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黒い世界に落ちた八郎を、白い世界から気遣う小兵衛の物語……?
2012/07/15 13:57
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投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
『黒白』という題名から、囲碁を連想した。だが、主人公の波切八郎が得意なのは、将棋だった。そして、彼は、自分以上に将棋の強い女性、信(のぶ)に恋をしてしまう。ところが、彼女は、実は、初心な男を手玉に取る、とんでもない悪女だった……かのように見えたのだが、それもまた、違うようだ。信には、深い事情があり、波切八郎も、底の知れない闇の世界にはまりこんでいく。
剣術一筋に生きて来た、若い道場主が、悪意を秘めた人々によって人生を狂わされるという、陰惨な物語になりそうに見えて、意外や、暖かさと明るさは失われない。父の代からの高弟三上達之助や、同じく父の代からの老僕市蔵の、義理堅さや忠実さは言うに及ばず、闇の世界に落ちてから知り合った、岡本弥助や、その部下の伊吉も、憎めない人物である。それに、なんてったってこれは、あの秋山小兵衛の若き日の物語なのだ。『剣客商売』シリーズ中の短編『剣の誓約』で、小兵衛が大治郎に語り聞かせた、後に妻となり母となるお貞(てい)を、兄弟弟子と争い、小兵衛が勝ったという、あの頃の話なのだ。
同シリーズ中の短編『天魔』に、笹目千代太郎という、驚異的な跳躍力と悪魔的な性格を持つ剣客が登場したが、ちょうど彼と同じような、驚異的跳躍力を持つ、水野新吾という若者が、波切八郎転落のきっかけとなった。
八郎も、新吾も、そのときまで、そんな傾向はまったくなかったのに、ふとしたきっかけから、八郎が同性愛的な欲望にとらわれて新吾に襲いかかりそうになり、新吾は逃げる。
このエピソードは、なかなか、おもしろい。私は、あの秋山大治郎が、短編『剣の誓約』で、片肌脱ぎで弓矢の稽古をする伊藤三弥に出会ったり、その翌日には、小兵衛の隠宅のそばで、男装の佐々木三冬に出逢い、女性とは気づかずに、その美しさにみとれてしまったエピソードを思い出す。大治郎の場合は、同性愛への誘惑にさらされながらその傾向が発露する間もなく、三冬への異性愛へと発展していったけれど。
背の低い小兵衛は大治郎の胸のあたりに頭が届く程度。波切八郎も、ちょうどその大治郎ぐらいの背丈で、大治郎と同じように巌のようにたくましい男性だ。それに信に出逢うまで女性を知らなかったというのも、どこか、三冬に出逢うまで女性を知らなかった大治郎と共通する。いわば、『黒白』は、もうひとりの大治郎の物語、といえるかもしれない。
その物語が、八郎が父親に斬られそうになって逃げる夢で始まると言うのは、衝撃的だ。しかも、目を覚ました八郎の枕元には、父親手づくりの有明行灯があり、父子の愛情は、小兵衛と大治郎と同じように、深いものなのである。
にもかかわらず……八郎は、どうして、このような運命に落ちてしまったのか?小兵衛との真剣の立ち合いの約束をしておきながら、それを破らねばならなくなり、剣客として世に立って行くことを諦め、暗殺を請け負うようになった。こうなった背景には、徳川の天下を守るために暗黒の部分を担う大名か旗本かわからない誰かの意志が、関与しているらしい。岡本弥助は、その人物の配下なのだった。
八郎の下僕だった市蔵が、新妻お貞を迎え、新しい道場を建てた小兵衛の下僕となり、小兵衛の八郎への尊敬と友情は、変わることがない。八郎は闇の世界から戻ってくることができるのか。岡本弥助の仕える主人は誰で、何を企んでいるのか。真相は下巻で明らかにされるのだろう。
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番外編でありながら、大変な傑作というか、最高でしょう。あくまでも、主人公は波切八郎なのですが、若き日の小兵衛の姿もそれなりに魅力的に描かれています。新装版となり、シリーズの一部であることが以前よりも明確に示されるようになっていますが、この作品のみでももちろん堪能できる完成度です。タイトルもニクイな〜。
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祖父の代から目黒に道場を構えていた小野派一刀流の剣客・波切八郎は、御前試合の決勝で敗れた秋山小兵衛に真剣勝負を挑み、小兵衛は二年後の勝負を約した。それを待つ身でありながら八郎は、辻斬り魔に堕ちた門弟に自首を促すことができずに成敗してしまう。道場を出奔し浪々の身となった八郎は、想いを通じた座敷女中のお信にそそのかされるまま、お信の敵、高木勘蔵を討つ。
【感想】
http://blog.livedoor.jp/nahomaru/archives/50734945.html
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全2巻。
剣客商売番外編。
小兵衛が若くて少しゴリッとしてる。
もう一人の主人公と言える敵役が良い。
二人が交わってしまうシーンはハラハラ。
話としては成立しなくなるけど
交わらないで幸せでいてほしいと思った。
エピローグがうれしい。
シリーズとしてはもちろん星5つ。
単品なので4つ。
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剣客商売の番外編
小兵衛とは対極的な魅力的な主人公を設定し、
二人の生き様が綾なす物語は剣客商売フアンに
とっては答えられないだろうな
(kitanoは最近のフアンだもん)
小兵衛の生き様を形成した物語としても秀逸!
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秋山小兵衛というよりは、波切八郎の話。秋山小兵衛が際立っていました。
最後のエピソードもほんわかと、人は色々な所で繋がっているとしみじみ。
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はじめて 池波正太郎の本を読む。
次々に いろんな人が出てくるので・・・
読みにくいなぁ。
波切八郎 という 無垢な剣客が・・・・
純粋培養されすぎた 剣客 ということだろう。
物語のテンポがよく読みやすい小説だ。
それが 何よりも楽しい。
時代小説も 結構いけるね。
時代劇の独特の表現が オツ である。
これで だいぶ 読むことができる本が うまれた。
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若き日の秋山小兵衛を描く長編。しかしこの物語の本当の主人公は、小兵衛に真剣勝負を申し込んだ剣客、波切八郎と言える。転変してゆく運命の中で、人には変わってゆく部分と変わらない部分がある。他にも魅力的な登場人物が多い。
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時代小説。「剣客商売」シリーズ番外編。上下2巻。
小兵衛の若かりし頃(32歳~)、剣客・波切八郎との出会いとそれぞれの過ごした日々が描かれている。
波切八郎と真剣の勝負を約束した小兵衛は、勝負に勝った暁には、師の道場の後をつかず自らの器にあった道場を開き、お貞と夫婦になろうと思い、精進している。
しかし波切八郎の方は、ふとしたことから剣の道を踏み外して黒幕からの刺客として動くことになる。そのため小兵衛との約束も果たせなくなり・・。
冒頭から小兵衛ではなく、波切八郎のことがたくさん書かれており、その合間に小兵衛の今は?というような書き方になっているので初読の折は少し読みづらかった。
もう上下巻読み終わり、全体としては非常に読み応えのあるものだった。
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この「黒白」は剣客商売の秋山小兵衛の若いころを描いていて、作者の池波さんは「剣客商売」が始まってから10年後にこの長編を書いたそうです。
小兵衛の若い姿をも読者に紹介したくなったのでしょうね。
この作品を読み終えたら蕎麦を食べたくなったので、その名も「小兵衛」というお店に行ってきました。
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ちょっとしたズレから転落していく主人公。でも性根は正しいので、いつか修正したいともがく中で、人情味あふれる人間関係が出来上がっていく過程がまた良い。秋山小兵衛ほど完璧ではないからこそ、共感できるこの人生がまた良い。
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本編からはだいぶ前の設定。小兵衛がお貞と一緒になった時あたりの話、御前試合で小兵衛に敗れた波切八郎が自分の門弟を切ったところから始まる。
小兵衛が出てくるのは合間合間ですが、波切のディティールがしっかり書き込まれており、小兵衛とのつながりや世界観がしっくりときます。それでいて、小兵衛ではない人がどのように動いていくのかとても気になる。。。
厚い本ですが、あっという間に読み終わりました。下巻が楽しみ。
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波切八郎を中心に、謎めいた人物が多く登場する物語だった。小兵衛と妻・お貞の夫婦になるまでと、夫婦になって後の息の合った姿が読者には嬉しい。八郎に関わる人物として、橘屋忠兵衛、お信、岡本弥助などは、八郎にしてみればまさに得体の知れない者たちだ。それぞれが自身の真の姿を隠し、表面だけで繋がっている。読者には、場面転換をし、時間軸を遡りしながら少しずつ彼らの正体を教えてくれる、そんな楽しみのある時代小説である。
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若い道場主がちょっとした事からどんどん人生を狂わせていく。秘密のある登場人物が多く、常に振り回されている。
アラサーの小兵衛もちょこちょこ出る。
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剣客商売番外編。
小兵衛さんと真剣試合をする予定だった波切八郎がメインのストーリー。
出る人出る人が、謎めいていて、怪しさ満点。
小兵衛さんとお貞さんの夫婦時代も描かれていて、とても楽しい。
個人的には、市蔵がお気に入りキャラクターです。