのほんの少しにロマンを残している。
くもりの空も、雨の空も 晴れの空も映し出す その空は
とても正直で だれもが知る空を そこに描いて映し出しているだけなんだけど、でもその”特別”に憧れを抱いてしまう。
そしてまた、この話のなかでもうひとつ
半ズボンの少年が恋をして、
”ほんとうの空色”の秘密を そっと大事にしながら
また、すこし大人になっていく
こんなところも魅力のひとつかもしれない
ちょっとしたロマンと、 ちょっとしたユーモア
こどものころからある本を またわたしは繋いでいけるかな
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フェルコーが不思議な用務員さんからもらった、塗ると本物の空がそこに現れる絵の具。
雨の日には雨がふり、夜になったら星が出る。
いじめっこに絵の具をとられたり、いろいろあって最終的に空は
フェルコーの普段着の半ズボンの内側にしか存在しなくなってしまうんだけど、
それを、好きな女の子の「子供の服は卒業しましょうよ」の一言であっさりと脱いでしまうところが良い。
魔法の絵の具よりも素敵な彼女を見つけ、大人になるファルコー。
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心あたたまる本。律儀で優しいフェルコーにウルッときてしまう。
最後にそいうことか、とわかったと時はとても感動した。
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学習という月刊誌の付録で小学生の時(数十年前)に読んで深く心に残っていた。絵から太陽が照りつけたり、雨が降ったりというところと用務員が印象に残っていた。でも、一番心に残ったのは最後の8行。今読んでもやっぱりいい。
“日曜日の午後”と締めくくるのは余韻を深めた。
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主人公のちょっとした冒険。
主人公と同じぐらいの年の子が読むともっと楽しいんじゃないかと思う。ただ、最後の成長してからの部分に関しては大人の方が理解できるかな。
年齢とともに共感しやすいことが変わっていき、それに合わせて読む本が変わっていくんだな、ということを感じた一冊。
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小さなことが、大きなストーリーを持っていると感じた一冊。
私から見る彼は、とてもキラキラしていた
それは「ほんとうの空色」の魔法だったのかもしれない。
それは、小さな嘘を「本当」にしようという思いから始まった
子供の頃の忘れてしまっていた思い出
大切にしていたものに気づかされました。