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グラン・ヴァカンス

グラン・ヴァカンス みんなのレビュー

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みんなのレビュー23件

みんなの評価4.1

評価内訳

  • 星 5 (10件)
  • 星 4 (7件)
  • 星 3 (1件)
  • 星 2 (1件)
  • 星 1 (0件)
20 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

硝子の透明さのなかで展開されていく、酷薄な滅亡の美しさ

2004/05/25 19:15

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る

カバー画に描かれているのは、白い砂浜と打ち寄せるエメラルドグリーンの波、青い空と低くたれ込める灰色の雲。そして「グラン・ヴァカンス」というタイトル。

私はまずここからJ・G・バラードの小説を連想した。たとえば「ヴァーミリオン・サンズ」と呼ばれる連作短篇のシリーズ。頽廃的な空気の漂う砂漠のリゾートに集う人々が、歌う植物の歌を聴いたり、音響彫刻に興じたりするという幻想的な小説群である。または彼の近作で展開されている、死んだように生きている完全セキュリティのリゾート地といったイメージも浮かんでくる。

しかし、「グラン・ヴァカンス」を読んでいくうちに、これは飛浩隆による「結晶世界」なのだと思うようになった。バラードの「結晶世界」は、ある森のなかで、木も鳥も鰐も人も、すべてが水晶に変わっていくという、驚嘆すべき破滅の姿を描き出した異形の傑作であり、私が読んだなかで最も印象深い小説だ。

では「グラン・ヴァカンス」はどうか。この物語の舞台は、大途絶という事件以降外部の人間がまったく訪れなくなった、仮想リゾートである。そしてこの物語に登場する人々はすべて仮想リゾートの駒として作られたAIなのである。外部で何が起こったかわからず、ただそのなかで暮らすAIたちは千年にも渡る夏を繰り返している。
永遠にも近い停滞が、この夏の区界、<数値海岸>(コスタ・デル・ヌメロ)を領している。

人工知能たる仮想リゾートの人々は、みずからが作られた存在であることを知っている。自分の過去なるものが捏造されたエピソードに過ぎず、訪れてくる倒錯したゲストたちのために設えられた好餌でしかないことも知っている。それでも彼らは記憶を持ち、意志を持ち、感情を持っている。美しく見える仮想空間にも、隠された暗部が脈打っている。

そこに、ある日突然<蜘蛛>と呼ばれる異形の怪物が進入してくる。いつもは仮想空間の補修をしている<蜘蛛>にも似たその怪物たちは、仮想空間をあっという間に黒く消し去ってしまう。突然の襲来にとまどう人々は、あっさりと喰らいつくされ、なぶり殺しにされていく。

永遠かとも思われた夏の海岸が、見る間に崩れ去っていく。
その危機のなかで、AIたちは砂浜に流れ着いてくる魔法の石<硝視体>(グラス・アイ)を使って、<蜘蛛>に対する反撃を開始するのだが……

バラードの諸作は残酷な美しさを湛えた破滅の物語だった。この作品もまた破滅の物語である。残酷、酷薄、倒錯、官能、苦痛に彩られた地獄の美しさを持つ破滅。人々は殺され、過去の痛々しい記憶をよみがえらされ、死の恐怖を味わわされ、バラバラに解体されても生き続ける責め苦を負わされる。それらの痛みが、硝子の透明さのなかで展開されていく。ある美しさと同居する残酷さに充ち満ちている。
しつこくバラードと比較するのもどうかと思うが、永遠の時間と空間の結晶たるクリスタルとなってすべてが凍りついていく「結晶世界」と比べると、この「グラン・ヴァカンス」の永遠のように見えた一瞬が瓦解していくさまは、まるで逆回しにした「結晶世界」にも見えてくる。

その意味で、この作品はSFの殻をかぶった幻想小説かも知れない。シュールなイメージ、硝子の透明感、気怠い夏の暑さ、倒錯的な性。その雰囲気を支える文章も丹念に磨かれていて、淀みなくリズムを刻んでいくのが心地よい。


十年間沈黙していた「伝説の作家」らしい。この作品も十年かけて書かれたとあるが、続巻はすぐに出るのだろうか。あとがきに書いてあった同人誌で刊行された著者の作品集はすでに取り扱っていなかった。いまは精力的にこのシリーズの番外中篇などを書いているようだが、是非これまでの短篇なども刊行して欲しい。

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紙の本

うぉ、今日は珍しく人が評価していない本を、褒めてしまうぞ。うーん、悪い点を付けた人の気持ちが、わからないこともないけれど、やっぱり言葉のイメージ力に拍手だね、続き、待ってます

2003/09/12 19:59

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

実は、いい加減に読み始めたので、最初のうち状況がよく分らなかった。しかも、耳慣れないことばが〈 〉書きの形で頻繁に出てくる。登場人物?の名前がジュールとジュリーで、少年と少女というのだが、似通った響きなので性別が分らなくなる。普通ならば、いい加減にしろといって投げ出してしまう。何を気取っているのだと、不快になる。

しかし、この作品には、それをさせない何かがある。一つ一つのことばは決して難しくはない。ただ、それが〈流れ硝子〉や〈数値海岸〉となって示されると、実像が結ばないだけだ。これだけで読者の半分は逃げ出すかもしれない。ところが、この優しい言葉で紡ぎ出された複雑な世界は、作品の中に出てくる〈蜘蛛〉のように、読み手を絡めとって離さない。

ネットワークのどこかに存在する、仮想リゾート〈数値海岸〉の一区画〈夏の区界〉では、人間が途絶えてから1000年もの間、取り残されたAIたちが、同じ夏の一日を繰りかえしていた。だが「永遠に続く夏休み」は突如として終焉の時を迎える。謎のプログラム〈蜘蛛〉の大群が、街の全てを無化し始めた。わずかに生き残ったAIたちの、絶望に満ちた一夜の攻防戦が始まる。

ジュールは〈夏の区界〉に暮らす、あたかも12歳であるかのような天才少年、ジュリーも〈夏の区界〉に暮らす、誰とでも寝たがる16歳の美少女。彼女のペットは、コットン・テイル。生き物のような視体で、〈テイル〉と呼ばれている。それに謎の老人ジュールが、攻防戦で対峙する。鳴き砂の浜、硝子体、〈流れ硝子〉〈冷たいマルティーニ〉〈絹北斎〉〈割れ鏡〉〈紫苑律〉そして〈耳の渦〉。

なんと美しい文字の連なり、イメージの奔流だろう。だから、訳が分らないままに流されていることが、少しも気にならない。何故、ここにいる人たちはAIと呼ばれるのだろう、どうして〈蜘蛛〉に襲われたところに〈穴〉が生まれるのだろう、どんな理由でジュールは簡単に男に身を任せるのだろう、なぜ、ナゼ、何故、心に泡のように浮かび上がる疑問の数々が、心地よく弾けていく。

気になって、カバーに出ている作品と作者の紹介を読んでみた。え、そんな世界を描いていたの、と思った。決して不快ではない、自分の読み方の粗さを窘められたような、思わず舌を出したくなるような心地よい恥ずかしさ。作者のプロフィールを見て、何度も肯いてしまった。10年ぶりの作品なんだ、しかも斬新なSF的アイデアと端正な筆致から「第2の山田正紀」とまで評されていたんだ。

そう、『神狩り』でデビューした時、天才登場と騒がれ、つい最近も『ミステリ・オペラ』で健在振りを見せつけた、あの山田正紀に喩えられる、それだけでも凄い。いや、クールな山田に対し、飛には他を寄せ付けない言葉に対する絶妙の感覚という武器がある。以前、『蜜蜂職人』を絶賛したけれど、詩を読むような、しっとり纏わりつくような文章は魅力的だ。神林長平とは違った形の、言葉に天性のひらめきをもった作家の1992年発表の異色音楽SF「デュオ」以来の復活を素直に喜びたい。「廃園の天使」シリーズ三部作の第一巻。

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2006/02/12 01:03

投稿元:ブクログ

S-Fマガジン600号、実は個人的には『雪風』第3部スタートよりもさらに気になっているものがある。これの第2部もスタート。

2006/01/20 00:35

投稿元:ブクログ

SFだ。バカンスを楽しむために作られた人ではないAIのすむ世界という未来な感じ、人がこなくなって千年経つ世界というもの悲しく虚しい感じ、散りばめられた性描写と殺戮のスパイス程度のエロチシズム。大人のSFの王道だと思う。著者も「新味を出そう」と思っていないと書いている。なのに古典ではないのだ。古典的ではあるかも知れないが古典ではない。こういうのがないと亜流が本流になってしまう。だから本著は本流なのだ。

2007/04/09 23:19

投稿元:ブクログ

冷たく・残酷で・グロテスクで・官能的で・そしてどこか懐かしい。そんな、あまりにも綺麗な物語が読みたいのなら、おススメです。

2006/05/16 21:23

投稿元:ブクログ

仮想現実のリゾート空間「数値海岸」は南欧の港町の夏、懐かしく素朴な生活を体験できるという設定の世界だ。それぞれ固有の役割を与えられた大勢のAIが暮らしている。
AIの「父」や「妹」など空白にしてある役割をゲストである外の人間が購入し、世界にとけこんでヴァカンスを楽しむ仕組み。
しかし、そのゲストたちが一人も来なくなって千年の時が流れ、AIだけで変わらぬ暮らしを続けていた。
しかし、ある朝不気味な蜘蛛のプログラムが街を侵食していき、あっという間に全てを崩壊させてしまう。その目的は?

夏に読みたい1冊(略してナツイチ)。

3部作(予定)の1冊目ということで、この段階では解決されない謎が多い。あんまり難しいこと考えず、この美しく残酷でちょっと懐かしい感じの世界を楽しく味わった。
今後この謎の攻撃の目的や視体のひみつが明らかになってくんだろう。

2013/02/23 10:31

投稿元:ブクログ

ル・クレジオを思わせる美しい夏の日射しの中の少年たちの物語、かと思いきや…残酷でグロテスク。特に初盤の描写が美しいだけに余計展開が無残。一気読みしてしまった。

2010/08/22 00:02

投稿元:ブクログ

待ちに待った、飛さんの最新作。
繊細で美しい文体と、こちらの固定観念を打ち砕く力強い表現に、ぐいぐいと引き込まれる。
たくさんの謎を吐き出しながら展開するのに、謎解きよりも登場人物たちの(あるいは人間以上に人間らしい)行動や感情に関心が引っ張られた。
実は謎に首を傾げたのは読了後しばらく経ってから。
今後の作品が、本当に楽しみ。

2010/02/21 22:46

投稿元:ブクログ

文庫本を買おうと思って探しに行ったら、初版・サイン本と出会ってしまって購入したというエピソードを持つ本。アンドロイドは好きでもSFは苦手な私ですが、この本は最後まで一気に読めました。それは内容に寄るものというよりは、文章が美しく、また読みやすかったため。内容に関しては大いなる一歩といった感触を得ました。旅のはじまりの前に、主人公は、失わなければならなかった。そんな気がしました。美しく、グロテスクな、廃園の最後のものがたり。

2010/05/15 17:33

投稿元:ブクログ

面白い! この一言に尽きます。
始まりはノスタルジックな夏休み。夏の光と熱と、からりと晴れた空気と。仮想リゾート地という舞台、ゲストをもてなすための存在であるAIたちの、つかの間というには長すぎる休暇。寂しさと開放感とを持て余しながらも、繰り返される日常。
同じ夏の一日を過ごしていた町に、襲いかかる「飢え」との攻防を描く中で、すこし不便な休暇を提供する「夏の区界」の、本当の役割が少しずつ明かされていきます。ゲストのエゴに満ちた欲望の対象となるAIたち。
どんなに自我があるように見えても、所詮は情報でできている彼らは、自分のある意味もどういう風に設定されているかも知りながら、その枠から外れることはできない。
だから、特殊な役割を負わされたジュリーとジョゼが惹かれあうことは必然で、けれどそれは結局傷の舐めあいでしかないから、他に救いを求めるのも必然なのだろうと思います。
最後でジュリーがジュールを選ばず、ジョゼと同じ場所を望んだことは意外だったのですが、読み終わった後には納得しました。もう他に立つ場所はなかったのだな、と。
人と違い、情報の塊であるAIにとって、死の概念も人とは違うものなのかもしれませんが抱く恐れは同じように見えました。だとしたら、そこに見いだすものも同じなのかもしれません。

2011/06/01 23:13

投稿元:ブクログ

 ピクセルが官能素と呼ばれていること、これがこの小説を一番端的に表している。プログラム内部データへのアクセス=官能的(根源的快の)接触。

 ハック・クラック行為が詩的・叙情的なビジュアルで描かれ、まずその描写で一気に惹きこまれた。肉体的境界を透過する<鳴き砂>の交歓、バグを補修する存在を<蜘蛛>として知覚する住人たち。ガラス細工のコンパイラ<視体>(これがまた夏の風景によくなじむ)。その中でも地ならし屋、<鯨と天使>の描写は特に惹き込まれるものがあった。


 「アイデンティティ境界を解く」ことでAIたちが文字通り一つになって交わる姿が巧みな筆致でなんども描写され鮮烈に記憶に残る(性的な交わりだけではない――互いの境界を超えた「苦痛の交わり」もその筆致で繰り返し繰り返し描写される)。
 肉体を持たないAIだからこそもっとも深い場所で根源的な交歓を果たせるという事実に、逆説的なおかしみと不可侵の美しさを見る。
 逆説的といえば、自身をAIと認知しながらもロールを外れられず、それでもしっかりアイデンティファイしているAIたちの存在も面白い。


 物語のほうはと言えば、「完成された世界」に終わりを運ぶものの正体といえば当然……とメタ的な視点で見ていたら、予想を外す展開でびっくり。あの無慈悲さを持つランゴーニが斥候ですらなかったとは。

 とにかく、次巻が楽しみ。

2011/01/28 01:03

投稿元:ブクログ

AIの暮らす場所・夏の区画。ある日そこに謎の存在から攻撃が及んだ。AIと謎の存在による戦争を描いた作品。

グラスと呼ばれる武器を駆使するあたりでは安いバトルだと思っていたけど違いました。まあ、AI達の殺し方や過去の出来事にかんする記憶の描写は残酷すぎるとおもいましたが、神話のような話でした

2011/06/27 12:31

投稿元:ブクログ

1000年間も途絶した仮想空間での,AI達の死闘という設定が面白く,先が気になります。戦闘描写や世界観など,設定がなんというか,飛びぬけているように感じました

2009/11/12 09:37

投稿元:ブクログ

作者が「ノート」で書いている通り「清新で残酷で美しい」小説。こういう作品に(たまに)出会えるからSFはやめられない。

ある仮想現実が立ち上がった時、(実際には一度もそのプログラムは実行されなかった)歴史を持つ町に(実際には−以下同文)過去を持つ人間として創造されたAI達の一夜の戦いを、グロテスクに、かつ、透明に描く。

「わたし」とは「記憶」だ。埋め込まれた記憶に呪縛されるAIと現実の人間とは本質的に変わらないと言える。わたしのアイデンティティーを支えるもののいかに脆弱なことか。しかしまた、その頼りないところから引き出される苦痛や喜びはまぎれもなく現実のものとしてわたしにある。

わたしにとって優れたSFとは、本作のように人間の「意識」というものについて新しい光を投げかけてくれるものだ。また、解説者がいう通り、物語を読むという行為について深く胸をえぐるように考えさせられる小説でもある。仮想現実で自らのおぞましい欲望を解放する「ゲスト」とはとりもなおさず読者なのであり、それは他者の苦痛と死を快楽とする者なのだ。こんな複雑な読後感を持ったのは久しぶりだ。

★が一つ足りないのはところどころ苦手なライトノベルを読んでいるような感じになるところがあって(文体や話の展開の仕方)ちょっと気になったので。でも傑作。シリーズ次作もすぐ読みたい。

2016/06/30 23:01

投稿元:ブクログ

本を閉じるとき、いま私は、望んで、この作品世界の「長い夏休み」をぶち壊しにしたんだな、という気持ちになる。物語を進めたのはジュールであり、その前に読み手であるわたしであるような。
わたし=読者は誰にでも感情移入ができるし、自己を重ねることができる。主人公として据えられたジュール(老ジュール、あるいは「父」をハックしたジュール)にも、海岸に押し寄せたランゴーニ・蜘蛛たちにも、世界で残虐を尽くしたゲストたちにも、はたまたそれぞれの視点を紡ぐ登場人物たちにも。その一方でAIたちは人、ゲスト、プレイヤー、の手を離れた楽園で暮らしていたのであって、わたしたちが同一化することを拒んでいるようにも思える。「物語の登場人物は一ページめが捲られたその瞬間に、記憶を持つ。過去を所有する」の文が印象深い。

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