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紙の本
制度を内破する強度
2007/01/14 14:50
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けんいち - この投稿者のレビュー一覧を見る
倉橋由美子の往年の名作『アマノン国往還記』を髣髴とさせもする破天荒振りと問題性に溢れた笙野頼子の『水晶内制度』は、しかしただ荒唐無稽なフィクションというに留まらない強度をもった小説で、そこには、おそらくは“作者が現在の条件下で小説を書く”ことに関わるさまざまな不可視の制度に対する、絶えざる憤懣がみなぎっており、かつそれが言語を基本的な(不可避的な)手段とする小説において、小説化されている。
例えば、「書くこと」、「女であること/女とみられること」、「日本語を用いること」などが、条件の目立ったものだろうが、これらは笙野頼子が小説を書く際に、単に批判したり身を引き離すことができないものである。それでいて、自由に書きうるはずのフィクションに、おそらくは不自由をもたらしつづけているものでもあるだろう。だとすれば、“小説を書く”という営みが倒錯的なものになっていくのは必至で、不可視であるからこそ制度であるものを明るみに出し、知らずと従っているから権力的であるものを対象化するといった、逆説的な言語化──書記が持続的に実践されていくしかない。
「私はどうやら外国にいるようだ。それなのに聞こえて来るものは日本語ばかりである。」という冒頭の一節こそは、こうした壮大な野望をたたえた、闘争の幕開きだったはずなのだ。制度の内側にあって、その制度の欺瞞を、欺瞞それ自体を取り込み、あるいはそれに取り込まれながら内破し続けていく──書き続けていく意志とエネルギー。それこそ、この小説が孕んだ問題性であり、書店に並んだあまたの書物と同じ言語・「似たような」フォーマットで書かれながらも、およそその質を異にする強度をたたえた所以なのである。
紙の本
日本以外全部沈没…が好きな人にもおすすめかも
2011/01/18 15:28
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
実は読み始めて1/3くらいまではかなり辛かった。
全体に細かい描写やあちらの世界の説明がおおすぎて飽きてしまってスピード感がない。もう少しスマートに、彼女(主人公)の内面を語ってもいいんじゃないか?なんてケチをつけてしまう。
が、それも最初のうち、読み進むうちに意外な面白さに引込まれて行くだろう。
まずあらすじは・・・
原発を国家の中枢として、日本政府に黙殺された女達の、闇から生まれた女人国ウラミズモ。亡命作家は新国家「美男だけが生き延びる?男性保護牧場」のため、あの出雲神話さえも書き変えてしまう!?
とこれだけ読むと男性陣は総引きドン引きしてしまうのではないだろうか?(笑)
しかし逆に、
「家畜人ヤプー、吉里吉里人、女と女の世の中、さかしま、古事記、熊楠論文、児童ポルノ規制法案等、古今東西の名作・迷作を友とし敵とした平成の「奇書」。 」
・・・という粗筋に、面白そう!と飛びついた女性は多いはず。
日本の記紀神話を全部ひっくり返してやって、男女の歴史を女=善として組み替えたらどうなるか?人間=女でありそれ以外は人間ですらないというウラミズモ。
あまりにありえなくて突拍子も無く、馬鹿げた神話を製作するために生かされている主人公はいっそあわれだが、女であるだけで最高に素晴らしいというこの国で、女を拒否し続けてきた彼女が召抱えられ、女中心の歴史と神話をつむぐというのは皮肉な運命設定だ。
この作品のテーマはおそらく2つ。
1つは 勿論このウラミズモそのもの。女のみで構成される、女の女のための女による国。
こんなのはいかがでしょう?と言わんばかりの、徹底した女だけのありえない国。
これを読んでいると「バカ女」という言葉が女全部に当てはまりそうで恐い。
2つ目は 自分が男だと想い続け女を徹底的に卑下してきた主人公(女)だ。
彼女が自分の中にいる、決して会うことの出来ない「彼」、遠くに行ってしまった「彼」と今現在の自分との葛藤にせめぎあい、自問自答し、自分がとこから来てどこへ行く、何モノなのかを追及し、彼女は「彼」との物語を神話へと昇華する。
作者=主人公が熱く語りだすのもいよいよ面白くなってくるのもこの辺りからだ。
正直ここから読み始めたって損は無い。
それくらいあの世界、ウラミズモの設定がくだらない、くだらなすぎて笑える。
この世界に不満たらたらな人、現実逃避癖がある人、あるいは自分を卑下している人。神話に自分を消化することで案外救われるかもしれません。
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