紙の本
圧巻の噴火の爆発力まで伝わってくる
2023/04/09 09:36
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投稿者:大阪の北国ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
400ページを超える大作に圧倒的な読後充実感を味わった。
史上最大の火山噴火といわれるクラカトア大噴火。それが今からたったの140年前の出来事で場所は日本からも遠くないインドネシアのスマトラ島とジャワ島の間、噴火音はアフリカやマダガスカルの手前ロドリゲス島でも聞こえた史上最大の自然音、しかも噴火で火山が一つ吹き飛んでしまったと驚きのプロフィールだ。しかし私も含めた日本人が広くこのことを知っているとは言い難い。が、火山や地震に携わっている人々や海洋学の関係者には当たり前の話らしい。海洋学者レイチェルカーソン女史の書物にも登場したため私はこの火山のことを読もうと思った。
読み始めて驚嘆したのは、本書はよくある火山の噴火の科学的分析で留まる本ではなかったことだ。この史上最大の火山噴火に影響を与えた地質学的背景の説明、それは、ヴェゲナーの大陸移動説とその前史から始まり、アジアとオーストラリアの生物学的境界線であるウオーレス線やその前のスクレーター学説、神話にも取り入れられているハワイ諸島の歴史、そして海底ケーブル敷設が契機となった通信会社ロイター、海上保険先駆者のロイズ協同組合などの歴史、果てはインドネシアにおけるオランダ統治の悪行やイスラム教主導のバンテン農民反乱にまで話は及ぶ。火山の本を読んでいたら、いつの間にか大航海時代後の世界情勢の解説書を読んでいたという面白さである。近代インドネシア史、地学史などの知識の洪水に溢れた本である。
この火山の噴火は世界中に影響を与え、ヨーロッパでは太陽が血のように赤く見えたこともあったらしい。ムンクの代表作「叫び」はその影響を受けているとの説も紹介されている。しかしながら、日本では明治15年のこの出来事に、当時の日本国内で、爆音や冷害、津波などの影響を記載した記事は見当たらず、その形跡がないのが不思議である。 また、この地域の地誌や動植物相を詳細に綴った書であるA.R.ウオーレスの「マレー諸島」の冒頭に、この海域に集中分布している火山群の爆発的な活動に触れている箇所がある。しかし同書は1850-60年頃の書であるからクラカタウより30年ほど前のことになる。この順序が逆転していればウオーレス氏の同書にも必ず触れられた筈である。
読みながらも感じていたが、この大著の翻訳に取り組まれ見事に読みやすい訳書を完成された柴田裕之氏の仕事にも敬意を表する次第である。一点、本書で氏はイスラム教の「予言者」と訳しておられる箇所があるが、その箇所で語っている宗教的指導者を表す場合、通常は「預言者」と訳すことをアドバイスしたい。
いま、この大著を読み終えて、大いなる知識の海を泳ぎ切った心地よい疲労感に浸っている。
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凄まじい火山爆発に向かって、世界がわさわさと動いていくさま、そして爆発後に世界が変貌するさまが、とても大きなスケールで書かれている。
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1883年にスマトラ島とジャワ島の間にあった火山島が大噴火した時の状況を描いたドキュメンタリ。本題に入る前にプレートテクトニクスのや生物屋にとっておなじみのウォーレス線の解説がはいる。読んでいる時は「なぜ?」と思うが、その後の展開を考えると必要な章立てだった言えよう。
でも噴火後のムスリムのオランダ支配に対する反乱の章はなくてもよかったんじゃないかなー。
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1883年のクラカタウ(インドネシアではこう呼ぶ)の噴火とその前後を、社会、政治、経済、文化、地球科学などの様々な面から綴った一冊。あまりにも様々な面から語っているため少々読み辛いけれども(何せ、クラカタウの噴火の根本にあるプレートテクトニクス理論を語るためにヴェーゲナーの大陸移動説どころかウォレス線まで持ち出し、さらには1960年代のプレートテクトニクス理論成立前夜の当時の作者の思い出まで語られるのだから)、逆にいえばここから様々な分野への好奇心を刺激されると言うことでもあり、実に楽しい。
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最初の方は、大陸移動説など科学的なものであるが、それだけでなく東インド会社の貿易、さらに津波、火山の影響と反乱など政治的なことも出てくる。さらに最後は生物学的なものとして、生物がどのように住みつくかという話になってくる。火山学の人が薦める本であるわけがわかる。
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1883年8月27日10時2分、インドネシアのジャワ島とスマトラ島の海峡にある火山島クラカトアがその日4回目のそして最大の大噴火をおこした。火山爆発指数6.5というその爆発のエネルギーは150ペタジュール、東日本大震災を起こした東北地方太平洋沖地震のマグニチュード9=2エクサジュールに比べれば一桁小さいが関東大震災のマグニチュード7.9のほぼ3倍にあたる。そしてそれは史上最大の被害を起こした火山噴火だった。
噴火の際の爆発音は4776kmはなれたインド洋上のロドリゲス島まで届き、人類が直接聞いた増幅も電気的な拡大もされていない音としては最長距離記録である。ロドリゲス等から西に560km行くとモーリシャスでさらにその先にはマダガスカルがある。ほぼ同心円上の距離に九州の南端がくる。アメリカでも東海岸から西海岸というほどの距離だ。爆発時の衝撃波は各地の気圧計を地震計のように跳ねさせその衝撃波は地球を7周した。
史上最悪の火山噴火と言われる所以は死者3万6千人を超える被害者の数で主に津波による被害だ。クラカトアの対岸のメラクは今では日系企業も多く進出する石油化学コンビナートだがここでは津波の高さが40mを超え、スマトラ側ではオランダの砲艦ブラウ号がクリパン川を遡る波に運ばれ西へ3kmあまり、海面から15m以上の高さに運ばれその後100年以上もジャングルの中に放置された。首都バタヴィア(ジャカルタ北部)は狭い海峡を抜けた波が迂回するのだがそれでも波の高さは2.3mを超えた。遮るもののないインド洋側ではセイロン(スリランカ)の町で3.66mと推定され、カルカッタ、カラチ、ムンバイ、イエメンでも観測され、南アフリカのポートエリザベスで1.22mを記録し最後は大西洋を遡り、フランスはボルドーの北ロシュフォールでは13cmの波が観測された。
火山の冬のためその後4年間は世界中で気温が平均で0.55℃ほど下がり、恐ろしくも美しい夕日が世界中で見られた。この時期には印象的な日没の風景画が数多く描かれているが、一説にはムンクの「叫び」もこの景色がヒントになったという。制作年は1893年なので時期的には合う。またクラカトアの噴火は世界中に伝えられた天災のニュースとしても最初のものだった。当時既に電線の海底ケーブルが敷設されており、バタヴィアからシンガポール、スエズを超えニュースはロンドンのロイターに伝えられた。
それでもこの噴火の規模は史上5番目で最大のものが同じくスマトラ島の7万4千年前のトバ湖の噴火だ。この時期にヒトDNAの多様性が著しく減ったことから人類は滅亡の危機にあったという説もある。2番目が1815年の小スンダ列島のタンボラ山の噴火。ジャワ島から東へバリ、ロンボクの次の島だ。この噴火は火山の冬により1816年に夏のない年をうみ、7月と8月にペンシルバニアで湖や川で凍結が観測された。3番目はニュージーランドのタウポ山で西暦180年、そしてアラスカのノヴァルプタ山1912年、クラカトアと続く。
クラカトア爆発の影響はオランダ支配に反抗するイスラム教の影響を増し、インドネシア独立のきっかけのひとつとなった。クラカトアにはもう一つ有名な爆発があり「西暦535年の大噴火(読みたいのだがなかなか入手できない・・・)」に書かれた説によると東ロー��帝国の衰退、ペストの蔓延、イスラム教の誕生、マヤ文明の崩壊などに気候を通じて影響を与えたとある。
オランダ植民地の歴史やバリとロンボクの間にあるウォーレス線と海底地磁気探査から見たプレートテクトニクスの一致、そして火山のメカニズムなど歴史、科学、博物学などクラカトア火山を中心にこの本がカバーする範囲は広い。一度爆発で吹き飛んだクラカトアだがその後に生まれたアナク・クラカトアは500mほどの高さまでに成長している。一応立ち入り禁止となっているのだがそこはインドネシア、もぐりの観光はできるらしい。ジャカルタ駐在中に行っておくのだったか・・・。
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インドネシア、ジャワ島とスマトラ島の間に位置した「クラカトア」と呼ばれるこの火山は、1883年8月27日、史上最大規模の大爆発を起こしました。本書はこの大噴火がなぜ起きたのか、3万6千人以上の人々はなぜ犠牲になったのか、大噴火は世界中にどんな影響を与えたのかを人文社会科学、自然科学の面から立体的に描くノンフィクションの大傑作です。
クラカトアの大噴火は、「現在、知られているすべての火山噴火の中で5番目に大きい、火山爆発指数6.5の噴火、およそ25立方キロメートルの岩石や火山灰、軽石、粉塵を何万キロメートルも上方、成層圏下層にまで吹き上げ、爆発音を4800キロメートル先まで轟かせ、大変な力と高さをもっと巨大津波を生み、衝撃波を世界の果てまで4回送り出し、ほとんど3回迎え受け」た大噴火です。
本書の読みどころは以下の3点です。
1)大噴火発生の地質学的背景
著者はかなりのページを割いて、地質学に関する科学史的な説明を行っています。これだけで、1冊の新書となりうるような濃い内容です。
バリ島とロンボック島の25キロメートル幅の海峡にアジアとオーストラリアの動物区の境界線(ウォーレス線)があります。例えば、西にはオラウータンがいて、東にはサイがいるという境界線です。この境界線は大陸移動説のひとつの証拠となります。本書は大陸移動説からプレートテクトニス論を展開し、火山大噴火のメカニズムを説明します。これは科学読み物としては面白いのですが、ウォーレス線、プレート境界、クラカトアの位置関係については読み取れず、若干消化不良という感じがしました。
それでも、ウォーレスとダーウィンの葛藤、著者自身が学生時代にグリーンランドで古地磁気サンプル(岩石などに残留磁化として記録されている過去の地球磁場を示す試料)の採集の手伝いをした話、残留磁化が大陸移動説の独立的な証拠になる話(北米大陸とヨーロッパ大陸のそれぞれの磁北極移動軌跡が時間的にずれていて、大陸が移動していることの証拠となる)など、面白いエピソードが並びます。
2)大噴火の経緯と被害状況
最初に書くべきでしたが、クラカトアという島は、現在は存在しません。1983年の大噴火で島そのものがぶっ飛んだからです。それほどの大噴火でした。本書はクラカトアの大噴火の予兆から3万人以上を飲み込んだ大津波、余震を描きます。資料としても貴重と思います。
津波は35メートルの高さに達したといいます。オランダの砲艦「ブラウ号」は津波によって高く持ち上げられ、西に400mほど運ばれたところで波が砕けると、クリパン川の河口にたたきつけられました。船は転覆しなかったものも、落下の衝撃で乗組員全員が死亡したと考えられてます。
空中には衝撃波が走りました。コロンビアのボゴタ付近まで到達し、両側から伝わって来た波が衝突して、そこでまた生じた反射波は帰路についてクラカトアに戻りました。世界各地で衝激波が記録されています。互いに衝突しては反射をくり返した結果、衝撃波は7回地球上を往復したことになります。
爆発音は4,800キロメートルも離れたマダガスカル島の東方ロドリゲス島にまで聞こえ、人々は大砲の音と勘違いしたとあります。
また、クラカトア爆発は植民地時代に発達した海底ケーブルを使った電信技術によって、初めて世界的に伝えられる自然災害となりました。ジャワ島からモールス信号で発せられた情報は3時間で欧州に到着しています。
著者は、クラカタウの大噴火をきっかけに人々が「それまで限られた自分の視野の向こうへ、有史以来初めて、夢中になった。彼らは外界に目を向ける新しい世界の住人になっていったのだ」と断言します。大惨事の報道によってマスメディアが大衆まで降りていったのです。
3)大噴火の影響
クラカトアが引き起こした空気中の粉塵は、ヨーロッパの夕焼けをも七色に変えました。粉塵が成層圏まで達し、長い間止まったからです。また、バタビア(現ジャカルタ)の気温は8度下がりました。
噴火の被害と荒廃により、もともと貧しいジャワの人々の生活はますます悲惨なものになります。著者は、「抜け目ないイスラム教徒」が彼らの窮状を利用して東インド会社や異教徒に対する宗教的運動、政治的運動を展開し、代表的な事件であるバンテン農民反乱(1888年)の「因縁のこだま」としてバリ島のテロ(2002年)が発生したと考察します。原文を読んでいないので、「因縁のこだま」の意味が良くわかりませんが、少し違和感のある考え方と思いました。19世紀末の支配者に対する反乱と独立国におけるテロを比較するのは、少々無理があります。
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多少、理解に苦しむ箇所はありますが、冒頭に書いた通り、人文社会・自然科学ノンフィクションの大傑作です。ただ、460ページを超えるハードカバーで、読み始めるには多少の覚悟が要ります。それでも、娯楽性に富み、読書の楽しみを味わえる本です。★★★★★
以下、蛇足です。
1)クラカトア島は1883年の噴火で消滅しましたが,1928年にアナック(子供)・クラカトア島が現れ,それ以後噴火を繰り返しながら,成長を続け,既に標高500 mを超える火山になっています。
2)クラカトアの大噴火直前はバタビア(現ジャカルタ)の最盛期でした。当時は「東洋の真珠」と呼ばれていたそうです。
「バタビアにはエキゾチックこのうえない国際都市の雰囲気があった。ターバンを巻いたマカッサル人、髪の長いアンボン人、黒髪を弁髪に垂らした中国人、バリのヒンズー教徒、野菜の行商をする黒いポルトガル人、ケララから来たムーア人、タミル人、ビルマ人、そして日本から来た傭兵もいくらかいた」。
現在もジャカルタ北のコタ地域に行くと当時の雰囲気を味わえます。ファタヒラ広場には多くの洋館が立ち並び、カラフルな自転車を借りて回ることができます。運河には当時の跳ね橋もあります。本気で整備すれば、世界遺産になれるくらい重要性のある地区と思いますが、あまりにも汚いです。特に跳ね橋付近の悪臭は我慢できません。個人的には、国債を発行してでも整備して欲しいです。魅力的な地域になり、インバウンドを呼び込めると思います。
3)インネシアでは、クラカトアとは言わず、クラカタウと言います。クラカトアという名前は、モールス信号を打ったときに誤って伝わったとあります。
因みにクラカタウは某オランダ人が現地の人に「あの島の名前は?」と聞いたら、返ってきた答えが「��りません(ngak tahu)」。この「ンガッタウ」がクラカタウという名前になったと本書にありました。これは知りませんでした。
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1883年8月27日、スマトラ島とジャワ島の間にあった火山クラカトアが噴火した。
火砕流や津波で36,000人が死亡し、後年の紛争·政治にも影響した。
私の苦手なノンフィクションで、この分厚さ、読みきれないかと思ったら、飽きることなく読み切れた。
富士山の噴火も想像してしまい、興味深い内容だった。