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紙の本
最先端の思想動向から「現代」を地図化して読み解く、絶好のレッスン
2003/02/25 15:05
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投稿者:小林浩 - この投稿者のレビュー一覧を見る
フランス現代思想を主たる足がかりにして、著書や訳書を数多く発表してきた哲学者による書き下ろし12篇(うち2篇は、旧稿を大幅改訂)を収録した論文集。英仏独日をはじめとする各国の現代思想、記号論、科学哲学、芸術評論、メディア論、精神分析、歴史学、文学などを横断し、「現代思想」に通底する問題系に迫る。「思想」の実践には、現代の諸問題に潜む、今まで明瞭には見えなかった関連性を見いだす一種の「力」が伴う。著者は「一つの思想は孤立していては力を発揮できない。一つの思想を別の思想とつなぎあわせ、絡み合わせる仕事が必要だ」と書く。まさにその典型が本書であると言えよう。近代から現代に至る思想を流れを、著者は副題にある通り、「崇高から不気味なものへ」という枠組みで捉えている。崇高なものや不気味なものとはどちらも表現しがたいもの(表象不可能なもの)であり、この表現しがたいものあるいは理解を超えたもの、普通でないものが私たちの時代を特徴づける暗いしるしである。近代において戦争は一種崇高なものとも考えられていたが、911以後を生きる現代人にとって戦争は端的に不気味なものである。メディアには情報が溢れかえっているが、事態の本質はいつもどこかよくわからない場所にある。本書はいわば様々な思想の合わせ鏡で現代人の抱える精神的死角を明るみに晒すためのヒントを提起しようとする試みであるとともに、広大な現代思想をマッピングする入門書でもある。平易な語り口が多くの読者に好印象を与えるだろう。
連載書評コラム「小林浩の人文レジ前」2003年2月25日分より。
(小林浩/人文書コーディネーター・「本」のメルマガ編集同人)
紙の本
著者コメント
2003/01/06 19:12
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投稿者:宇波彰 - この投稿者のレビュー一覧を見る
現代思想は混沌とし状況にあるように見えるが、その錯綜した曼陀羅模様の構図を見つめていると、自然に浮き上がって見えてくるものがある。それは「力のある思想」である。かつてはアリストテレス、デカルト、スピノザ、マキアヴェリ、カント、ヘーゲルといった大哲学者がいつのまにか思想の系譜を作ってきた。それは長い思想の歴史の中で、自ずから形成された系譜である。21世紀を迎えた今、現代思想についてもようやく「力」を持つ思想がどこにあるのかが見えてきた。本書は、個別の思想家の思想を歴史的に追いかけたものではなく、いくつかの「概念」がどのような意味を持ち、相互にどのようにつながって、どのように力を獲得してきたかを論じたものである。
本書は、次の12章からなる。「無限記号連鎖論」「ミメーシス論」「鏡像論」「アフォーダンス論」「凝視論」「崇高論」「不気味なもの論」「物語論」「メディカルチャー論」「知識人論」「イデオロギー的国家装置論」「読むことの危機」。いずれも現代思想の最先端の問題である。本書では、これらのテーマを論じているのではなく、それらの概念が「力」を持つものとして、相互に結びつくことによってさらに強力なものになることが考察されている。
本書のサブタイトルは「崇高から不気味なものへ」である。「崇高」という、18世紀にカントによって論じられ始めた概念が、今日になってにわかに再評価・再検討されるようになったのはなぜかという問題設定から始まった考察である。カントは戦争さえも崇高になりうると書いた。それは200年前の話である。今日では「崇高な戦争」などありえない。現代の戦争は「不気味」としかいいようがない。その「不気味なもの」という概念は、1919年のフロイトの論文によって、始めて理論化され始めたものである。言語や映像などの記号ではもはや表現できないものがしだいに現実の中に溢れるようになってきたのが現代という時代である。それをいい表すには「不気味なもの」がもっとも適切である。本書では、この「不気味なもの」が、ひとつの重要なキーワードなっている。それは、現代という落ち着かない時代にぴったりの概念であると考えられる。
本書は現代思想を論じたものである。しかし、思想は現実から遊離したものではありえない。本書は、思想を現実との関係の中で考えた実践の記録でもある。
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