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Thursday's child has far to go.
木曜日生まれの子どもはどこまでも行くというマザーグースの一説から・・・とあとがきに書いてありましたが、あいにくマザーグースは詳しくないので分かりません。ハッピーエンドを期待していた私を見事に裏切りました。でもそれが逆に現実味を帯びさせているのかも知れません。普通の家族だったはずの一家は恐慌の渦に巻き込まれ少しずつ崩壊してゆく・・・切ないとも悲しいとも違う何かがある作品です。
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ストーリー:オーストラリアの開拓地で厳しい自然を相手に暮らす一家の物語。語り手の少女ハーパーの弟、ティンは不思議な能力を持っていた。彼は「掘る為に生まれた子ども」だった。ある出来事を切欠にひたすらに地中深く、迷宮のように穴を掘り続けるティン。彼のその行為はうとんじられ、敬遠され、恐れられ、愛され、やがては神話の登場人物のように存在になっていく。次々と家族に襲い掛かる災禍の中でだんだんとバラバラになっていく一家。だが、最後には「掘る為に生まれた子ども」ティンに守られ、救われる。普遍なる家族の絆の物語。
見所:訳者と相性が良かったのか、とにかく文章が素晴らしい。一文一文が美しく、胸に響きます。と、そんな言葉大好き人間の私見は無視して、物語の見所☆
力関係の移り変わりが悲しく、引き付けられます。始め、この一家は両親を中心に世界が回っているんだけど、段々と家族が崩壊の一途を辿って行く過程で、両親が役立たずになり(涙)兄妹がいかに自分達の身を守って生きていくかってことに物語の中心が流れていく。そして要所要所で異彩を放ち、活躍するのがティン。彼が地上に現われる度ごとに、一家にとって重大な「何か」が起こります!
私見:自分でもどうして?と思うくらいに感動した。泣いたりはしないんだけど、徐々に・・・水に落ちた絵の具がぶわーと広がっていくような感動。何が?どこが?とは言えないんだけどなぁ。本当この感慨は何なんだろう?(笑) 自分の人生の中で「本当に読んで良かった1冊」に入る本に決定(この一冊で一気に作者・ソーニャ・ハートネットのファンになってしまい(笑)、次回作が邦訳されるのを心待ちにしています)。
「木曜日に生まれた子ども」は物凄く個性的な本。こんな物語、ちょっと読んだことがない。奇妙で不思議で、そのくせリアリティがあって、登場人物たちが当たり前の人たちばかりなのに、引き付けられる・・・と言うか自分の中に「居ついてしまう」。当たり前に彼らのことを考えてしまうのよね(←そんなの私だけか?(笑))。ティンの事を考える時、その孤高なる者の孤独と、その分与えられた自由の真実性を空想する。暫らくは私にかかったこの魔法が解けないかも。
最後に、本のラストの言葉。私の胸にもしかしたらずーーっと残り続けるかもしれない一文を書きます。
ティンがいつの日か、この地面から、砂まみれで、青く澄んだ瞳をしばたたかせて出てきたら、あたしは、ティンの目に映る最初のものになろう。ティンが汚れたその手をあたしの手に置くとき、あたしの手も土で汚れる。
ソーニャ・ハートネット氏はこの本でガーディアン賞を受賞されています。
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母はまた子どもを産もうとしていた。
ハーパーは、弟のティンを連れて歩き出した。
「ティンと外で遊んで来い」と言われてもどこへ行けばいいのだろう。
三歳の弟の手を引いて、ハーパーは小川に向かった。
オーストラリアの荒れた土地に一家は暮らしている。
子どもがたくさんいた。もっと産んだが生き残ったのは4人。そしてまたひとり増える。
父親の貰う僅かな兵役の恩給が収入のすべてであり、痩せた土地には、作物も育たない。
一番年下の子どもが生まれた日、
下から二番目のティンは土を掘り始めた。
家の下の土を掘り、そのなかでティンは暮らすようになった。
そしていつの日か、ティンの姿を見ることはあまりなくなった。彼はずっと土を掘っていて、自身の掘ったトンネル状の暗い穴で暮らしていた。
歳月と共に家族には数々の災厄がふりかかる。
もともと、稼ぐ能力に欠ける父親は僅かな生活費も酒代にかえるようになり、土地の小男の権力者に言いように言われっぱなし、されっぱなし。
夫への失望。貧しい生活。末っ子を亡くしてから厭世的になり、心を壊しかけている母親。
家計を助けようと権力者の家で働くことにする長女。
大事な馬を売り、長女をそこで働かせないようにしようと姿を消す長男。
土の中で棲み続ける次男のティンと、家族の悲しい話を綴りつづけるハーパー。
やがて、家族に訪れる他者の介在する許し難き出来事に、家族は?
ティンは謎である。とても小さな時から土の中で過ごすようになる。
自給自足の時期は早く両親もティンの奇癖を特に直そうともしない。
家の下に掘りまくられたトンネルのせいで家がくずれてしまう事件がおきてからも、ティンは土のなかで生活する。
でも、彼は家族のことはすべてわかっている。
だからこそ家族を救う。でも彼がどのあたりの土中にいるのか家族は誰もわからない。
ソーニャ・ハートネットは、1968年メルボルン生まれ。
なんと13歳から創作活動をはじめ、15歳でデビュー。
本書でガーディアン賞授賞。
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息をつく暇も無く、物語に引き込まれて、最後まで読みきってしまう。だけどあまりに救いが無くて、これを読んで若い読者が何かを得るかというと疑問。イニシエーションといえばそうだけど、うーん。誰だっけトーベ・ヤンソンだったか?が、子どもには希望がなくちゃいけないと書いてたのがほんとにその通りだと思った。
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最後まで救われない家族。オーストラリア開拓時代の荒涼とした風景が目に浮かびます。こんな悲しい救われない話をなぜYA で?と思いましたが、アメリカでもオーストラリアでも開拓の歴史は家族の歴史でもあるのでしょう。
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たぶん本筋からは外れた読み方になるんだろうけど、何もかもから逃げ続けた男の物語、だとわたしは思った。
『木曜日に生まれた子ども』は、かなりシビアなお話だ。ハーパーの家族はとにかく不幸続きだ。とくに子どもたちにその不幸はふりかかっているように見える。子どもはつごう3人死ぬし(カフィの前にも2人、生まれてすぐに死んでいる)オードリーはアレされるし、デヴォンは出て行っちゃうし。
そもそも、子どもたちは生まれたときから貧乏だ。すべての貧乏人が不幸だとはかぎらないが、少なくとも彼らの一家はお金がないことによって随分苦しんでいる様子だ。なぜ貧乏なのかというと、父親(名前忘れた)が戦争(第一次世界大戦のことらしい)に行って足を負傷し、帰国後政府の農地提供を受けたものの、農業の経験がなく、ずっとウサギ獲りで得られるわずかな収入だけで生活してきたからだ。
ばかやろう、農地をもらったんなら畑を耕さんかい!! と思うのだが、父親は農業を学ぼうとしなかったようだ。この父親にはすごくイライラさせられる。大学を出ているというプライドだけは立派だが、祖父から逃げるように戦争に行き、農地をもらっても農業を学ばず、祖父が死んで、遺産で農業をはじめるかと思いきや、質の悪い肉牛(それもメスばっかり)を買ってきてしまう。ウサギを捕らえるためのライフルの弾を売って酒代にし、ろくに働かなくなると一層こいつがムカついてくる。こいつは徹頭徹尾逃げてばっかりなのだ。そういえば、ティンが地面に潜るようになったときも、「やりたいようにやらせておこう」などと鷹揚な態度を見せたが、本当は我が子の奇行に向き合う勇気が持てなかっただけじゃないのか? と疑いたくなってくる。
そんなダメオヤジなのだが、長女のオードリーがアレされたことに激怒し銃を抱えて出て行ったとき、わたしはなぜだかほっとした。もちろん、復讐は良いことではない。でもそこでまったく沈黙してしまうなら本当にばかやろうだと思う。実際に復讐を果たしたのは父ではなくティン(おそらくは)なのだが、まだ彼も腐りきっちゃいなかったんだな、と思えた。
たぶんそんな大人たちの臆病さや、卑怯さや、嘘を、じっと見つめる純粋なハーパーと、ティンに本筋はあると思うのだけど、わたしはそんな風に思ったのだった。
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なんとなくスタインペックの二十日鼠を思い出したけれど、舞台は西部ではなく開拓時代のオーストラリア。貧しさと絶望の中で生きる、ある家族の物語だ。皆に祝福されて産まれたはずの末子のティンは、災厄に苦しむ家族を背に、穴を掘って地面の下で暮らす。文字通り穴に隠って。だが、やがて彼らの運命は思いもよらない方向に舵を切るのだった…
楽しい終わり方をする本ではないけれど、ここまで引き込まれた読書は久しぶり。父親は少し幼稚で乱暴にも見えるけれど、貧しさが人間をそうしてしまうのだと思うと、やりきれない気もしました。感情の入りやすい本だと思います。
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その変化は、末っ子のカフィが生まれた日にはじまった。
ハーパーの幼い弟・ティンは家の床下の地面を掘りはじめ、トンネルを作りつづけ、やがてそこで暮らすようになり、ほとんど地上に姿を現さなくなってしまった。
以降、大恐慌下のオーストラリア、荒れた広大な開拓地に住む貧しい彼女たちの一家には、つぎつぎに災難や不幸が襲いかかる。
父親は酒に溺れ、母親は無気力に捕らわれ、大好きな兄や姉が仕事を求めて家を出てゆく…そしてかわいそうなカフィ。
家族がばらばらになってゆくにつれ、広がっていくティンのトンネル。
周囲に理解されず、疎まれ、恐れられ、そして愛された彼の不思議な力は、一家の悲運の源なのか?
それとも──。
一見、家族から遠く離れて生きているかに見えた『木曜日生まれ』のティン。
彼だけがすべてを知っていたのかもしれない。また、そのことをハーパーだけが知っている。
誰の目にも見えず、けれど確かに荒野のなかに深く刻み込まれていた、彼女たちの絆と家族の物語。
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貧相な家族の物語。貧乏苦難を乗り越える爽やかファミリー物語ではなく、もっと重々しく幸せなんてやってこないことを見せつけられるような物語。
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オーストラリアの作家さんのお話は初めて読んだかもしれないです。土壌の違う感じがして面白かった。感想がむずかしいのだけど、不思議で、暗くて、力のある作品でした。ティンはまだ掘り続けているのでしょうね。
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最初はわけが分からないように思えても、読み進める内に"私達と何ら変わらない人間の心模様が描かれているんだ"と感じられたのが印象的。
劇的とか何とかで言い表せてしまえるような小説じゃありませんね。
プロのヴァイオリニストの演奏を聴いて、人の歌声のようだと言うのが最上の褒め言葉だとかいいますが、この物語も"非現実的なのにひどく現実的"と褒め称えられます。
読者の心情を操るのが上手いんだろうと思いました。
面白かったです、とても。
子供から老人まで読めます。