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紙の本
中世英国の少年の視点を借り、身分や血の縛り「からの自由」、そして個人として生きる選択「に対しての自由」をしっかり書いた傑作。2003年ニューベリー大賞。
2003/12/18 13:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
デュラックやラッカムを彷彿させる、繊細で幻想味あふれる加藤俊章氏の絵が表紙だけでなく各章扉も飾っている。飾り罫や約物(マーク状の記号)を丹念にあちこちに施し、花ぎれ(本を綴じた部分にかぶせる布)やスピン(ひも状のしおり)の色味に至るまで装丁にも力が入っている。手にしたとき高級感を受けるようなシックな造本がとても気に入った。
それなのに、翻訳物で今どきこの価格である。児童書コーナーで魔法ファンタジーにまぎらせる販売が期待できるからなのかもしれない。だとしたら狙いは悪くない。中世が舞台であるものの魔法が関係しない。しかし、安易な魔法冒険ファンタジーでは得られない読みごたえがきちんと用意されているので、結果的に読者への裏切りにはならないと考えるからである。
伝染病ペストが猛威をふるった14世紀の英国が舞台となっている。ファーニヴァル卿という、あちこちの村に荘園をもつ大領主がいるが、そのうちのひとつの村に物語の主人公となる13歳の少年は暮らしている。母ひとり子ひとりの生活だ。
奴隷ではないけれども、小作農として土地に縛りつけられている。村の外の世界を知らずに育った。奇妙なことに、少年には名前がない。母に名前を呼ばれることもなかったのだ。村ではと通称されていた。
この母であるアスタの死というショッキングな場面から、すべては始まる。葬儀と荘園の執事からのいわれのない処遇を通して、母子が村では特異な存在だったことが明らかにされていく。そしてアスタの息子は、これ以上、村には留まれないという窮地に追い込まれていく。理不尽な扱いは、どうも自分の出自にあるらしいということが分かってくる。少年はやむなく旅に出ていくのだが、心休まる旅ではなく、追っ手から逃れるための危険な道行である。
出自がどのようなものであるかというミステリと、たまたまめぐり逢った不思議な男の道連れとの交流が柱になっている。男の正体もまた謎であり、ふたりの旅がどのような結末を迎えるかということにも興味を引き摺られる。
力強い物語だと感じ入るのだが、それは1つには、設定を複雑にして人物を入り乱したりしないからだ。少ない登場人物の像がくっきりと描かれている。その意識や思想、それに基づく言動が…。彼らにしっかり行動させ、しっかり考えを表明させている。特に旅の道連れであるの吸引力には抗い難い。
コンサバティヴ、且つトラッドな青少年向き小説ではあるが、ありきたりな印象に終わらないのは、このに魅了されてしまうからだろう。
彼は少年に、自分がどう在りたいのか、そこに至る道を自ら選択するように求めつづける。「自由」という言葉が再三出てくるが、それが束縛するものからの単なる解放なのではなく、責任をともなった厳しい選択だということが描かれている。自由の意味を知らなかった、つまり選択という機会すら与えられたことがなかった少年が、雄々しい大人の薫陶を徐々に受けていく。そして、大切なものを守るために危険に直接ぶつかり道を切り拓いていこうと変わっていく。
最後の最後まで、少年の行う「自由への選択」は繰り返される。迷うことなく真っ直ぐに展開された潔い物語に、読み手の内面の揺動も繰り返される。
紙の本
自由を勝ち取るということの意味
2004/03/24 21:46
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投稿者:Yan - この投稿者のレビュー一覧を見る
イングランドの中世が舞台
アスタの息子とだけ呼ばれて
母とともに差別的な暮らしをしてきたクリスピンが
母の死後、領主の執事からいわれなき虐待を受ける
泥棒呼ばわりされ、殺されかけるクリスピンが
牧師の助言によって逃避行を始めるのだが
途中で出会った旅芸人の親方熊の弟子になることで
かわっていく。
母の存在自体がなぞ
クリスピンの出生になにか秘密がありそう
熊って何者
執事はなぜ執拗にクリスピンを追うのか
いろいろななぞが、一人の女性の告白によって
あっという間に解けていく
熊こそがクリスピンの秘密を早い段階で知っていた張本人だった
クリスピンを守ろうとする熊
それがなぜなのかよくわからなかったけれど
世界史に出てくるワット・タイラーの乱
が背景にあることを知って熊の行動が
自由と平等を求める理想主義者だということを知り
やっとこの物語の本質がわかった。
熊との旅の途中でどんどん変わっていくクリスピン
そう仕向けていった熊が、始めの印象と変わって行くのが
よかった。
Yanの花畑
紙の本
祝・2003年ニューベリー賞大賞受賞
2004/01/27 09:58
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投稿者:みいしゃ - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者のアビィはボストングローブ・ホーンブック賞、ゴールデン・カイト賞、スコット・オデール賞など数々の賞を受賞しているアメリカを代表する児童文学・ヤングアダルト作家の一人です。
しかし、児童書・ヤングアダルト向けの本の最大の賞であるニューベリー賞は何度かオナー賞(大賞の次の賞)を受賞した事はあるが受賞を逃してきました。
作者待望のニューベリー賞大賞を本作品で受賞しました。相当嬉しかったらしく彼のホームページのトップで「ニューベリー賞受賞」のメダルと「AVI AWARDED THE NEWBERY AWARD!」の文字が輝いています。
権威ある児童文学の賞の受賞作とというと堅苦しい「良い子の為の本」を想像しがちですが、この作品はエンターティメンとしてもしっかりとした作りになっていて、追いつ追われつハラハラ・ドキドキ一気に読んでしまいます。
14世紀のイギリス、母と二人貧しい暮らしをしていた少年は名前も無く「アスタの息子」と呼ばれていた。母が死にひとりぼっちになった少年は泥棒の濡れ衣を着せられ命を狙われる。
旅の途中で出会う「熊」と呼ばれる旅芸人のキャラクターが立っています。
最初は少年の「主人」になり、次第に「師匠」になり、最後は対等な「自由な人間の一員」として迎える「熊」の姿は体も大きいが心も大きな魅力的な人物と感じました。
名前の無い子供が自ら「名前」を選び、自立の道を探すというストーリーは1996年ニューベリー賞受賞作「アリスの見習い物語」に相通じる物があります。
ストーリーも勿論素晴らしいのですが、加藤文章さんの中世のイメージを膨らませるファンタジックなカバー絵と扉絵。隅々まで凝った装丁。人気翻訳家金原瑞人さんの翻訳。ハードカバー。これで1200円(税別)は値段を考えると★6つでもいいと思うお買い得な値段設定だと思います。