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紙の本
天才乙一、彼が生み出したこの話は、まさにダーク・ファンタジーという言葉がよく似合う。切なさ、はないけれど可能性を感じさせる作品、とでも言っておこうか
2004/08/12 23:21
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
《人ごみの中で、傘の先で左眼を刺され、眼球を移植した白木菜深。ショックで記憶を失った彼女が見る不思議な光景。眼球の提供者を探し出した彼女は、見知らぬ町に向かうが》ダーク・ファンタジー。
最初に断っておくと、この本が私の乙一初体験だった。カバーを見たときも、そして読み終った時も、ムードは認めるものの、凄さは感じなかった。これを書いた時の乙の年齢を知っても、ふーん、とは思っても絵、それ以上ではなかった。その後、というか最近、彼の作品を集中的に読み、この作品はともかくとして、凄い才能だと見直した。
で、あらためて最初の長編を読み直してみたというわけ、はい。
教会のステンドグラスが割れ、破片が眼に刺さり両目を失明した少女。洋館の二階に佇む彼女に、人語を話す烏が人を装って語り始める。烏は思いついて自分が少女に渡した人の眼球が、彼女を喜ばせることを知り、町で次々と人を襲い、眼球を取り出しては彼女への贈り物にする。それは、少女に会ったことも無い持ち主が見た記憶をもたらしてくれるのだった。
この異様なプロローグだけでも読む価値がある。
成績も優秀で、学校で人気者であった白木菜深は、事故の衝撃で記憶を喪失し、祖父はもとより両親のことすら思いだせない。以前からの友人たちは初めこそ同情していたが、性格が暗くなっていく彼女に失望していく。ピアノを演奏し周囲を楽しませ評判だった娘が、自分たちのことすら思い出せなくなってしまったことに、両親の苛立ちは募り、富豪の祖父は密かに眼球移植の手配をすすめる。
その結果彼女が得たものは、見知らぬ町の風景だった。菜深が見る夢の中に現れる「冬月和弥」の名前を頼りに探し出した眼球提供者の住む町。夏休みを利用して、無断で家を出た少女は、目の記憶を頼りにその町を訪れ、導かれるように入った喫茶店で、和弥の姉に出会う。
1978年生まれ、17歳のときにホラー小説でデビューした著者の長編である。あとがきでは、この作品のための取材でかなり苦労したとあるけれど、独特のムードは悪くない。ただ、何度見直しても、一見他社のノヴェルを思わせるブックデザインは、せっかくの作家の個性を殺している。一考があっても良かっただろう。
あとは、どれだけ変化に富んだ話を書き続けることができるかと、この作品を読んだ時は、乙の若さが不安だったけれど、その後に出された作品を見る限り、それは杞憂に過ぎなかったといえる。ただし、この作品に限っては、ある意味、ムードが先行した作品という気がする。重厚長大がもてはやされる時代だけれど、良質の中短篇を生み出すことも重要だ。今のところ、長編よりは中編に秀でる、それが私の乙一への評価である。
紙の本
ただものではない!
2002/07/30 12:42
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投稿者:marikun - この投稿者のレビュー一覧を見る
乙一作品、2作目の挑戦です。切な系のお話を探していたのですが
なかなか入手出来ないので、またもやホラーに挑戦です。
ストーリーは、片目を無くしてしまったため、その眼球を
移植した少女が、記憶をも無くしてしまい、移植した眼球が
見せる風景を頼りに、記憶を探す旅に出るというものと
「アイのメモリー」という作中作の2本立て。
移植した眼球が見せる記憶のストーリーというのも、
すごい設定ですが、そこからどう乙一テイストに
スライドするのかが個人的には見物でした。え〜、途中は、
幻想小説とも怪奇小説ともつかない、ものすごい描写が
出てきますので、気の弱い人は避けた方がよろしいかと思います(笑)。
しかしラストがびっくりでしたねえ…。やはり今までの作家とは
ひと味違う、これがまさに乙一テイスト。まさかこう言う風に
着地するとは思いませんでした!イイ意味で期待を裏切られました!
乙一作品のもう一つの楽しみは、あとがき♪
作品はあんな風なのに、日常生活をたんたんと面白く綴るところは
やはりただ者ではありません!
紙の本
手に入れた片目の記憶と、失われた少女の記憶。
2002/05/07 16:55
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投稿者:TAIRA - この投稿者のレビュー一覧を見る
乙一氏の小説を読み続けていると曲解、深読みを自分自身に義務付けてしまうのだが、それでも毎回騙されてしまう。今回も「今度こそは分かったぞ」と思ったのに相変わらず騙されている始末。これは、私が単純だからだけでは無いと思うのだが…。
ある日、不幸な事故により片目と記憶を失った少女は、片目だけでも取り戻すために眼球球移植を受ける。しかし、その日からある少年の記憶が移植された瞳から蘇り、その映像が少女の瞳に映し出されるようになる。
あらすじだけ読むと、そんなにすごそうには見えないのに(いや、面白そうではあるのだが)読むとすごいというのが、乙一氏の定番。伏線の鬼、乙一氏らしい文章回しで、あらゆる所に張り巡らされた複数の真実の糸が、最後に解きほぐされる。ホラー界の大型新人と期待されるだけあって、今回はホラー色が強く、結構グロイので苦手な方は気をつけて下さい。
紙の本
左眼が持つ記憶に導かれ、旅する少女
2001/12/20 22:16
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投稿者:氷川友美子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
乙一は1996年「ジャンプ小説・ノンフィクション大賞」の第6回大賞を受賞。殺された死体である「わたし」の一人称で書かれた、衝撃的な作品『夏と花火と私の死体』でデビューする。異化された日常を、平易な文章で淡々と描くことで、立ち現れる奇妙な恐怖のかたち。執筆当時、作者は16歳であった。3冊目の短編集『石の目』が刊行されるやいなや一気に注目を集め、その人気は高まる一方だ。
雪の降りしきる街で、菜深は左の眼球を失った。そのショックから記憶喪失になり、明るく利発だった自分をも失う。祖父のはからいで眼球移植を受けるが、手術後、左眼を通して様々な情景が浮かび上がる不思議な体験を重ねるようになる。どうやらそれは、左眼の持つ記憶のようであった。菜深は、眼球の以前の持ち主である和弥の記憶に親しみ、彼の人生を愛するようになっていく。
ある日、行方不明の少女の写真から呼び起こされた映像は戦慄すべきものだった。屋敷の地下室で、手足を切断され、袋に包まれている少女。和弥は、彼女を助けようとして、何者かに追われ、車にひかれたらしい。菜深は少女を助けるため、和弥がかつて生きた町を訪ねることを決心する——。
移植されるのが、角膜ではなく眼球であるという異物感。この想像の飛躍が乙一の真骨頂だ。童話作家・三木は、痛みを伴わずに体を傷つけ、同時に生命力を与えるという特殊な能力を持つ。おぞましくも慈愛に満ちた力で、平然と人の体を傷つける三木の心は、しかし凍てついている訳ではない。深い喪失感を抱えながらもなお、失われない菜深の魂のしなやかさ。それぞれの人物が持つ苦い悔恨。乙一は、登場人物の心情をリリカルかつ誠実に描くことで、突飛な設定も、たやすく読者に納得させてしまう。グロテスクな描写さえ、その底流にある切実さを思うと悲しみに彩られる。挿入される童話「アイのメモリー」は、愛による献身の美しさと紙一重の残酷さを描いて、まさに暗黒童話にふさわしい作品。 (bk1ブックナビゲーター:氷川友美子/ライター)