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紙の本
正しい屍鬼の楽しみかた
2004/09/06 22:02
14人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:桜木渉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
さあ、まずはこの屍鬼1を購入しよう。
屍鬼は全五巻だけれど、まずはこの一巻だけだ。だって五冊もあるんだよ?
まずは一巻を試し読みしてみるべきだろう。
さて、一巻を開こう。はじめは展開の遅さに、思わずページを閉じてしまうかもしれない。淡々と語られる村の人々の生活、思いなんかがつづられているだけだからだ。
しかし諦めてはいけない。
読書好きなら知っている。
長い前置きの先には怒涛の展開が待っている(かもしれない)ことを。
200ページばかりだろうか。
そこから、屍鬼の本領発揮となるのだ。
一巻を閉じた時、あなたはすぐさま二巻を求めるだろう。
しかし、簡単に手に入ったのでは面白くない。
じらされるから、この屍鬼は楽しいのだ。
そう、屍鬼はそうやってじらされるだけの面白さがある。次の巻を求めて悶え苦しむだけの価値がある。
そのほうが、屍鬼の面白さを噛み締めることができるのだ。
さあ、ゆっくりじっくり屍鬼を読もう。
そして次巻を求めて楽しい苦しみを。
紙の本
人間と屍鬼
2004/08/03 19:45
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:apple - この投稿者のレビュー一覧を見る
『屍鬼』はただ怖いだけのホラー小説ではありません。「起き上がり」である屍鬼が登場する話ですから、もちろん怖くないはずがないのですが、では屍鬼とは怖いだけの存在なのか、と言われるとそうではないのです。人間を殺さなければ生きていけない屍鬼。にもかかわらず人を殺すことを躊躇ってしまう屍鬼。そして屍鬼に向けられる人間の憎悪。本を読んでいくうちに自分は人間の味方なのか、それとも屍鬼を肯定しているのか、だんだん分からなくなってくるのです。何をもって正しいとするのか、自分にとっての天敵を排除することは正義と呼べるのか、それはラストの人間と屍鬼との対決でますます難しい問題になっていきます。この物語は絶対的な正義が絶対的な悪を滅ぼすというような簡単な話ではないのです。
また、私は外場村が大変リアルに描かれていることに驚きました。私の住んでいる所は少し外場村と似ていて、この本を読んで改めて実感したのですが、確かにムラ社会は本家・分家で繋がっていて、他所から人が入ってくることを好ましく思わない風潮があると思います。伝統的な風習や行事がまだ生きていて、それによって人々は結束しているのです。『屍鬼』では村人一人一人について丁寧に書かれているので、このようなムラ社会の様子がリアルに伝わってくるのです。
たぶんこの本の始めの方で、展開が遅いなぁと感じてしまう人が多いと思います。主人公の書いている小説と本編の内容とがシンクロしていて、おもしろいのですが、いろいろな事件が次々と起こるというわけではないので、一巻での物語の展開がスローペースだ、と感じてしまうのです。しかしこれは村人一人一人にしっかりとした物語があるからです。そして物語が進むにつれてその一つ一つの物語が関連性を持っていることが明かとなり、まるでパズルをしているかのように、繋がっていくのです。
長編小説なので、読むには時間がかかると思いますし、内容も怖くて、悲しくて、そして切ないという、決して軽く読み流せる本ではありません。しかし読み終えた後に心に残るものは大きいと思います。正しいとはどういうことか、正義とは何なのかということを考えさせてくれる本です。
紙の本
終着駅までノンストップ
2003/09/02 12:01
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:葉月 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最悪な本を買ってしまった……。
「屍鬼」の第一巻を読み終えた時、わたしはそう感じた。
ちょうどその時期は、公私共に忙しく、読書はごく限られた時間しか許されない状況にあった。
とは言え、本なくしては一日が終わらない自分のこと、やはり常に新しい話を手にしていたいという欲求は強く、前々から興味のあったこの「屍鬼」を、わたしはまず一巻だけ注文した。
この一巻を、何週間かかけてゆっくりと読み進めようと考えていたからだ。
しかし何たること。
たった「一晩」で、私はこの一巻を読了してしまったのだ。
おまけに、猛烈に続きが読みたくなってしまった。
「これはヤバイ」と思った。
久々に自分は、読み始めたら止まらない本を手に入れてしまったらしい。
けれど今の自分にそんなゆとりはない。
だが続きが読みたい。これでは他のことが手につかない。
……最悪だ。
結局自分は、ジレンマに陥りながらも予定よりずっと早い日数で、「屍鬼」全巻を読破してしまう羽目になるのだが……(苦笑)
改めて、小野不由美という作家の凄さを、見せつけられた気がした。
淡々と、どこか世界を突き放しているような、そんな硬質さが彼女の文章からは感じられる。
それでいて、その物語はとても「肉感的」だ。
無味無臭かと思われたその飲み物が、一度口にすれば止まらない旨味と、かぐわしい香りを放つ美酒だったと気付く。
物語を読み進むにつれ、私はそんな感慨を抱いた。
一層では分からなかった単色が、幾重にも折り重なることで見事なグラデーションを形作る。そんな物語の深みと鮮やかさが、彼女の文章に引力を生み出し、読者を惹きつけ離さない。
そう、最初に第一巻を手にした時、気付くべきだったのだ。
私は既に、終着駅までは止まらない、特急列車のチケットを買ってしまったということに。
悪意は悪意を生み、悲しみは悲しみを生む。
疑惑と、恐怖と、陰謀と、殺意。
閉鎖されたあの村は、わたしたちの生きる世界の縮図であり、そこで己の運命に翻弄される人々は、偉大なるものの手の平で、それでも懸命に生きているわたしたちと同じ。
小野不由美という神が生み出した恐怖世界で、読者は自身の奥底に潜む「真実」に気づくだろう。
これをただのホラー小説だなんて、とても呼べない。
紙の本
至福の5日間を過ごせました
2014/09/07 09:56
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ユーキング - この投稿者のレビュー一覧を見る
かつて宮部みゆき「模倣犯」を読んだとき、あるいは、ジャンルは違いますが学生時代に「竜馬がゆく」を読んだときなどと同様、大長編ながら夢中になって一気に読んでしまう本でした。次の展開にわくわくすると同時に、物語が終わってしまうのがさびしく感じたのも同様です。
最初はつまらないとの感想もありますが、旧習にとらわれているといいながらも、現在もどこにでもありがちな、地方都市近郊の集落の雰囲気を、さまざまな登場人物の視点から丹念に書き込まれていて、物語に没入するのに非常に効果的だったと思います。
途中、「恐怖の対象」側の視点での描写が始まった時は、少しリアリティに欠けるのではとも思いましたが、読み進むにつれ、いつのまにか主人公のひとりと同様の感情移入をしていました。
長編が苦手な方にはおすすめできませんが、そうでない方は是非全巻まとめて買ってください。私はまず1巻だけ買って、読み始めてからすぐに2巻以降を手配しましたが、待ち遠しくて、配送会社を恨んでしましました。
紙の本
恐さよりも哀しさ
2002/06/08 23:18
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のらねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ひどくもの哀しい小説だ。表題からいわゆるホラー系の小説であろうとあたりをつける人は多いはずだし、たしかに、その期待が裏切られることはない。
が、本書は、単なる「屍鬼」と「人間」との抗争の物語ではない。
やや閉鎖的な共同体が壊滅する過程の克明な記録、自分が自分であるという根本の基盤を揺るがされ、破壊された知性たちの物語、図らずも捕食するものと捕食される者とに別れてしまった人々の、葛藤の物語でもあるのだ。
だから、結果的に、舞台となる田舎町の崩壊とともに、からくも人類側が勝利するこの物語も、読後感はひどく重い。
長大で、決して、シンプルな物語ではない。
様々な要素が複雑に絡み合い、いりくだんでいて……長さに負けないだけの内実は、十分に伴っている。
紙の本
ちゃくちゃくと進んでいるストーリーに身震いした
2004/05/30 09:04
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:筒貫 - この投稿者のレビュー一覧を見る
パッと読んでいると、全く話が進んでいないような気がしました。でも村に住む人々の何の変哲もない生活が、後からこの小説の要所に来て、その時にはかなり面食らいました。話の節々に入っている静信の小説の一節が更に小説の雰囲気をかたどっている様で、読むにつれて泥沼にはまっていくように飲み込まれました。
私が運営しているサイトに来ていただいた人に紹介されたのが読むきっかけでした。最初は『屍鬼』の屍の時でホラーだと思ったのですが、そう思って読んでいはいけない本のような気がします。村人一人一人の心境を克明に描写して、現実味がある人間関係が気に入りました。
紙の本
本を開けば
2021/09/13 17:38
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:凛子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
もう何度読んだだろう。
はじめて読んだ時は、本を読む以外、何も手につかなかった。
ごはんを食べる時間さえ惜しかった。
紙の本
ポスト・キング
2002/04/17 11:49
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:犬 - この投稿者のレビュー一覧を見る
モダンホラーの帝王、スティーブン・キングに真っ向から挑んだ野心作。初期の名作『呪われた町』を日本の風土に移し変え、さらにキングが準拠していたキリスト教的倫理観に否を唱える。3千枚に及ぶ大作だが、一気に読めます。