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みんなのレビュー13件

みんなの評価4.3

評価内訳

13 件中 1 件~ 13 件を表示

紙の本

まぼろしの世界の妖しさ、美しさに誘いだされ、その世界の住人になってしまう人びとを描くことにこだわった童話の数々。「行きて帰れぬ物語」の怖さをつきつめて——

2004/07/05 16:34

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

「ある種の安房直子作品をまとめてみるととても怖いのだ」と、この『世界の果ての国へ』の巻を読んでみて初めて意識した。だが、ここに文を書こうとやってきて、おそらく出版社の方から情報提供があった紹介文を見てみたら、臆することなく「ホラー」という言葉が使ってあり、「そうか、ホラーか。ホラーなのか」と編集意図に納得した。

 美しいものや妖しくこちらを誘うものに触れたとき、人はそれを自分だけのものにしたいと強く願う。あんまり強く思い込むと、自分のものにするため行動を起こせばどのような影響が出るか…という考えなどはどこかへいってしまう。「見境なく」ということだが、そこに至るまでにはかすかに「咎め」の気持ちがよぎることもあったのだ。「とんでもないことになってしまう」「取り返しのつかないことになってしまう」という判断力も残っていたのに…。
 しかし、「どうしてもどうしても」と思い、ほしい対象にいざ手を触れたとき、人は瞬間、やはり「代償」という犠牲をけとるのではないか。明確な意識のなかではなくても体感として、あるいはぼんやりとした勘として…。よくよく考えてみれば「どうしても」という表現は、「何と引き換えにしても」「この身がどうなろうとも」という恐ろしい意味をもつ言葉である。
 ここに収められた童話のほとんどが、その「ただでは済まされることはないのだ」という視点に立っており、私はそこに安房直子という作家の覚悟、幻想文学を書くということに対する腹の据わった態度を見せつけられた気がした。

 子どもの本を読む上でのよりどころとして、前に瀬田貞二先生の『幼い子の文学』(中公新書)について書いたことがある。安房直子作品の愛読者は、瀬田先生が指すところの幼児ではないけれども、小学中学年ぐらいになれば字面的には読んでいくことも可能だ。だが、瀬田先生が幼い子向けのお話に求めた「行きて帰りし物語」という鉄則が、そこでは守られない。「行きて帰れぬ物語」ばかりがこの本には並んでいて、読み手は「魔界」の掟の怖さを知らされる。
 魅せられし者は、美しく妖しい対象に触れる、包まれるという刹那の快楽を得るのだから、何もなかったように元の生活に復帰できるなどということがあってはおかしい。「世界の果て」に辿り着き、別世界を志向した者は、もう戻ってきてはならないのだ。

 魔物の海がめに見初められた娘を憑き物から守るまじない、山の木の葉を入れると魚料理ができる不思議ななべに宿った魔法、神秘的なボタン穴の向うに広がる少女たちの世界、青い毛糸が呼び寄せる男女の霊性、小さな携帯ストーブのほむらが現出する妖精の姿、どこまでもどこまでも地を這っていくヘチマのつる、4人の姫君たちにほだされて旗に織り込んだ銀のくじゃくがもたらした運命——こうしたあやかしの物語に没頭したあとで、ふと気づく。この世界の果ての国に旅することを選んだ私が代償として奪われてしまったものは、まさしく「心」だった、「我」だったのだ…と。  

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紙の本

金糸銀糸で紡がれた物語の中、ひときわ美しくきらめく青の魔法

2004/06/08 13:43

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:風(kaze) - この投稿者のレビュー一覧を見る

安房直子さんが話に描き出す色遣いは、とっても綺麗。なかでも、空の青につながる青色の透明感に惹かれます。作品の中の青い色を見ていると、すーっと吸い込まれていくような気持ちにさせられます。その透き通った青のイメージが美しく描き出されていたのが、本巻収録の「青い糸」。話に出てくるあやとりが形作る青い扉の向こう側に、どうかすると連れていかれるような錯覚を覚えました。

港町の小さな骨董店を舞台にした作品、「火影の夢」も面白かった。現実が夢の中に引っ張り込まれていくというか、夢が現実の中に入り込んでくるというか。一体どっちが現実でどこからが夢なのか分からなくなってくる話には、一種なぞめいた美しい魔法がかけられているような味わいがあって、ぞくぞくしながら頁をめくっていきました。

本巻の最初に収められた「鶴の家」。さながら中国の幻想綺譚の魔法を見せられたような、何かそうした話の風韻を感じました。料理の器に鶴の絵が描かれているのを見れば、ふっとこの話のことを思い出すこともあるんじゃないかと、これも印象残る作品です。
巻末の単行本初出一覧を見ると、この話が収められていたのは『白いおうむの森』という作品集なんですね。安房直子コレクション第1巻『なくしてしまった魔法の時間』にも、この作品集から「雪窓」「てまり」のふたつの話が採られていて、いずれもとても気に入った作品でした。できれば、「白いおうむの森」という話も読んでみたかったなあと、本コレクションの中に選ばれなかったのは残念です。

安房直子さんのエッセイ。本書には、「シャガールの絵の中の鳥」と「言葉と私」が収められていました。ふたつとも、とても読みごたえのあるエッセイでした。収録作品に優るとも劣らない興趣を感じました。引用したいな、どうしようかなと迷ったのですが、全文引用しないとなんだか気が済まない気持ちになってきたので、今回はやめておきます。
安房さんの作品に親しんだ後で読んだということもあるのでしょうが、すっと心に響いてくる文章。なかでも、「言葉と私」のエッセイが素敵。安房さんが、話を紡ぎ出す際に心にとめている言葉の置き方ですとか、言葉に対する感覚を磨いてゆく姿勢の真摯さに、はっとさせられました。

本巻収録作品 単行本初出一覧
「鶴の家」「長い灰色のスカート」「野の音」——『童話集 白いおうむの森』(1973年)より
「日暮れの海の物語」「奥さまの耳飾り」——『日暮れの海の物語』(1977年)より
「木の葉の魚」——『木の葉の魚』(1978年)より
「青い糸」「火影の夢」「銀のくじゃく」——『童話集 銀のくじゃく』(1975年)より
「野の果ての国」——『童話集 遠い野ばらの村』(1981年)より

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紙の本

火影の夢

2019/10/13 20:16

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:earosmith - この投稿者のレビュー一覧を見る

鶴の家
日暮れの海の物語
長い灰色のスカート
木の葉の魚
奥さまの耳飾り
野の音
青い糸
火影の夢
野の果ての国
銀のくじゃく
シャガールの絵の中の鳥
言葉と私

なんといっても、エキゾチックで幻想的な火影の夢がたまらなく好きです。長い灰色のスカート、野の音、木の葉の魚はけっこう怖いです。

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2006/11/18 12:16

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2006/04/13 20:48

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2014/09/30 18:38

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2007/10/11 00:41

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2008/06/01 20:39

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2022/01/02 22:45

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2010/06/23 20:58

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2015/08/22 22:34

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2021/03/13 22:17

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2019/07/29 00:39

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