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紙の本
著者コメント
2003/08/02 22:47
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投稿者:紺野あきちか - この投稿者のレビュー一覧を見る
この小説では、ライヴRPG(LARP)というアナログなゲームに興じる、nerdsと呼ばれるアメリカの人々をえがいています。ゲームのなかの世界ではなく、それをプレイする人々をえがくことで、〈架空の世界/現実の世界〉という、一歩カメラを引いて映画撮影のセットまで映ってしまったような二重性が生じました。物語への純粋な没入を阻害する、この二重性というノイズを最後まで維持することが、作者にとって重要な規制でした。そのために、狭義の「サイエンス・フィクション」の枠からは完全に外れています。といってポップ小説と呼ぶにはむやみに筆が走っている気もしますし、実に中途半端な作品です。
中途半端といえば、いわゆるウェル=メイドな物語への嫌忌が、この作品の印象をさらに半端なものにしています。ぼくが規範としたのは、初期の海外製コンピュータ・ゲームでした。ノー・ヒントで旅に放りだされ、絵は記号同然で、バランスは最悪。そのうえ展開は唐突で、やたらと難解で——でもそれだけに、画面のむこうに無限の世界が広がっているように思えたゲームたち。ぼくにとってゲームというのは、アナログ/デジタルを問わず、プレイヤーに最大限の想像力を要求する、きわめて文芸的なメディアでした。よってこの作品も、「むかしのゲームは、画面解像度(レゾリューション)が低くてバランスが悪かったからこそカッコよかった」という思想にもとづいて書かれています。そう、ここで目指したのは、音楽スタイルでいうところの“ローファイ”ならぬ、〈ローレゾ〉です。
そんなわけで、この小説にも下手なゲームマスターが話を進行したような、危なっかしい個所がいっぱいあります。その方がnerds——“ヘタレた人々”を描いた小説にふさわしいと感じたからですが、単に作者が本当に下手クソなだけかもしれません。その辺の危なっかしさも含めて、楽しんでもらえるとさいわいです。
ところでこの作品の内部には、ある巨大なカタストロフィが用意されています。ふたつのことに気がつけば、進行中の終局的な事態がはっきりと浮かびあがってきます。しかしその帰結は、通常の方法によっては提示されません。
そこにたどりつくには、意識である彼女はあまりにも明晰だからです。
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