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紙の本
ロマンブリテンの集大成
2002/02/10 01:28
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Yan - この投稿者のレビュー一覧を見る
代表作のローマン・ブリテン3部作の最終刊。4作目というふれこみでしたが、エメラルドのイルカの紋章の指輪を持った男の物語の集大成と言う感じがしました。
時代的には、イギリスがローマに支配されていた時代の最盛期をかなりすぎた頃。「第九軍団のワシ」より後の時代指輪を持つ男は、アレクシオス・フラビウス・アクイラ、第九軍団のマーカス・フラビウス・アクイラの孫に当たる人です。
この話の根幹は、一度仕事に失敗した男の再生というところでしょうか。「辺境のオオカミ」、と言うのは今でもスコットランドに残るハドリアヌスの壁、アントニウスの壁のむこうに住むケルト人の氏族で、ローマの軍隊に入って活動する人々のことでした。アレクシオスは、ローマの軍率を犯して戦いのさなかに独断で撤退し部下をおおぜい亡くします。それが元で「辺境のオオカミ」たちがいる砦の司令官に左遷されてしまうのです。
まず初めの絶望。そして、自分の位置を確立していくための戦い。これは三部作に共通のテーマです。「オオカミ」たちを理解し融和することでしたが、こちらはうまくいきます。自分のオオカミ(4本足の)を狩る、投槍のみでオオカミの命を止める。まさに「太陽の戦士」のシーンでしたが、このことによってオオカミたちとヴォタディニ族の族長の息子クーノリクスとの友情が深まります。
ところが、クーノリクスの弟コンラの悪ふざけが上官の怒りを買い、命令によってアレクシオス自身がコンラを殺さねばならなくなります。氏族との戦いの中で、アレクシオスはまたもや独断の撤退をしなければならなくなるのです。初めの撤退は失敗でしたが、二度目の撤退は正しい判断だったため、アレクシオスはその後砦の司令官に復帰することができるのです。これは彼自身の意思による選択で、「オオカミ」たちとともに生きることを選択した彼の中には、指輪を受け継いできた男達が持っていたのと同じ「誇り」があふれていました。
アクイラの一族が共通に持っていた「誇り」がここで集大成されていると私は感じました。
Yanのホームページにおいでください
紙の本
大迫力!サトクリフのローマ・ブリテン4部作の待望の4部目の翻訳版がでました。
2002/03/26 16:54
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投稿者:エーミール - この投稿者のレビュー一覧を見る
この原作は1980年に刊行されています。ローマ・ブリテン3部作といわれている『第九軍団のワシ』(1954年)『銀の枝』(1957年)『ともしびをかかげて』(1959年)から21年たって書かれ、あわせてローマ・ブリテン4部作ともいわれます。この四作は、イルカの家紋をもつある一族とその家紋のイルカの印章のついた指輪によってつながっています。一族の祖先・子孫ということで、扱っている事件も時代も違うので、一作づつ読んでもとても面白いのですが、1作目と2作目は、ローマ軍団のワシの旗印ということでもつながりがあるので、あわせて読むとまたその圧倒的な迫力を味わうことができると思います。
サトクリフの歴史小説の魅力は、その取材による知識がすっかり作者のものになりきっていることもあるのでしょうけれど、登場人物が考え悩み迷う姿を見てきたように生き生きと描き出す想像力と筆力の素晴らしさにあるといえます。本の厚さと扱っている時代の重さで、とっつきにくいと思いがちですが、いったん読みだすとやめられなくなる面白さです。男の物語のようでありながら、要所要所に忘れられないような女の姿を描いているのも心憎いところです。犬好きのサトクリフは、犬をよく登場させて、犬のしぐさなども効果的にあちこちに書き込んでいます。歴史は人間が作ってきたのだというしっかりとした視点で書かれているので、人々が動き回っているのがドラマのように見えてきます。
四作の中では、この『辺境のオオカミ』が時代の流れや行動半径という点では一番スケールが小さい作品だといえます。でも、リーダーというものをどう考えるかといったような、人間について考えるための今日的な問題を一番多く含んでいる作品なのかもしれません。
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