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紙の本
作者の志の高さが伝わってくる、清々しい夏のミステリ
2004/07/22 13:51
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投稿者:風(kaze) - この投稿者のレビュー一覧を見る
夏休みを虹果て村で過ごすことになった上月秀介(こうづき・しゅうすけ)と二宮優希(にのみや・ゆうき)。二人とも、小学六年生。推理作家になりたい秀介と、刑事になりたい優希が、少年少女探偵として、虹果て村で起きた殺人事件の謎を推理していくミステリ。講談社ミステリーランド・シリーズの一冊です。
高速道路の建設をめぐって、賛成派と反対派に分かれた村人が対立している状況。そんななかで起きた密室殺人ほかの事件を、小学生のふたりが解き明かしていく話なんだけど、作者の創作姿勢が真摯で誠実だったところ、そこにとても好感を持ちました。
有栖川さんが、本書の読者として想定しただろう子どもたち、あるいは若い読者層に向けて、社会問題に目を向けることの大切さとともに、他人への思いやりや気遣いの大切さを、さり気なく話に盛り込んでいます。大人に対するのと同じように、子どもだからといって変に手加減したり、媚びたりしない姿勢が、清々しく感じられました。
ミステリとしても、論理的な思考の働かせ方にポイントを置いて、事件の謎を解き明かしていく件りは、なかなか読みごたえがありました。
事件の核心に迫る話を聞かされたある人物が、「なるほど、ロジックだ」と言う箇所では、「この台詞、本書のどこかで使ってみたかったんだろうなあ。いかにも有栖川さんらしいや」と、嬉しくなりました。
巻末のエッセイ、「わたしが子どもだったころ」。少年時代の有栖川さんと、推理小説との出会いが、生き生きと語られていて、とても気持ちの良いものでした。
そのエッセイの中、「あ、そうそう。119ページで秀介が読むイギリスの小説は……」という文章があったのは有り難かったです。というのも、本文のその箇所を読んで、「なんだろう? このイギリスの作品は?」と気になって、ネットで調べたりしたものですから。エッセイで書かれていなかったら、「なんだろう? なんだろう?」と、しばらく首を捻り続けたことでしょう(笑)
英語のタイトルは、A Summer under the Rainbow
「虹」の言葉がタイトルに入っているミステリでは、柴田よしきさんの『ふたたびの虹』、青井夏海さんの『スタジアム 虹の事件簿』とともに、お気に入りの一冊になりました。
紙の本
「虹果て村の秘密」の秘密。
2004/04/16 22:37
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投稿者:赤木春都 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ぼくなんかが書評を書いちゃっていいのかしら、という思いが無いわけでも無い。いつも感想や書評を書く時に思うけれど、感想というのは言葉に表すのがひどく難しい。
この作品を簡潔に表すとすれば、「とてつもない」とか「すさまじい」なんて言葉は似合わないとも思うのだけど、そういう考え方もあるのかもなぁなんて考えてしまい、やっぱりぼくごときの感想なんて誰も見ちゃいないんじゃないかと思ったりもする。ここは日記を書くところでは決して無いので進めると、ぼくはこの物語を「とっても良い」物語と形容したいと思う。
確かに素晴らしい小説であり、見る角度を少し変えるだけでエンターテイメントから深い文学書に変わるような凄さも兼ね備えている。子供向けらしく作られた本なのだけど(確かに装丁は見やすく判りやすく絵も小学校の教科書に載ってそうな絵だけれども)、これは本を読まない子供も、もしくは(ぼくの願いを込めれば)、多くの大人に読んで欲しい本になっているように思う。
当たり前に知っていたことが沢山書かれているのに、そんなのは教科書でも他の本でも沢山書かれていることなのに、何故かこの本を読んだ時だけ、すごく強く響いてきた。耳元で除夜の鐘が鳴っているような感じで、もうずっと響きっぱなしだった。
これは有栖川有栖さんの筆力の力でもあるのだろう。言葉も表現も、文章の使い方も場面の描き出し方もプロフェッショナルを一途に追いかけているからこそ、余計な言葉や文章が無い。すっきりとしていて、飲み込みやすく、それなのに人間的・感情的なのだ。こんな書評とは本当に比べ物にならない程、綺麗に日本語を操ってしまう。
そんな文章で書かれるからこそ、登場人物の言葉の重さも、静けさも、持っている雰囲気も全て伝わってきて“じん”と来る。
ミステリとしては、子供向けという面もあって、その気になって読めば推理できてしまうレベルだろう。ちなみにぼくは犯人までは判ったけれど、トリックなんてさっぱりだった。
お気に入りの場面というか言葉は、作中に登場する作家が主人公に向けて言った“推理小説の在り方”を示す言葉。
推理小説を読んでいると、面白いのだけど、人が死んでその殺し方をじっくり考えるばかりの小説を読む自分に、時折嫌気が差してくる。それはミステリに限った話じゃなく、ファンタジーでも戦記小説でも、あるいは人が死ぬ場面があっさり挿入される恋愛小説でも純文学でも、物語が扱う「死」の軽さに目眩を覚えてしまうことがある。多分ぼくだけじゃないと思うのだけど、どうだろう。
そんな目眩に決着をつけてくれる、とても良い言葉が出てくる。もちろんそれを逃げ言葉にしてはいけないので、噛み締めてじっくりと「死」を考える必要が出てくるのだけど。
具体的にそれがどんな言葉だったのかは、ここには書かない。
「とっても良い」物語が沢山語っているのだから、是非ともじっくりと腰を据えて、各々のスタイルで一気に集中して読みまくって確認して欲しいと思う。むしろ願う。
ぼくはこの本のおかげで、ベッドの上で夜が明けてしまった。だからできれば夜中に読み始めないことだけ、読み方としてお勧めしておきたい。