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紙の本

古典は、遠くにありて思うもの。聞いておくだけで止めておけばよかったのに、つい手を出したらこの始末。古典に対して失礼だろうって?では、お読みください

2005/03/29 19:58

13人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

この本、もし私が恩田陸の同名の小説『ねじの回転』を読んでいなかったら、果たしてこの本に手を出したか、大いに疑問である。ヘンリー・ジェイムズならぬヘンリー・ミラーくらいならば、一応ピンとは来るものの、文学史という所で読書をしようとは思ったこともない私は、文学界の大御所と聞いたところで、それがナンボノモンジャイ、で切り捨てたくなる。

で、このほんのカバーには、アメリカ的なものとヨーロッパ的なものの対立「デイジー・ミラー」。解釈をめぐって議論百出の、謎に満ちた幽霊談「ねじの回転」と書いてある。さぞかし、凄い話なのだろうなあ、やっぱり名作という以上は、ジェーン・オースチン『高慢と偏見』くらいの面白さはあるんだろうなあ、と期待して読み始めた。

スイスの小さな町ヴェヴェーで、休養中のウィンターボーン青年が小説の主人公である。アメリカ人で裕福な家庭に生まれた彼は、27歳、ジュネーヴで勉強中である。彼がこの町にやってきたのは、「トロワ・クワンヌ」ホテルに滞在する伯母を訪ねてのことである。そこで青年は、同じくアメリカ人であるランドルフ少年と、その姉のデイジー・ミラーことアニー・P・ミラーだった。絶世の美女であり、ホテルでも評判の女性に彼は惹かれていくが、デイジーは奔放に男たちの間を舞っていく「デイジー・ミラー」。

これって、ヨーロッパとアメリカ的なものとの対立ではなくて、規律と自由、上流と中流といった二項対立のほうが適切で、欧米といった比較はあまり適切だとは思えない。

ダグラスが語るのは、二人の子供の前に現れる話で、「子供がからむので、ねじをよけいに一回転させるというなら、子供が二人の場合は」ということばが表題に繋がる。今から二十年前、妹の家庭教師で彼よりも10歳も年上だった女性が書き残した物語である。ロンドンで住み込みの家庭教師の仕事に就いた彼女が出会ったのは、美しい少女フローラと、大人たちを夢中にさせてしまう天使のように愛らしい少年のマイルズだった。そして、何か隠しごとをしているような家政婦のミセス・グロウス。ブライの邸で、家庭教師が見たものは「ねじの回転」。

こわくない。訳文のせいもあるのだろうけれど、まだるっこしいだけで、少しも面白くない。対象をぼかして書く、時間をずらして描写する。しかし、そのどこまでが現代作家に見ることができる意図的なものであるか。正直、そこまで論理的な作家ではなかったのではないだろうか。幽霊談=ホラーではないのだろうけれど、キングを読みなれた私には、所詮、古色蒼然、内容すかすかの小説である。

何度も書くけれど、文学史上の重要な作品は、必ずしも文学的な名作であるとは限らない。エポックメイキング、スキャンダラスであればそれで役を果たすものだってある。むろん、ジェイムズのこの本がそうだとは言わないけれど、少なくとも収められた二篇には全く魅力を感じない。むしろ、このレベルの作品をありがたがることが、かえって読書離れを促す気がしてならない。時代を超える傑作ではない、それが正直な感想だ。

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