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(収録作品)Y駅発深夜バス(青木知己)/ポポロ島変死事件(青山蘭堂)/悪夢まがいのイリュージョン(宇田俊吾)/聖ディオニシウスのパズル(大山誠一郎)/夢の国の悪夢(小貫風樹)/とむらい鉄道(小貫風樹)/稷下公案(小貫風樹)/作者よ欺かるるなかれ(園田修一郎)
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友人より貸借。
指定を受けた、小貫の3作、Y駅、ポポロ島、聖ディオニシウスのみ読了。後半3作も結構トリックやネタが凝ってて、頑張った感があるのですが、小貫さんの作品がダントツで好みです。特に「夢の国の悪夢」。
トリックもすごく意外性がありかなり乾いたラスト。その物語世界全体を、某都市伝説を彷彿する不気味さが漂っています。舞台となる某夢の国があかるく無邪気な雰囲気を持った舞台であるだけにその奇怪さや恐怖が増幅されているようです。ラスト付近は読んでてとっても怖かった。
それにしても本当に、これくらいの書き手だったら、短篇連載作家としてスタートを切っていてもよさそうなものなのに…世に出ているのはこれだけなんだとか… もっと読みたいなーと思わせてもらっただけに残念です。
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小貫風樹「とむらい鉄道」が読みたくて購入。どす黒いロジックといい、後味の悪さといい、期待以上の傑作。嗚呼この人の長編が読みたいなぁ
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『新・本格推理』シリーズも3冊目になって、今回は一種の転機のようなアンソロジーになったようだ。
というのもなんと前シリーズ『本格推理』でも成しえなかった一人の作者による複数掲載、しかも3作というからすごい。その作者の名は小貫風樹氏。その3作に共通するのはダークなロジックともいうべきチェスタトンの逆説や泡坂氏のロジックを髣髴とさせる悪魔のロジックだ(実際アンケートでこの作者は尊敬する作家の中にこの2者を含めている)。彼の書いた3作からまず感想を述べていきたい。
まずこのアンソロジーでも冒頭を飾る「とむらい鉄道」から。最近「全国赤字路線安楽死推進委員会会長」と名乗るテロリストの手による廃線寸前の鉄道の鉄橋爆破事件が頻発していた。その事件に巻き込まれて死んだ叔父の葬式に出た帰りに駅でまどろんでいた春日華凜は久世弥勒なる妖しい雰囲気を纏った人物に出逢い、宿泊先へ案内される。宿屋で寝ていた華凜が目覚めた時に弥勒が持っていたのはなんと爆弾だった。弥勒はテロリストその人なのだろうかというストーリー。
弥勒の、男性とも女性ともつかぬキャラクターや犯罪を止めるのならば殺人も厭わない冷酷さは今までの応募作品にはないダークな感じがして良い。最後の結末は詰め将棋のような精緻さと冷酷さで衝撃的だった。「解決」と「解明」の違いについて論じるところは、なるほどと得心が行くところがあり、面白かった。
次に「稷下公案」。これは古代中国を舞台にした作品で「とむらい鉄道」とはガラリと舞台設定、雰囲気を変える。稷下という今で云う学園都市で起きた事件。学士の楽園とされる稷下では孟嘗君に代表される食客とが入り乱れていた。そんな中、学士の青張と食客の青牛が街中で喧嘩をしていた。実の兄弟であるため、ただの兄弟喧嘩であろうと思ったが刀の名手である青牛は激昂のあまり、刀を抜きだす。そこへ現れた学士淳于髠が見事にその場を収めてしまう。騒動の一部始終を一緒に見ていた知叟と愚公はその後行動をともにするが、そこでものすごい音響と共に自分の家の厩で淳于髠が圧死した現場を目の当たりにする。
要約するのが難しいほど情報量が詰まった作品。古代中国の世界ならびに当時の思想家の思想を詳細に描くこの作者の懐は十分に深く、そのあまりに見事な筆致にプロの覆面作家ではないかと邪推してしまうほどだ。「とむらい鉄道」にも見られた「悪は悪を以って制する」、「人を殺めた者は処刑を以って罰する」という精神はここでも健在。特に前半、善人と思われていた孟嘗君のどす黒い嫉妬が明らかになる辺りは読んでて戦慄を覚えた。
そして最後は「夢の国の悪夢」。これも現代を舞台にしながら「とむらい鉄道」とはガラリと趣きを変えた作品。ディズニーランドを思わせるウイルスシティーというテーマパークで起きたマスコット、ウイルスラットの首切断事件。それは一瞬にして起きた突然の事件だった。犯人はどのようにして首を切断したのか?
ここでは「とむらい鉄道」で探偵役を務めた久世弥勒が再登場する。3作の中では出来は最も劣るものの、ディキンスンを髣髴とさせる異様な世界で繰り広げられる闇の論理がまたしても読後不気味に立ち上がってくる。真相の着ぐるみが事故で首を切るというのはえっと思ったが、この作品の本領はここにあらずだから、許容範囲か。
2021年のミステリ界ではまだ見ぬこの名前。もしかして既に別名義でデビューしているのか気になるが、もし作品が上梓されれば買ってみたいと思う。
その他5作でよかったのは「Y駅発深夜バス」が文句なしだ。接待で終電に乗り遅れた坂本は、妻が教えてくれた深夜バスに乗る事にした。陰気な雰囲気のバスは果たして予定通り家の近くに着いた。0:10の便に乗り遅れ、1:10の便に乗った坂本は翌朝妻から、その便は日曜は運休だと告げられる。
こういう、特別な日に起きた殺人という趣向は結構好き(今回はしし座流星群)。冒頭の深夜バスに乗り込む件は『世にも奇妙な物語』テイストでかなりいい。一部、二部構成も必然性があるのだが、最後のオチである、子供の面影が浮気相手のそれというのは余計かも。
まあ、歴然たる証拠の1つではあるのだが、私の好みではない。
その他、前回「湾岸道路のイリュージョン」の続きである「悪夢まがいのイリュージョン」、チェスタトンの「見えない人」に挑んだ「作者よ欺むかるるなかれ」、共に孤島物である「ポポロ島変死事件」、「聖ディオニシウスのパズル」も水準作であるのだが、今回は小貫風樹氏という1人の天才の前に霞んでしまった感が強い。ロジックに精緻さを感じるものの、心情に訴える魅力を感じなかったのだ。
今回はこの天才の才能に素直にひれ伏して4ツ星を捧げよう。
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本格推理小説の公募アンソロジー『新・本格推理〈03〉りら荘の相続人』を読みました。
二階堂黎人が編集、鮎川哲也が監修している作品… 本シリーズは今年の3月に読んだ『新・本格推理〈02〉黄色い部屋の殺人者』以来ですね。
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本格推理界の新しい旗手となり得るか? いつにもまして優秀な書き手が勢揃いした本書。
アマチュアのレベルをはるかに超えた8作品がずらりと並んだ。
特に全くの新人から驚くべき鬼才が登場。
その才能をぜひ見極めていただきたい。
このシリーズを誕生させ、10年間に亘って見守り育ててきた鮎川哲也。
本書は氏監修の最後の一冊となった――。
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論理的でフェアな謎解きに主眼を置いた本格推理の短編を募集する企画として発行された『本格推理』(全15巻)を引き継いだ『新・本格推理』の第3作にあたる作品… 2003年(平成15年)の刊行で、以下の8篇が収録されています。
■まえがき 二階堂黎人
■とむらい鉄道(小貫風樹)
■悪夢まがいのイリュージョン(宇田俊吾、春永保)
■作者よ欺かるるなかれ(園田修一郎)
■収録作家6人へのアンケート
■稷下公案(小貫風樹)
■Y駅発深夜バス(青木知己)
■ポポロ島変死事件(青山蘭堂)
■夢の国の悪夢(小貫風樹)
■聖ディオニシウスのパズル(大山誠一郎)
■原稿の書き方・推理小説の書き方 二階堂黎人
■「空前絶後の本格推理小説を求む!」《新・本格推理》第四回原稿募集
さすが応募約88篇の中から厳選に厳選を重ねて選ばれた8作品…… 本格ミステリの伝統を受け継ぎつつ、独自の工夫や個性を発揮しており、どの作品も面白かったですねー
そんな中でもイチバン印象に残ったのは、赤字路線だけを爆破するテロリスト事件を、チェスタトン的な転倒と、探偵の後味の悪い解決方法で描き、エンディングで発動する時計仕掛けの壮麗なカタストロフィが美しい小貫風樹の『とむらい鉄道』ですね。
小貫風樹は、本書で初採用にして3篇が選ばれているんですよね…… 小貫風樹の作品では、変なアトラクションばかりの風変りなテーマパーク「ウイルス・シティー」で、メインキャラクターのウイルス・ラットの着ぐるみを着ていたアルバイトの青年が首を斬られて殺される『夢の国の悪夢』も、なかなか面白かったですね。
その他には、、、
殺害後、死体を旅行鞄に詰め込んで、車で山奥に運び込み、遺棄しようとして車のトランクを開け旅行鞄を開けてみると死体が消えていたという謎を描いた『悪夢まがいのイリュージョン』、
深夜の最終バスに乗ったところ、乗客は皆、これからあの世に行くかのように黙って椅子に座っているばかり…… 間違って異世界の幽霊バスに乗り込んでしまったのか――という、悪夢のような出来事と、団地内での自殺事件が綺麗に結びつき、おぞましい真相が鮮やかに解き明かされる『Y駅発深夜バス』
孤島の宗教施設での首切り+見立て殺人をスマートな謎解きで明らか��し、すこぶる現実的な理由が意外性抜群な『聖ディオニシウスのパズル』、
あたりが好みで印象に残りましたね… 本シリーズは好みの作風が多く、ホントに愉しめますね。