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紙の本
夢想家の改革者清盛よりも「悪」の巨魁・後白河法皇の魅力が圧倒的
2003/11/17 09:52
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
池宮彰一郎が描くところの平清盛は平安末期に摂関政治の頂点に立った藤原一族の独占する強大な官僚機構を打破し、貿易立国を戦略的国策とする新国家建設の実現をすすめる改革者である。池宮清盛はおごる平家の首魁ではない。国家経営のリーダーたらんとした政治家清盛の苦闘の生涯が描かれる。肥大化した官僚機構の弊害を糾弾するその繰り返しは現代政治に対する池宮の悲憤、憂国の情そのままに手厳しく、読むものにとって爽快感を誘う痛烈な政治批判である。しかし現代を生きる池宮は所詮小説家であって政治家ではなく、清盛にただ夢を託するにすぎない第三者的批評家でしかないであろう。当時の未成熟な国富の蓄積を見れば清盛を新国家建設の英雄に持ち上げる池宮流の解釈にはかなりの無理があると思わざるをえない。
この作品のおもしろさは清盛像ではなく、むしろ彼と敵対し、時には手を携え、呉越同舟し、同床異夢を追う、ワルの巨魁・後白河法皇の人間性におおいに共感したものだ。権謀術数の権化、新興の武家勢力をたなごころにおさめ、朝廷内で最高の実権を掌握、独裁者たらんとして、ここは清盛と同じく摂関官僚群の打倒をたくらむ。しかもおのれにある弱さをかくすことのできない凡人でもある。絶対の地位を確立して、ではいかなるビジョンで国家建設を成し遂げるかという理念は彼にはないように見える。私的野心のみ。清盛の夢想よりは、むしろそのほうがリアルで、親近感を覚えるのである。彼の周囲にまきおこる、天皇家の骨肉の争い、院政派対天皇親政派の闘争、錦の御旗を擁立するための公家、武家の複雑な策謀。このまさに百鬼夜行の権力争奪の様相が克明に冷徹にそして現代に通じる解釈で描かれる。忠臣蔵を現代的解釈で描いた『四十七人の刺客』を髣髴させる迫力である。
もう一つの魅力は合戦のシーンにある。『四十七人の刺客』がそうであったように(というのはそれまでの忠臣蔵小説には討ち入りの模様は戦闘状況が詳しくなかった)、保元の乱から壇の浦まで各合戦の戦略、戦術から激闘の模様を手に汗握るリアルさをもって描写したのはおそらくこの作品が初めてではなかろうか。とにかく圧巻である。
さらにうれしいことには子どもの時に慣れ親しんだ、水鳥の羽音に敗走する富士川の戦い、木曾義仲の倶梨伽羅峠、宇治川の先陣争い、義経のひよどりごえ、八艘とび、那須与一の扇の的などなどが装い新たに再現されている。また、源頼朝を卑小な人物とし、義経を悲運の英雄するところは通説どおりで安心して読書を楽しむことができる。
そして池宮一流の典雅な文体はこの作品でも活かされ、緊張感とともに平安末期の風情を伝えて余すところない。
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