紙の本
とっつきにくいと言われますが…
2004/03/17 00:51
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kokusuda - この投稿者のレビュー一覧を見る
古い象形文字で書かれた、詩や小説、歴史書、哲学書など、
過去のあらゆる本が焚書にされる惑星アカ。
科学技術の進んだ大宇宙連合—エクーメンと接触後、
圧政がしかれているアカは、伝統的な文化を捨て去り、
新たな道を進みはじめていた。
そんな世界に観察員として、地球から派遣された
若き女性サティが知った伝統文化〈語り〉とは…
「闇の左手」と同じ〈ハイニッシュ・ユニヴァース〉を
舞台に描いたローカス賞受賞作
(文庫初版カバー解説より)
惑星ハインから宇宙へと進出した人類は、
さまざまな惑星に植民地を形成しつつも、
あるときから文明それ自体が衰弱し、
植民地惑星は母星との連絡を絶たれてしまう。
以後の植民地では独自の文明がおのおの築かれ、はるかな時をへて、
ふたたび宇宙に進出したハイン人と元植民地惑星は、
大宇宙連合(エクーメン)を形成する。
ハイニッシュ・ユニバース・シリーズは、
このような世界のさまざまな惑星で起こった
できごとを語っていくものだ。—小谷真理氏本書あとがき
作品の情報はこれぐらいで、私なりの感想をば…
ル・グィン女史も年齢を重ねたんだなぁ、というのが本音です。
以前の尖った論理展開は嫌いではないものの、
思想や文化に対する冷たい観方を感じたものです。
しかし、この作品では時間はゆったりと流れ、
世界の流れや人間に対する深い愛情を感じます。
まあ、彼女も今年で74歳になることですし(笑
言語や文学などの文化に関する作品です。
日本語に訳すことは困難だったに違いありません。
確かに日本語として多少、気になる部分もあります。
でも、SF作品として現代社会に何を言いたいのか、
SF作家として何をすべきなのか、ということを
見据えた作品だと思います。
彼女の作品は決して読みやすい作品ではありませんが、
現代人ならば読んでおきたい作家の1人です。
紙の本
リアルな思索と眼差し
2002/07/08 09:18
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投稿者:のらねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ル・グィンは、本書で「物語」が禁じられた文化を仮想しています。
物語上、それはエクーメンと呼ばれる「遠い未来の異星での出来事」として設定され、地球人である主人公・サティの視線を通して描かれるわけだが、サティが産まれ育った時代の地球が、「ユニスト」と呼ばれる一種のカルト政治制を通過していて、サティの少女(=地球)時代の回想とエクーメンでの出来事が交互に物語られる構成を採用しているあたり、さすがに一筋縄では行かないというか、老獪さを感じます。
たしかに、この作品は設定上はSFとして分類される小説なのですが、語られる内容には「今現在の、此処」にたいする「思索と眼差し」を強く感じます。例えば、当初、サティに敵対する者、として描かれる「監視官」が、物語の流れの中で役職名ではなく、固有名詞を付加される過程、その「監視者」が行った「選択」を経て、巻末でサティが行う「選択」などは、細かく記述された複雑な設定や政治状況と同じくらいに、リアルに感じるわけです。
紙の本
ル・グイン成熟ぶりを堪能できる一冊
2002/08/27 05:48
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Okawa@風の十二方位 - この投稿者のレビュー一覧を見る
懐かしい「闇の左手」のハイニッシュ・ユニバースシリーズの最新作です。
今回はいつものような張り詰めた権力の争いというより、近代化によって忘れされられていく祖母たちの風景、民族のルーツを、エクメーンの施設である言語学者サティがたどって行くというストーリー構成です。ル・グインと言えば、論理のナイフでぎんぎんに突っ張って主題に取り組む作風が持ち味であり、そこがある種魅力なわけですが、なんとなく理屈っぽい感じの違和感も同時にありました。しかし、この作品では消え往く古き文化への愛惜と人のぬくもりという視点が、全体を通して流れていて、今までのル・グインになかった作品の艶を感じさせます。その一方で、伝統の持つ良き面だけでなく毒を描き出してみせるなど、論理の冴えは相変わらずで、それが上手く伝統と進歩、どちらの立場からもバランスの取れた展開になっています。
ル・グイン成熟ぶりを堪能できる一冊です。
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最後の3行がすごくいい。
愛すべきタキエキの、豆の粉の話が心に残った。
最初は何この話???って思った。
わらしべ長者を連想したけど、「愛すべき」タキエキが「だまされないぞ」なんて警戒心むき出しで交換しないし・・・
物語が進むにつれて、長者になることだけがハッピーエンドってわけじゃないんだなあと思った。
よさそうに見えるものでも、一度立ち止まってその代償を考えること。
オクザト=オズカトの古いものを守りつつも、新しいものも拒まない生き方が印象的だった。
ヘリコプターの操縦士が何も描写されないで死んでしまうのは、何だかなー・・・・
サティ目線でのストーリー進行だから仕方ないのはわかるんだけど。
作中テロや何かでいっぱい人はなくなっているのに、ここだけ嫌って言うのは自分でもおかしいと思うんだけど。
こういう、人を人生ゲームのコマみたいにあっさり殺してしまうような展開は好きじゃない。
そこを除けば、星5つ。
(10.05.27)
遠いほうの図書館。
励まし合って読書会の課題図書。
(10.05.20)
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極端に抑制を効かせた文章が、最後の3行で恐ろしく詩的になって、言いようのない高揚感に包まれたところでストンと終わるという、半ば途絶したような印象さえ与える結末も、このドラマが「ハイニッシュ・ユニバース」という大きな枠組み、その中でおそらくは無数に形成されている社会の、ごく一端でしかないことを示唆していて、他の社会で生み出されるドラマへの興味をそそられずにはいられない。
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アーシュラ・K・ル=グインの言の葉の樹を読みました。闇の左手と同じ世界設定の中で語られる、原題はTELLING(語り)というSF物語でした。アカと呼ばれる世界では伝統的な文化を捨て去り、継承者を迫害し本や記録を破壊する圧政がしかれていた。そこに地球から派遣された文化人類学者の女性サティは地方にはまだその伝統を継承している人たちが残っているはずと考えて、風前の灯火である伝統的な文化を守ろうとするのだが...ちなみにサティはインドの女神でシヴァの妃です。これも、この物語の隠し味になっています。この物語を読みながら、つらつら考えたのは、文化というのはその担い手がその文化の中で生活していくからこその文化であり、絶滅した動物の剥製のようなものは文化ではないということでした。例えば方言なども一つの文化ですが、その言葉を使って生活している人たちがいるからこその文化なのであって、その基盤が壊れてしまえば後は衰退するだけだと思います。そして、いったん壊れてしまった文化は元に戻すことはできないんだろうなあ、ということです。ヨーロッパの人たちがネイティブアメリカンや南米の文明を破壊してしまった後では、その文化を復元することはもうできないのだから。
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外交使節でもある文化人類学者が、とある異国で失われつつある前近代の文化風習を再発見するための旅をする物語。
と、まとめてしまうと物語の骨格はSFでもなんでもないのですが、その「SFらしくなさ」が正にル・グィンらしさでもあります。
彼女が紡ぎだす「ハイニッシュ・ユニバース」の一端を成す作品。高度の発展を遂げた「ハイン人」が銀河規模で潘種し、地球人類もその一環として生まれた世界。その後、潘種された種族は衰退して星間の交流がなくなり、各惑星上で独自の進化・発展を遂げていく。やがて星間交流が復活し、星間連合「エクーメン」となって、未だ宇宙への再進出を果たしていないかつての同胞を教化・指導する立場となっていく。
そんな舞台設定を背景としているため、この作品をはじめとする「ハイニッシュ・ユニバース」シリーズに登場する異星人は全て地球人類と基本的に同種の生き物です。似たような文明を築き、似たような政治体制を変遷し、初対面でも最低限のコミュニケーションが取れますし同衾すらも可能です。
それは即ち、人間の現実社会をそのまま描いている、ということに他なりません。ル・グィンの作品は、SFというフォーマットを借りた「社会的寓話」とも言えるでしょう。
この作品は、特に、近代化の波に突如曝された前近代的文明(「前近代的」という言葉自体が非常に相対的な価値観を孕むため、鴨はあまり使いたくないのですが、他に適当なワーディングを思いつかなかったためこう表現させてもらいます)が自己の胎内に抱え込む相克を詩情豊かに描き出して余りあり、様々な観点から読み込むことが可能な作品だと鴨は思います。
ただし、これもル・グィン作品の特徴ではあるのですが、あたかも社会学のレポートと古代の叙事詩を足して2で割ったような独特のゆったりとした筆致で物語が進むため、一般的なSFにありがちな爽快感や驚き、手に汗握る面白さと入ったものはまず感じられません。特に物語の中盤は読み進めるのにかなりの忍耐力を要するレベル。読む人を相当選ぶ作品だと思います。
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「闇の左手」と同じく<ハイニッシュ・ユニバース>シリーズのこの作品。
今度の主人公はテラ(地球)出身の女性、サティ。宗教を初めとした文化を一元化しようとした「ユニシス」が支配していたテラでは、キリスト教以外の宗教・考え・芸術全てが弾圧の対象になっていた時代があった。そんな時代に生まれたサティが、エクーメンの観察者として同じようなことが行われているアカという惑星にいるところから始まる。
ル・グインはその舞台となる惑星を見てきたかのように、風景や人物や文化を鮮やかに描き出す。
今回のテーマは「異文化との接触」。どうやってその異文化を受け入れ、拒否し、解釈するか。そんなことが丁寧な文体で書かれていく。
サティが旅をする山「シロング」の景色は厳しくも暖かい。旅の友となっているアカの人たちも弾圧されて隠されていた「語り」をサティに教えつつ、自分達の存在をまとめようとしているように思える。
「闇の左手」が男性ふたりの強烈な友情を軸に、激しくまとめられたものだとしたら、この作品は出てくる人物みんなが優しい視線で相手を見ているためか、非常に穏やかな作風になっている。
個人的には「闇の左手」ほどの感動はなかったが、さすがとうなる筆のうまさの作品。
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読みにくいが、最後にはホロリとさせられる
表紙 6点小阪 淳 小尾 芙佐訳
展開 6点2000年著作
文章 5点
内容 750点
合計 767点
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時期的に炊事洗濯掃除担当者として忙しく、読書に時間が割けなかったせいか、話が把握しづらく没頭できなかった。平時に戻って落ち着いたら改めて読み直したい。
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ル・グィンの小説は、その試みが興味深いがあまりにも真面目過ぎてまるで社会学の教科書を読んでいるようだ。
本書で書かれている社会は、まるで、文化大革命の時の中国と鎖国時代の日本を足したようだ。
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ここしばらく、ル・グィンを読み続けている。本書もハイニッシュ・ユニバース・シリーズの一冊。
エクーメン連合に新たに加わった惑星アカに派遣されたテラ(地球)出身のインド系女性のサティの物語。アカの政府は、エクーメン連合の影響を受け入れすべての文化を刷新しようとして、伝統的な書物を焚書し、言語も抑圧している。サティはテラでの自らの経験は逆であったこと、すなわちユニストと呼ばれる勢力が、エクーメンの影響を拒否し懐古的ではあるものの画一的な強制とテロで抵抗したことを記憶していた。サティはアカの実態を知ろうと地方への訪問をアカ政府に申請し認められるが、監視者ヤラに付きまとわれる。しかし、エクーメンから派遣された上司トングと連絡を取り、監視中止を求めて成功する。
訪問先で知り合った抑圧されていた人々の言語や文化を学び、かれらのシロング山への巡礼に同行する。シロングは、アカの政府から適しされている旧知識の聖地で、伝統的な書物が集められた大図書館であり、巡礼に来た人々は様々な知識をここから再構成しようとしていた。ところが、サティたち一行がシロングに到着直前、アカ政府のヘリコプターに襲われるが墜落し、唯一の生存者監視者ヤラを残のみであった。ヤラは人々の伝統的治療を受けていたが、本格的な冬が始まって、人々が山を下るさいに、同行は困難なようであった。
サティはヤラに話しかけ、次第に彼の素性を知るようになる。ヤラは、子供の頃、伝統的な生活をしている叔母により育てられたが、父親によって首都に連れて行かれアカ政府系学校に入れられて、アカ正統の役人となっていった。サティの監視を解除されたヤラは、それでもサティの追求をやめず、シロング山の秘密をアカ政府に報告するために、ヘリコプターに乗り込んでサティたち一行を追跡していたのだった。ヤラは次第に心をひらいていった。サティたちが下山のために小グループに別れて準備を始めた頃、ヤラは歩けないので這いずって崖の上から投身自殺を遂げたのだった。
下山したサティたち一行を待ち構えていたのはアカ政府の監視員たちだった。アカ政府の飛行機はサティたち一行を首都に連れて行く。サティはエクーメン連合がもたらした新しい知識がの対価として、シロング山の知識(書物や語り)を受け取ることを進言する。エクーメン連合は現地社会に新しい技術的知識を与えるが、その使用法については介入しないという政策をもっている。アカでは、エクーメンによるファーストコンタクトの後、サティたちがやってくるまでの間、テラのユニストたちの訪問団がやってきて、対エクーメン対策を伝授したようであった。その影響下に高圧的な伝統的文化の破壊を行っていた。現地社会への介入はエクーメンのポリシーに反することになるが、そもそも、新しい技術を持ち込み、エクーメン連合への参加を求めることは、事実上の介入でもある。物語は、アカ政府とエクーメン使節団との交渉に向かうところで終わる。
この作品を読んでいて、思い浮かべたのは、ひとつは明治維新であった。まさに、明治政府はアカ政府であった。明治維新以降、和魂洋才を唱えるものの、廃仏毀釈やざまざ��な地方文化を破壊してきた日本の状況はこの物語を見るようでもある。また、もっと一般的には、欧米諸国による世界の植民地支配であった。日本は、欧米諸国の植民地主義を学び、周辺諸国への侵略を進めたのであった。
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ゲド戦記から入った私はこれがル=グウィンの初SF体験でした。
SFはほとんど読まないので、ストーリーに入るのに少し時間がかかりましたが、読み進めていくとやはりル=グウィンらしさがあり、だんだんとのめり込みました。言葉を大切にするところやフェミニズムをしっかり入れてくるところなどゲド戦記に通じるものがありました。
SFは私にとってはやや読みにくいのですが、これをきっかけにル=グウィンのものから読んでみようかとも思いました。