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神の発明(講談社選書メチエ)

神の発明 みんなのレビュー

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みんなのレビュー18件

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18 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

神のマテリアリズムを探求する学術エンターテインメント

2003/06/28 20:10

4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る

 講義録「カイエ・ソバージュ」シリーズ──旧石器人類の思考から一神教の成り立ちまで、「超越的なもの」について、およそ人類の考え得たことの全領域を踏破することをめざした野放図な思考の散策──全五冊のハイライトとも言える本書で、中沢新一は「神のマテリアリズム(唯物論)」を試みた。

 それは「神(ゴッド)の観念」の出現を、マルクス・エンゲルスの顰みに倣って「自然史の過程として」探求しようとするもので、中沢氏が議論の出発点に据えた「マテリアル」とは脳、それも認知考古学が想定する現生人類の脳──スイス・アーミー・ナイフのようなネアンデルタール人の「特化型」の脳ではなく、認知的流動性をもった「一般型」へと進化した現生人類の脳(スティーヴン・ミズン『心の先史時代』)──である。

 ホモサピエンス・サピエンスの脳=心の内部の出来事としての超越、つまり「内在的超越」(スピノザ)という現生人類の心の基本構造をもとに、「超越性」の発生、つまり人間の心が神を発明する物質的=精神的プロセスを明らかにすること。具体的には、日本古語の「モノ」が含意する「タマ」や「カミ」、つまり精神的なものと物質的なものとの界面で立ち上がる「半‐物質」的な「スピリット」を「心の胎児・心の原素材」として、そのトポロジー変形を通じて「多神教宇宙」が、ついで「唯一神」が出現するプロセスを解明すること。

 中沢氏一流のほとんど名人芸の域に達した軽やかでのびやかな語りが堪能できる本書は、唯一神の誕生という「スリリングな話題」に関する部分が「抑圧」の一語で片づけられていて、やや説明不足の感を拭えない点を除き、知的刺激と興奮に満ちた、新しい学──観念論と唯物論、心の科学と物質の科学がひとつにつながるレベルを示す「二十一世紀の思考」、あるいは一神教の成立、科学革命に続く第三次の「形而上学革命」をもたらすもの──の可能性を予感させる学術エンターテインメントである。

 とりわけ興味深いのは、キリスト教の三位一体の教義のうちに「情報」(父と子の同質性)と「生命力」(聖霊の増殖する力)という二つの機構を抽出し、それらを「生命」と「経済」と「神」の三位一体的関係をめぐる議論へと敷衍した上で、生命力=増殖力としてのスピリット(精霊・聖霊)の未来を透視する終章だ(それは、「カイエ・ソバージュ」シリーズ最終巻のテーマを予言するものなのだろうか)。

《しかし、そんな人類に変わっていないものが、ひとつだけあることを忘れてはいけません。それは私たちの脳であり、心です。数万年の時間を耐えて、原初のみずみずしさをいまだに保ち続けている、現生人類の脳だけは、いまだに潜在的な可能性を失ってはいません。そこにはまだ、はじめて現生人類にスピリット世界が出現したときそっくりそのままの環境が、保たれ続けています。根本的に新しいものが出現する可能性をもった場所と言えば、そこにしかありません。私たちはそこに、来るべき未来のスピリットを出現させるしか、ほかには道などないでしょう。》

 ──ところで、本書の全編にわたって繰り広げられる人文知と科学知との比喩的重ね合わせ、たとえば、スピリット世界から多神教宇宙への精神力学的過程を物理学の「対称性の自発的破れ」の概念でもって説明したり、多神教的な神々の宇宙の基本構造「高神‐来訪神」を、ラカンの心のトポロジー論を援用して「トーラス型‐メビウス縫合型」と表現しているところなどは、それがほとんど本書の魅力と可能性の中心であるだけに、アラン・ソーカル(『「知」の欺瞞』)流の批判への無防備さが気になる。

 しかし、よくよく考えてみると、本書の全編、というより「カイエ・ソバージュ」シリーズ全体が、まさにソーカル流の一見妥当な外観をもった批判に対する、よりスケールの大きな回答になっている。

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紙の本

刺激的な書

2004/07/10 23:31

3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:yuyuoyaji - この投稿者のレビュー一覧を見る

タイトルから推測されるように、本書では神がどのような思考のプロセスをへて生まれてきたか、を考察する。ここでいう神とは、「超越者として世界を創造し、秩序を与えている」抽象的な神(ゴッド)と「森羅万象に住む」具体的なスピリットとしてのカミが前提とされる。本シリーズの他の巻でもそうであるように、キイワードは「流動的知性」と「対称性」である。

現世人類はニューロンの革命的進化によって思考自体について思考することができるようになった。その流動的知性が生み出した神には、常在神としての「高神型」—グレートスピリットや南島の御嶽の神など—と遠方から来訪する「来訪神型」がある。高神が生の領域のみを支配するのにたいして、来訪神—スピリット—は死と生、裏と表の領域を往き来できる対称性をもつ。高神は来訪神の対称性の原理と多神教宇宙のなかに共存しあっている。流動的知性が開く超越の領域と自分たちの外にひろがる自然のあいだをつなぐ通路をスピリットたちが飛び交っている。スピリットたちが活動する世界に「対称性の自発的破れ」がおこると、その切れ目を縫い合わせようとして神々のイメージが生まれる。さらに自分自身が全体性そのものになろうとする思考によって、多神教の宇宙が構想される。さらに、この世を秩序ある、知的にも理解可能なものにするためにことば的表現で満たそうとして「高神+来訪神=ゴッド」の世界がつくられた。しかし、現実はことばの象徴的秩序によってつくられるという考えそのものが「空虚な穴」を必然的に生み出してしまう。そこで一神教の神だけがこの空虚を満たすことができると考え、「完全な知性」としての神が発明された。キリスト教の唯一神のもたらした「あらゆるものを商品化し、管理する今日のグローバル文明」に代わって根本的にあたらしいものを生み出す流動的知性がもとめられている。「地球上のあらゆるものにたいして慎ましさの感覚をもつ」ことが必要である。それを実現するのは、「現生人類の脳」が誕生したときとおなじように、高次の対称性をもつスピリット世界を人類の心によみがえらせることによってのみ可能である。言い換えれば、スピリットは観念論と唯物論を統一し、野生の思考をとりもどす精神世界の救い主である。

ユダヤ教のヤハウェやアポリジニの神、日本の神社信仰などを示し、華麗な比喩を交えながら神の発生学が心の構造の表現としてときあかされている。かつて『雪片曲線論』で密教による心の解放を追求した著者が「全体性の思考」の必要性をアピールするいっぽう、著者自らが宗教全体を精神考古学として総括している。仏教との関連はもっとも深いと考えられるが、それは『カイエ・ソバージュ第5巻』で展開されると思われ本書ではほとんど触れられていない。また王と国家の発生と神の発生が具体的にどのように対応してきたのか、近い将来明らかにされることを望みたい。文化人類学や民俗学・民族学に関心をもつ者、あるいは宗教にひきつけられながらも組織の束縛や権力のもたらす腐敗、おぞましい暴力や絶対主義の独善性にためらい、現実の宗教活動にはふみだせない者にとって刺激的な書である。

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