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紙の本

何ひとつ確かなものなどなく、すべては仮象でしかない、一度この世界の空気を呼吸すると、他の濃密な空気が耐え切れなくなる

2014/12/16 20:47

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:abraxas - この投稿者のレビュー一覧を見る

表紙を飾るのがプロムナード・デ・ザングレなのか。棕櫚の並木が海岸通に沿って消失点に向かって遠ざかっていく。地中海から差す光を受けて立つ男が曳く長い影から見て朝早くだろう。人通りのまばらな避暑地のものさびれた風景がパトリック・モディアノの作品世界を暗示する。趣味の良い装丁である。訳が堀江敏幸というのもうれしい。

舞台は南仏コート・ダジュールのニース。安ホテルに独り暮らし、一階のガレージを預かる「私」はガンベッタ大通りでヴィルクールと再会し、うらぶれ果てた相手の姿に戸惑う。七年前、写真家だった「私」はマルヌ河岸の水浴場を撮影中、シルヴィアと出会った。親しくなり、招かれたヴィラにいたのが夫のヴィルクール。当時の彼は「南十字星」という宝石を転売し、中洲にある小島にホテルを造ろうという野心家の青年だった。その「南十字星」の首飾りをしたシルヴィアと、駆け落ちしてきたのがニース。宝石を売った金で暮らしていけるはずだったのだが。

モノクロームで撮影されたモンテカルロの水浴場の写真集に触発された「私」は、パリ近郊マルヌ河岸に今も残る水浴場の写真を撮り、写真集を作ることを考える。華やかなモンテカルロに比べ、マルヌ右岸はかつての娼婦や女衒たちの家が立ち並ぶいかがわしい佇まいを残す地区である。左岸に建つ豪邸の主、ヴィルクール夫人も隣接する撮影所の秘話を語る口ぶりから、過去を持つ様子がうかがえる。そのすべての登場人物が素性の知れないあやしい人々ばかりという、モディアノならではの人物設定は健在である。

観光客で溢れる避暑地で気ままに独り暮らしを送りながら、その実過去に囚われたままの今の「私」。人目を避け、二人で息を詰め、カフェやレストランに出向いては宝石を買ってくれる人を探していた駆け落ち当時。行方知れずとなった恋人を探して探偵のように手がかりを嗅ぎまわる「私」。断片的に回想される何層にもなった過去の記憶が、ねじれた時間軸の周りを回り出す。ほぐれるように浮かび上がってくる、男と女の逃避行の果てに起きたある事件とは。

住み慣れたパリを離れても、時間を忘れたような古い建築や見捨てられたような安下宿を訪ね歩く手法は変わらない。相も変らぬ唐突な「置き去り」を主題に、愛する女を失った男の喪失感と、その謎を追う追跡劇を描くモディアノの筆は期待を裏切らない。観光客相手にスナップ写真を売りつける写真家が偶然撮影した一枚の写真の中からファム・ファタルをめぐる男たちの思いもかけぬつながりが浮かび上がる謎解きなど、巷に溢れるつまらぬミステリを超えているとさえ思うのに、時系列を追って書き進めば純然たるミステリにもなろうかというモチーフを、あえて時系列を歪め、近い過去と遠い過去を現在時のなかに挿入するという語りの手法を用い、単なるミステリにしない。

マルヌ河岸とニースのどちらにもあるプロムナード・デ・ザングレという地名をはじめ、ルフランのように繰り返し使われる同語反復。河岸と海岸を照らす光と影、亜鉛板の屋根をたたく侘びしい雨音と紺碧海岸の上にかかる青空、安定した職業というものに無縁の正体の知れない、かといって危険というのでもない、妙に人擦れのした、地続きでどの国でも生きていける大陸に暮らす、根無し草のような人々。そんなモディアノ世界の住人たちが、ふと曲がった曲り角の陰から顔を出してはまた消えてゆく。何ひとつ確かなものなどなく、すべては仮象でしかない、人と人とのつながりさえも。一度この世界の空気を呼吸すると、他の濃密な空気が耐え切れなくなる、そんなパトリック・モディアノの世界がここにある。

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紙の本

エレガントなミステリ仕立てのフランス小説。読書は上質な暇つぶしだと満足したいならば、安心して身をあずけられる1冊。

2003/10/31 17:35

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る

 洗練というものは、行き過ぎるとただの嫌味、あるいは滑稽でしかないと思う。それはファッションで考えてみると分かりやすい。
 上から下まで今シーズンの新しいモードでびしっと決めるのは大した意気込みだが、どこか1ヶ所抜けた所を作るのが本当のおしゃれだと私には映る。たとえば、欧州リーグで成功したサッカー選手の帰国風景。一般人では手に入れにくいブランドのアイテムでフル装備している。似合っているし、宣伝に一役買っていることは分かるが、何だかなあと感じる。前からの愛用品で自分にしっくりくるものを1つ取り入れることにより、スキやゆるみを作ればもっとかっこいいのにと思う。
「おやじに譲ってもらったセーター」とか照れ、長い間クリーニングに繰り返し出したものを着ている。とてもよく似合っている。そのひじ部分が擦り切れる寸前になっているのを見つけるようなとき、その人の味や自信、個性を感じる。
 どこか1ヶ所「気を抜いている」というのは、粋のコツなのかもしれない。絵画でも、接客でも、インテリアでも、何にでも言えそうだ。

 モディアノのこの邦訳新作は、どこがその「気を抜いている」箇所なのかは説明しにくいのだが、洗練のされ具合がほどよく粋である。ラフな捉え方をすれば、文学作品としての気負い、気取りを求めず、娯楽小説としての魅力をたたているからだという見方が可能かもしれない。
 読み始めて3分の2ぐらいまでは、輪郭のつかみにくい複数の男女の描写だ。どう生計を立てているのか分からない人物たちが、南仏で過ごす様子がゆっくり静かにスケッチされていく。ゆっくり静かだが決して退屈ではなく、彼らの「人格」と「結んでいる関係」双方の不思議さ、あやしさ、曖昧さに惹きつけられる。
 それが残り3分の1を過ぎたあたりから、かたかた動き始める。事件、謎、謎解きというミステリ味が小説世界を覆い出す。事件と謎の核にあるのは女性の大切な持ち物だが、コミックを彷彿させるような因縁の品である。この小説の雰囲気にはそぐわない素材の投入かと思いきや、そのアイテムはこの小説という身から浮くことなく、しっくりと馴染んでいる。とてもよく似合っている。
 不思議さ、あやしさ、曖昧さといったどこか落ちつかない感じは、人物たちの属性とドラマだけによって醸し出されるものでないことも加えておいた方がいいだろう。時間軸が複雑に解体されているわけではないが、時間の流れに技巧がほどこされていることが、謎解きに新鮮な切り口を与えている。たまたまビュトールの講義集を読んでいて、自著『時間割』について触れていたので思いついたのだが、時間構造上の技巧には、ヌーヴォー・ロマンの影響もあるのだろうか。

 訳者の堀江氏が思い入れあった作品で、ずっと暖めていた訳稿だそうだ。「粋」は翻訳文にもしみわたっており、外国の小説だと感じさせない自然な流れの文章に仕上がっている。訳者あとがきには、ジュール・ヴェルヌやレイモン・ラディゲ作品への「文学的目配せ」について解説があり、興味深い。いつもの堀江作品同様、そのあとがき自体が別の本への案内にもなっている。
 また、堀江氏作『いつか王子駅で』との比較も楽しめた。静かな描写が途中からかたかた動き出すあたり、さりげない日常の描写から浮き彫りにされていく人物たちの属性といったあたりに共通の文学性を感じた。

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2014/10/16 21:59

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2014/10/26 20:29

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2014/10/27 21:43

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2014/12/16 20:38

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2015/08/26 20:00

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2024/01/26 09:33

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