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紙の本
ラカン理論が民主政治を刷新する。少壮学者の力作論考
2003/03/17 18:51
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:小林浩 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は1970年にギリシアに生まれ、現在はイギリスで研究活動を続けている俊英で、エルネスト・ラクラウやシャンタル・ムフの弟子筋にあたる。本書は1999年に英米で出版されたもので、彼の処女作である。ラカンの精神分析の政治的可能性を、ラカン本人の思想だけでなく先行する数多くのラカン研究書を参照しながら系統立てて探っていくた好著で、師のラクラウをはじめ、ラカンを政治思想へ転用してきた先達の代表格といっていいジジェクも賞讃の声を寄せている。少なくともラカン本人は現実の政治に積極的に参加するような人物ではなかったが、彼の精神分析は現実政治の倫理的基盤の再定礎に貢献し得る重要なヒントをもたらすのだということを、本書は教えている。本論にあたる全五章のうち、最初の三章「ラカン的主体」「ラカン的対象」「政治的なものを包囲する」では、ラカンの精神分析理論や概念装置が政治理論や政治分析にどれほど有用であるかが検証される。後半の二章「ユートピアの幻想を越えて」「両義的民主主義と精神分析の倫理」ではより具体的に、ラカン理論が政治的理想主義の腐敗に抗し、新たな政治的触媒として民主主義の窮地を解放する役割を果たすポテンシャルを有していることが論証される。ラクラウやムフによるラディカル・デモクラシーの構想の発展的継承がここでは見られる。ラカン理論は、政治における「すべての壮大な幻想に関するわれわれの考え方を変えようとする闘いの最前線に位置している」わけである。本書は、ジジェク、バトラー、ラクラウによる討論の書『偶発性・ヘゲモニー・普遍性』(青土社、2002年)での錯綜した議論に、一定の論理的道筋を与える効果を有するものと思われる。日本ではスタヴラカキスはほとんどまだ無名に等しいが、本書の力作ぶりは、ラカン読解における新たな基本書とみなされるに充分な仕事であるといっていい。
連載書評コラム「小林浩の人文レジ前」2003年3月18日分より。
(小林浩/人文書コーディネーター・「本」のメルマガ編集同人)
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