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紙の本
この本を読んだのはだいぶ前のことだ。随分評判になった。で、その時感じた違和感はますます大きくなった。いま、落ち着いて考えてみよう
2005/04/04 20:49
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ここ数年のことだけれど、評論か何かの中で「ストーリーを追う小説の時代が終わって、今はキャラクター小説の時代だ」みたいな文を読んで、あまり深く考えずに納得してしまったことがある。そのとき頭の中にあったのは森博嗣のVシリーズに登場する小鳥遊練無のことだった。たしかに、森の小説は、そのトリックや謎解きを楽しむと言うよりは、一人一人の登場人物を楽しむというのがぴったりの気がした。
それは京極夏彦、舞城王太郎、乃南アサ、北村薫にも多かれ少なかれ当てはまることで、無論彼らは遙かに話の構成と言う点でしっかりしてはいるけれど、私はどちらかというと登場人物そのものに惹かれていた。キャラクター小説とは、そういう登場人物そのものを楽しむものだと思っていたのだが。
この本で大塚が定義するキャラクター小説は、私のイメージとは異なり「キャラクター商品としての小説であり、具体的にはアニメイラスト付きカバーのスニーカー文庫のような小説」をいうらしい。そして、それはTRPG(テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム)の手法で書かれた小説に近いという。その実例として安田均『ロードス島戦記』をあげ、それを、日本の「私小説」との比較で論じていく。
今までの小説の書き方本と違うのは、TRPGの手法を重視する点。確かに今の子供たちには「小説を書きなさい」というより「RPGを文章で書いてみたら」というほうが分かりやすく、やる気になるかもしれない。また、ガチガチに話を作ってしまうのではなく、あくまで様々な可能性の中から、小説つくりのなかで自然に話を落ち着かせるというのも、その気にさせる。そういう意味で、ゲームを積極的に評価するということが特長だろう。
大塚は、自身マンガに関係しているせいだろう、手塚治虫の漫画作法について詳しく触れる。また、私などから見ればかなり本格的といえる近代文学論も展開する。度々言及されるのは田山花袋『蒲団』であり、新井素子というのが面白い。それから、WTCへのテロと、それに対するアメリカの戦争を期待した当時の私たちの心境を、解き明かすというか吐露する部分も、変に宗教や民族論をかざすよりは納得しやすい。
ただし、ここで紹介される「キャラクター小説の作り方」は、技法的にはオーソドックスな小説の書き方と殆ど変わらなくて、むしろ小説をTRPGを利用して書く方法とでも題した方がいい気がする。それは、もしキャラクター小説が大塚の言うものとすれば、それは明らかに小説の延長上にあるものではなく、ゲームの先にというか、それから派生したものとしか思えないからだ。はっきり云えば読者層が違う。
そして行き着く果てが、「近代文学とはキャラクター小説であった」である。おいおい、キャラクター小説とは「スニーカー文庫」があって登場した「アニメイラスト付き」のTRPG小説ではなかったのか。これは面白い本は、全部自陣に引き入れようとして結局分解してしまった一時代前のSFやミステリ論と同じではないか。要するに、キャラクター小説の定義が曖昧なのだ。
それでもこの本は面白い。それはゲームと小説を隔てるものが、文章と言う皮一枚であり、それ以外には殆ど同じ手法から作られていること。ゲームを通じて小説を書く訓練ができること、ゲームを作るのも意外とローテクなんだということが分かることである。ネットを見てもわかるように大塚の影響力は極めて大きい。とりあえずRPGでもなんでもいい、この本で創造することを楽しむ人が増えることは間違いない。
紙の本
スニーカーを媒介としたブンガクへの警鐘を込めた文芸批評
2003/03/11 21:21
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投稿者:hybird - この投稿者のレビュー一覧を見る
スニーカーを媒介としたブンガクへの警鐘を込めた文芸批評。
コミック原作者としての小説論かと思い読み始めたところ、実はジュニア小説の書き方本であったことには驚いたが、読後の印象としては、ジュニア小説の書き方という名を借りた、著者なりのブンガクへの危惧が纏められた文芸批評。
書き手・読み手ともに作品の世界観や細部にとらわれ、物語自体が軽視されいる——そんなここ暫くのブンガクの状況を、著者はまさに憂い、死や戦争についての表現方法に対しても警告を発してる。
また、小説の書き方本という観点で見ると、テーブルトークRPGで磨け、という著者の視点には納得させられる。しかし同時に、面白い小説を書くためには、いろいろ修練が必要なのだな、とも実感。
興味のある方はドウゾ。