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紙の本
21世紀の指輪物語ー9・11
2002/08/06 01:32
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:栗山光司 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「イスラム教の神は、キリスト教の神と同じなんですか?」「全く同じです。当然でしょう。ユダヤ教の神もキリスト教の神も、そしてイスラムの神も同じです」と司教が正解を述べていたのですが、ローラ夫人はひきつったような顔をした。−
時たま、かような辛辣な表現はあるものの冷泉彰彦の書く「9・11」アメリカレポートは声高でない抑制の効いた語り口である。このような肌理細かい目配りするレポートは通りすがりの旅行者の付け刃では出来ない。この地にどっしりと、腰を落ち着け妻と子とコミュニティの一員として、生活しているニュージャージー、マーサー郡に居を構えた著者ならではと、納得する。愛情深いニューヨーク物語とも言える。かって、良質の現場レポートは大新聞社の特派員報告署名記事で、長期に渡り連載されたものだが、最近とくと、お目にかからない。大きくなれば、政治力学が働くのであろう。そんなマスメディアに対する欲求不満を持っていたら、村上龍編集長「JMM」のネットマガジンで良質な同時代報告が発信されていたのである。かようなすぐれた報道に出会うと、言葉は世界を語りうるのだと、嬉しくなる。ある意味で映像より説得力があったんだと、再認識する。その強さは彼の中にあるコミュニティに根ざした日々の生活を誠実に生き、次世代にいのちを伝えるあたりまえの日常を倫理の核とする確固たる信念であろう。
彼は言う。「2001年秋に起きたことは、21世紀的でも何でもなく、むしろ20世紀や19世紀の悪夢が蘇ったのだと見るのが自然であると思います。(中略)何よりも、人の命を弄ぶことで歴史が動かせるというような迷信は20世紀で終わりにしなくてはなりません」。
この本は登場人物の多様性と多さに驚かされるが、例えば、ラジオのディスクジョッキーを通して色々なアメリカの声を聞かせてくれるし、マスメディアに登場するブッシュ、ジュリアニー、英雄の消防士たちのみならず、ニューヨークの一市民としてのメッツの新庄の活躍振りまで伝える。アメリカの様々な声を優しくクールに聴き取る。彼は単純な二分法による世界解釈を嫌う。「正義と悪」「持てるものと持たざるもの」。大ヒットした「ロード・オブ・ザ・リング」にしろ「リング」の魔力の中に「善」と「悪」のふたつが複雑に混ざり合っている。他のヒットするハリウッド映画ですら、二分法ではない。そこで彼は言う。アメリカに住む人々はそんな複雑な物語に親しんでいるのに、湾岸やアフガンの実際の戦争や事件となるとはるかに単純な報道を信じ込んでしまう。いや、信じていなくてもそれで安心したり見て見ぬふりをしてしまう。もちろん一種の逃避なのですが、それは長くは続かないでしょう。ベトナムの無茶もウォーターゲートの醜悪も、時間とともに暴かれて行きました。年が明ければ、世相の風向きも変わってゆくに違いありません。
彼のオポチュニズム的言説も垣間見えるが、日和見的な意味でなく生活者のしたたかな楽観主義から来るものであろう。冷泉彰彦の家庭は確固としてある。ニューヨークもアフガンもパレスチナもイスラエルも東京も確固としてある。「世界は確固としてある」そこから、出発して、縺れた糸をほぐすしかない。と彼は信じているのだろう。
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