紙の本
英国人に「うどん」がわかるのだろうか?
2014/09/28 09:48
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:wayway - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、著者が日本生まれであり、内容も日本についてのものであるこ
とから、日本の作品と思われるが、間違いなく英国で英語で発売され、
それが和訳されて我々が手にしていることになる。
なんと、英国人に長崎は分かるとしても、「うどん」がわかるのだろうか?
とは、余りにも細かいところにこだわりすぎているのだろうか?
しかし、そう私が思うくらいに日本の小説ぽかったし、主人公と佐知子さんの
会話、あるいか主人公と娘ニキのやりとり(会話)が中心の小説を、果たして
英国人がどう評価するのだろうか(ちゃんと賞まで貰っているのだから心配
しなくてもよいのだが・・・)と思ってしまった。
この引き込まれた感は、私の中では漱石の作品を読んだときに感じたものに
似ているのだが、作者はその辺も意識したりしているのだろうか?
戦争。被爆体験。日本から英国への移住の憂鬱感。
二郎。緒方さん。佐知子さん。万里子ちゃん。藤原さん。
松田重夫。ニキに景子。いまの夫。
それぞれが何を意図するのかは、いまは分からないが何度か読んだときに
分かる予感がある。(何度も読み返したくなるということ)
兎にも角にも、満足度の高い1冊である。
紙の本
本当につらい思い出は胸にしまって
2002/05/28 07:24
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:もぐらもち - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公、悦子の家に二人目の娘ニキが泊まりに来ている。そして、悦子の長崎時代の回想が始まる。前夫の父親、緒方さんのこと。一人目の娘、景子がお腹にいている時に出逢った親子の話。
長崎時代の夫との離婚、アメリカ人の夫との再婚そして渡米、そして、娘景子の自殺。そんな事実があったことが分かるのだが、そのことについては悦子は何も語らない。ただあるのは、長崎時代の回想だけ。悦子の気持ちは読者が推測するしかない。不思議な余韻の残る本です。
紙の本
義父は結構面倒くさい人
2020/08/29 23:12
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
この作品はイシグロ氏の初長編で王立文学協会賞を受賞している。これまでに読んだ順番からすると「わたしを離さないで」「日の名残り」「忘れられた巨人」と読んできて4作品目なのだが、近未来SF、純文学、ファンタジーといろいろなジャンルの小説を書ける人なのだと思っていたのだが、この初めての長編ではルーツである日本(長崎)を舞台にしていたのか。どうして日本人の夫と結ばれたのか、そして義父とはどういう関係にあったのか、そして夫とはどうして離婚したのか、そしてイギリス人の夫とはどうして知り合ったのか、そして・・・・と文章化されていない疑問がいくつもあるのだが、それは読者の想像にまかせるということなのだと勝手に解釈して読み進めた。特に印象に残ったのは謎の多い友人・佐知子が思っていたほど馬鹿な女でなかったこと、義父の緒方さんが(私が)嫌な人だったこと。
電子書籍
翻訳の問題
2019/04/30 15:57
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投稿者:林濤 - この投稿者のレビュー一覧を見る
決して誤訳ではない。しかし何かが違う。
以前購入したこの本を原文片手に読み返している。のっけから仰天した。
訳文では、「ニキ、」で始まる冒頭の一文を読むと、これはニキという人物に語りかけているのだと錯覚してしまう可能性がある。勿論そうっではなく、読み進めれば、語り手の下に娘の名前がニキなのだとはっきり分かる。しかし原文では、”Niki,the name we fainally gave my younger daughter, is not an abbreviation.”となっており、Niki = 下の娘の名前、ということが最初から明白で誤解の余地がない。
訳者が「私たちが最終的に私の下の娘に付けた名前は…」と書かなかったのは、日本語の文章としてはくどくてもたついてしまい、読者の読む気を削ぐだろうと懸念したからに違いない。
ノーベル賞作家の作品で、今なら何か国語かのテキストが手に入るだろう。10連休等でたっぷり時間があるのなら、比較対照しながら読むというのも、贅沢な楽しみかもしれない。
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内容は、大戦後、イギリスに暮らす女性の、娘(ニキ)との会話や、日本での生活の回想。女性の心情も、彼女に何が起きたのかも、戦後の日本に対しての考えも、読んだからといって何も分かりません。ただ、それがまた、人づてに話を聞いているような、ある種のリアリティを生んでいるようにも思います。何かが問題な気がするけど、それが何だか分からない。何をすべきだった気もするけど何をすべきか分からない。他人の心情は(主人公の心情すら)読者も想像でしか分かり得ない書き方は、まさに私達の日常で、どんなことも、忘れることはなくても、人生の山も谷も時間に隠れてただ過ぎ去ったこととなるのだなぁ、と。読後感は"日の名残り"と通じるものがあって、カズオ イシグロさんの文章力に敬服します。
話に起承転結を求める人には向きませんが、内面的で心に残る話が好きな人にはお勧め。
作者は、確かハーフで、日本にいたのは五歳までらしいです。幼少の記憶というのは曖昧なものなので、主人公たちの台詞は外人が考えた日本的会話、だそうですが、違和感は感じませんでしたね。
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終戦後の日本.
いろんな価値観が急激に変わったとき.
その流れに乗っていく人と,古い価値観を持ち続ける人.
成功する人,失敗する人.
対照的な人たちが登場します.
また,そうした転換期の女性の難しい立場がよく伝わってきました.
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時代の変化と価値観の変化。新旧上書きされるもの、繰り返し。思い出しながら描くとこんな感じになるのか。長崎弁で訳してくれればよかったのに。
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イシグロの実質的なデビュー作。たんたんとした雰囲気や乾いた会話に、小津安二郎の映画を思わせたが(イシグロ自身も小津作品を観たらしい)、それは池澤夏樹氏も解説で触れていた。訳はやや古臭い。改題前は『女たちの遠い夏』。このタイトルの方が好み。本作品以前の短編もぜひ読んでみたい。
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夏に読み始めたのだけれども、読了までにけっこう時間がかかった…。淡々として、本当に霞がかった遠景を眺めるようなかんじ。これが作風なんだろうけれども、痒いところに手が届かない、すっきりとした起承転結のないストーリー。が、まあ、読了してみれば、これはこれで…とも思うのだけれども、うーん、私の性質にはあわないのかなぁ…。アイボリー監督の映画になっていると、けっこうしっくりはいくんだけれども…。(2002 Mar)
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日本生まれのイギリス文学者。日本の話なのに翻訳されてる不思議。淡々と綴られる物語。一定のトーンで描かれる戦後の日本は、細かい説明がないのに、リアルに胸にせまるものがあります。
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カズオ・イシグロという作家は長崎出身の作家です。
長崎出身の作家が英語で書いた日本の物語を日本語に翻訳して読むという行為は不思議なことのように感じます。
イギリスの日本人作家のお言葉
▲緒方さんは笑って首をかしげた。「どこかよそへ行ってそれなりの仕事をしたとしても、けっきょく」と言いさして彼は肩をすくめると、淋しげに微笑した。「けっきょく、自分の育った土地へ帰りたくなるものなんですな」▲
そして、解説で池澤夏樹はこう述べます。
▲人間は互いに了解可能だという前提から出発するのが哲学であり、人間はやはりわかりあえないという結論に向かうのが文学である▲
読了 2007/8/5
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日本人による日本文学を英語で書いたものを別の人が訳したもの。このとても珍しい状況を楽しめて贅沢。
久しぶりにはまる作家が出た。でもそれは訳者の力かもしれない。次の本を早く借りに行きたい。
物語は戦後すぐの妊婦さんが主役、でも現在のおばあさんになったその人の回想録としての主役。舞台は長崎で復興がだいぶ進んだ状態。だんなさんと二人暮らしでお舅さんがたまたま滞在している。そこに謎の多い女の人と、無口な女の子が登場する。女の子はキーワード。おばあさんになった主役の人はなぜかイギリスに来ていて、ハーフの娘を産んでいて、もうひとりの娘は自殺してしまっている。だんなさんとはうまくいかなくなったのか死別してしまったのかいなくて、そもそもなぜイギリスに来たのかも分からなくて、そのあたりにはまったく触れられず戦後の日本を中心に物語りは進む。やがて静かに鍵は開けられるのだが、その終わりの充足感ときたら幸せといってもいい。よい小説はそれが幸福な終わり方でなくても気持ちを満たしてくれるのだな。
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カズオ・イシグロの長編第一作。後の長編、『孤児だったころ』、『私を離さないで』のようなストーリーのダイナミックさはないが、彩度が同じ。暗い。この作品では、実際に夕方の暗闇のシーンが多く、全体の印象となっているが、その分、夏の日差しが強烈な、猛暑の日の描写が際立つ。また、女性の自立や日本人の戦争への意識など社会的要素が多分に含まれており、メッセージ性が強い。
作者のインタビュー(http://www.globe-walkers.com/ohno/interview/kazuoishiguro.html)で、自身ののアイデンティティーや日本への特別な意識、作家として作品に込める普遍的テーマなど語っているが、いずれの作品にも共通して反映されている。「状況を受け入れていく人間」への興味と愛情、ささやかでも愛の力や希望の光がある。ただ暗く重いだけではない。
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めちゃ暗い話(汗)。長崎に原爆が落ちて何もかも失った戦後の暗い時代を生きた女性の回想録。え、万里子はクビをつったの?なんで悦子さんは縄をもってたの?あそこのシーンだけ「ひぐらし」みたいで怖かったです(汗)。佐知子の生き方も浅はかだ・・・・。
現代になってイギリスに住んでるシーンになっても長女がクビつってるし(汗)。暗い。暗すぎる。
二郎となんで別れたんだとか些末なことが気になります。
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カズオ・イシグロの処女作。イシグロ作品を僕はまだ、3冊しか読んでないのだけれど、長編においては、先に結果が置かれて、読んでいくうちに謎が少しづつ明らかになっていく、ミステリーのような手法はこの本でも使われていて、ページをめくる手が止まらなくなる。正直、オチらしいオチはないのだけれど、万里子と景子は、同一人物?と考えると、主人公がイギリスに向かったくだりがはっきりしていないので、最後、もやもやとした感じが残る。それでも、処女作にしても読ませますね。
…英語で書かれた日本の話を翻訳で読む…。不思議な感じだ。