紙の本
自称脇役の文学
2022/05/15 11:28
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ないものねだり - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者自身が生前、「自分は芥川のような天才ではない。」と語ったと聞いた。そこまでの道のりが雲で隠れてしまうと「天才」の一言で片付けて努力を怠るのは良くないし、初めから脇役を決め込んで変化球ばかり練習するのでは体力はつかない。他人が言う「天才」本人は求めるものを追い続けているだけ。その事を確認した上で。よく書けている作品だと思います。ソクラテスの「無知の知」か。
紙の本
中野のお父さん
2022/04/28 12:59
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:にゃんぱり - この投稿者のレビュー一覧を見る
北村薫さんの「中野のお父さんは謎を解くか」を読んで,そういえば菊池寛は読んでいなかったと思い,読んでみました。
感想は,思っていた以上に面白かったです。題材は,親友の芥川龍之介に似ているようですが,もっと暖かい,優しいまなざしを感じました。
印象に残ったのは,「恩讐の彼方に」です。
ぜひご一読を。
投稿元:
レビューを見る
いずれも歴史的実話に基づくと思われる10篇からなる短編集。「恩讐の彼方に」、「忠直卿行状記」、「藤十郎の恋」、「蘭学事始」、「俊寛」などを含む。
「恩讐の彼方に」は、私と同年代の場合「青の洞門」といえば、ああ、紙芝居で見たあれかと判るが、この年齢になって読むと、洞門の掘削を始めるに至った経緯に他人事でないと哀れを催してしまう。
「蘭学事始」では、杉田玄白と前野良沢とで蘭学や解体新書(ターヘルアナトミア)の翻訳事業に対する思いがいかに相違したかを主題として扱っており、興味深い。
歴史的実話に基づくというには、登場人物の心理描写が余りにリアルで、迫真的である。
しかも、現代の私達が大いに身に覚えのある欲望、後悔、嫉妬、猜疑心などをグイグイ指し示し、過ぎし体験を顔が熱くなるほどに思い出させ、戸惑わせることしきり。
文も現代人にとって決して過度でない古色さで、気持ちよく読める。
投稿元:
レビューを見る
これはすこぶるおもしろいよ。
10の短編からなり、強烈な話ばかり。
特に印象的だったのは、表題の2つと「蘭学事始」、「俊寛」。
「恩讐の彼方に」は、人を殺した男がただその罪を償うために二十年以上かけてトンネルを掘るという偉業を達成する話。
「忠直卿行状記」は、徳川家康の孫、忠直が主人公。自分のために家臣が次々と切腹していく。他人に理解されない苦しみを描いたある意味恐い話。
菊池寛は「真珠夫人」だけじゃないよ。歴史物が好きな人は楽しめると思う
投稿元:
レビューを見る
恩讐の彼方に
主の妾と恋中になったことを責められた主人公は、死ぬのが当然とおもった。
おもったはずなのに、もう死ぬのだとおもうとどうにでもなれと立ち向かっていった。
次に気づいたときには、主はもう死んでいた。
妾に言われるまま3両とほかのものを盗んで、去る。去る道々で悪事がエスカレートしていき
町に落ち着く頃には強盗をして暮らすのが当然とまで考えていく。
しかし若い夫婦を襲ったことで主人公がわれにかえる。
主を殺してまで一緒になった女だが、その女がおそろしくなる。
そして、僧になった彼は、自分の生涯の仕事をみつける。
旅人が毎年10人なくなる難所の工事を成功できれば、10年で100人、100年で1000人を助けられる。
そのために穴にこもってもぐらのように蚤ひとつで18年以上の時が過ぎていく。
そしてもうひとつのシーン。殺されてしまった主の息子があだ討ちで旅にでる。
ふたりとも辛く長い旅。そしてそのふたりがとうとう出会う。
でも、まだ殺さない。殺せない。
そして、ふたりともで工事をつづける。山を掘る。彫り続ける。そして貫いたとき二人は泣いた。
腰がまがり、日にあたらないことで目もくぼみ、こじきのようになってしまった、そしてすでに
人の形をほとんどとどめていないこの主人公を殺せなかった。
投稿元:
レビューを見る
仇討の無意味さを批判してヒュマーニズムの勝利を描いた小説。のちに寛は、「文藝作品の題材の中には作者がその芸術的表現の魔杖を触れない裡から、燐として輝く人生の宝石がたくさんあると思ふ」と、この作品を例に説明している。作品の舞台は大分県の青の洞門で、江戸時代、僧禅海が托鉢で資金を集め、石工を雇って掘ったという実話がもとになっている。
投稿元:
レビューを見る
所収の「蘭学事始」をイタリア語に翻訳して遊んだことがある。
訳してはじめて分かった、菊池寛の衝撃的な日本語の上手さよ。
読みながら、訳語をひねりながら、ほとんど涙が出そうだった。
投稿元:
レビューを見る
世阿弥『俊寛』、近松門左衛門『平家女護島』、
倉田百三『俊寛』(1918) 戯曲、菊池寛『俊寛』(1921)、
芥川龍之介『俊寛』(1922)など、俊寛は様々に描かれる。
歌舞伎や能の鑑賞の際に、こうした物語も参考になるだろう。
菊池寛バージョンでは、俊寛は島の娘と結婚し、健康に暮らしていたというお話。
俊寛が流された鬼界ヶ島の場所についても諸説ありはっきりしていないし、あちこちに俊寛に関する言い伝えが残っているとのことで、いろいろな解釈を生むのだろう。
投稿元:
レビューを見る
青空文庫にて『俊寛』のみ読了。
『俊寛』は鬼界ヶ島に流罪となった俊寛を題材とした小説である。
俊寛とともに流された康頼、成経が恩赦を得て京へ戻され、ただひとり島に残された彼の人生に焦点を合わせた作品である。
前半は康頼、成経ともに流された流人としての生活を描く。
罪人は三人ある。
三という数字は聖なる数字として捉えられることがある。
「三種の神器」しかり、「三位一体」しかり。
しかし、俗人の世界では、三人のうちのふたりが対となり、残るひとりを排除する傾向がある。
この作品では康頼、成経が対をなし俊寛を排除する。
流罪仲間からも排除され、孤立を余儀なくされた俊寛のやるせない孤独が描かれる。
聖なる世界では三は完成され、安定する数である。
しかし俗の世界では、三は不安定で、他を排除する数である。
つまり、「三」が安定する世界こそが「聖」であり、それが不安定に揺れる世界が「俗」であると言えようか。
ともあれ恩赦があって、よく知られたように俊寛のみが取り残されてしまう。
菊池は鬼界ヶ島の住人を「土人」と表現し、都会人であった俊寛と対比させている。
もう都会人として生きていく道の断たれた俊寛は、土人として生きていく覚悟を決める。
そこで糸を垂れて漁り、畝を作って麦を植えて生きていくのである。
俊寛は麦の種を得るために、最後まで手元に残していた妻の形見の小袖を手放す。
それは彼が京の暮らしと永訣するために必要な儀式であっただろう。
こうして土人として生きる彼に、新たな喜びがやってくる。
島の娘との婚姻である。
「牝鹿のようにしなやかな身体」をもつ、16,7歳の娘である。
さて、ここからは都会生活に倦む男のロマンのお話である。
この娘の登場から、私のこの作品に対する興味は一気に失せたと正直に書いておこう。
俊寛は娘との間に5人の子供をもうけ、土人としての幸せな生活を全うする。
かつて侍童であった有王が尋ねてきても、自分は死んだと言ってくれと頼むばかりである。
それはそうだろう。
彼のもとには若い妻と、可愛い盛りの子供達がいるのだから。
翻って京には、老いた妻と娘が残されている。
罪人の妻に後添いの話はないだろう。
罪人の娘に結婚の話はないだろう。
妻も娘も、尼になって俊寛の後生を祈るしか生きる道はないはずだ。
妻と娘は命ある限り俊寛の為に祈りを捧げ続ける。
俊寛は昼は幼子に頬ずりをし、夜ごとに若い妻を抱く。
菊池の視線はいったいどこに注がれていたか。
都会人の儚いロマンである。
さて、実際の俊寛がどのように後半生を生きたか、その記録はない。
ただ、喜界島に俊寛の墓と伝承される遺構が残されている。
人類学者鈴木尚によって、その遺構の発掘が行われた。
そこに埋葬されている人物は、明らかに島の住人とは違う、都会的な特徴を有しており、その骨には人為的な傷が多数残されていた。(��骨が語る日本史』)
その傷について鈴木氏はこう推論する。
【これらの創が皮膚や筋などの軟部を切りとるときのものとみなすとき、その動機はいわゆる儀礼的食人ではなかったかと思われる。(略)食人の風習は、ともすれば考えられやすい残虐の発露とか、あるいは食料を得るために行われることは稀であって、多くは儀礼的、呪術的な目的からである。前者としては死者の親族などが尊敬や親しみの気持から、死者の一部を自らの体内にとり入れ、ときには火葬した灰を酒に混じて飲むのも、この風習と関係があると見なされている。
また後者は、人間のすべての能力は肉体に宿るという考えから、ある優秀な得難い肉体的、精神的能力に対し、それにあやかる目的から食人が行なわれることがあるが、時には加害者が被害者の霊魂に悩まされることがないように死体の一部を食うこともある。】
(『骨が語る日本史』)
つまり、島の「土人」たちは、島にて横死した貴人の死体から肉を削いで食べたと思われるのだ。
その食人の理由について鈴木氏はさらにこう語る。
【島において彼を貴人あるいは、有力者とし高い尊敬の念をいだいていたのではないだろうか。そこで島民が貴人の肉体を自分の体内にとり入れることによって少しでもこの人物にあやかろうとしたものではないか。】(『骨が語る日本史』)
この骨が俊寛のものと考えるなら(この島にいた貴人といえば俊寛しかありえないのだが)、彼は命ある限り貴人として生き、死後もなお貴人としてあったといえよう。
菊池の描くロマンとは対照的に、実際の俊寛は最後まで貴人として、都会人としてその島に生きたと考えるのが妥当ではないか。
命の灯火つきるその瞬間まで、都の風物に、残された妻子に思いを馳せ続ける俊寛。
ともに手を取り、都大路を彷徨いながら、夫の、父の菩提を祈り続ける母子。
そこに菊池の意図するものとは別の、史実に基づく詩情が息づいている。
どちらに強く心を動かされるか、それはいうまでもない。
投稿元:
レビューを見る
『三浦右衛門の最後』
『忠直卿行状記』
『恩讐の彼方に』
『藤十郎の恋』
『形』
『名君』
『蘭学事始』
『入れ札』
『俊覚』
『首括り上人』
投稿元:
レビューを見る
菊池寛の名作選。
出版社によって、セレクトが違ってるのですが、本書は名作がずらり。
表題の「恩讐の彼方に」「忠直卿行状記」は名作中の名作なのですが、
その他にも「藤十朗の恋」「蘭学事始」など素晴らしい作品が掲載しております。
「藤十朗の恋」は元禄時代の坂田藤十郎の芸人魂を感じさせる逸話を描いた作品。
男女の恋沙汰をスリリングかつ残酷に描いた筆力に感服。
「蘭学事始」は、杉田玄白と前野良沢という後世に残る偉業を成し遂げた二人の個性と才能のぶつかり合いを描いた作品。
職人的気質の前野良沢と、経営者気質の杉田玄白という異なる個性が、如何に大事業をやり遂げ、袂を分かったかというのを精緻に描き上げています。
どちらも短い作品ながら、文章のひとつひとつに無駄がないため、言葉のひとつひとつが、読み手に迫真してきます。
物語佳境に於いては、剣術の名人に打ち込まれたような印象すら感じました。
時代小説の醍醐味を感じたい方や、近代の古典の素晴らしさを実感したい方には、オススメの一冊です。
投稿元:
レビューを見る
菊池寛の歴史モノ短編集。新潮文庫版と重複しているものもある。面白かった。たくさんの人に読んでもらいたい。
■三浦右衛門の最後
武士は命を捨てるのが本当に美しくて勇ましいことだろうか、という疑問を、すでに作者が抱いていたのがすごいと思う。
それにしてもちょっとえぐかった。
最後にいきなり菊池寛の感想が出てきたのがヘンだった。
■忠直卿行状記
再読。徳川家康の孫、松平忠直が手の付けられない暴君となった理由。 寂しくてみんなの仲間になりたいけど、どうしたらいいのかわからなくてケンカをふっかけちゃう不器用な子供はきっとどこの小学校にもいるんじゃないかと思うけど、忠直卿は、君主という要素が加わってますます孤独を深めることになってる。でも、家臣にはそれがわからない。
家臣はズバズバ腹を切るし、とても気の毒で仕方がない話だった……。
■恩讐の彼方に
再読。これまでの罪を反省し、一人で岩壁に穴を通さんと槌を振るう市九郎が壮絶。
復讐に来たのに手伝っちゃう実之助が、いいやつでよかった。
つーか、お弓怖いな。
■藤十郎の恋
再読。芸術のために人の命を犠牲にするのは、芥川の『地獄変』と通じるところがあるかも。無論、藤十郎には命まで犠牲にするつもりはなかったのだろうが……
■形
再読。新兵衛は、おそらく鍛錬を怠っていたのだろう。
■名君
さすが井伊直弼手厳しいwwwww
これって播磨守が家茂をかばったでいいんだよね??
■蘭学事始
再読。ターヘル・アナトミアを翻訳する二人の話。
平賀源内もちょろっと登場して錚々たるメンバー。
壮大な大志を持った人がいなければ大事は成らないが、そういう人だけではまた大事は成らない。
てことは、わたしのようないい加減なヤツにもなんかの役に立ちますかね?
■入れ札
赤城の山も今宵限り! な国定忠治とその子分の話。
むかしちびまる子ちゃんで、学級委員選挙で誰かがまる子に1票入れていて、まる子が自分で入れたと思われたくなくて自分の入れた子にそれを大げさに伝えるみたいなシーンがあったけど、これはその逆みたいなもんだな。
■俊寛
再読。島流しにあった俊寛のその後を描く。
たくましいぜ俊寛。「鹿ケ谷の陰謀」という高校日本史の用語とセットで出てきた無機質な知識が、この小説のおかげで血が通ったものに変わる。
■頸縊り上人
極楽どころか地獄。なんという皮肉。笑い話のようだけど、死ねよ死ねよと大勢の人間に囃し立てられるなんて、ちょっと怖い。
投稿元:
レビューを見る
「忠直卿行状記」は何度読んでもおもしろい、傑作短編歴史小説。時々、本棚から引っ張り出して、読んでしまう。
若くして67万石の大名となった越前の松平忠直。彼の極悪非道っぷりは日本の中でもかなりのワースト。参勤交代をサボり、家臣とその家族を殺害することに快楽を覚え、ついには妻をも殺そうとした、とんでもない殿様なのだ。しかし、家柄は徳川家康の実の孫という超エリートだけに始末が悪い。
そんな忠直を、菊池寛は孤独感に悩む未熟な人間君主として理解し、狂気の理由を見事に小説化。ホントの所、救いようのない狂人だったんだろうけど、松平忠直のことをもっと知りたくなる。松平忠直ファンのムック本としても、おすすめ。
投稿元:
レビューを見る
どこかで推奨されていたのを図書館にて借り出し。
タグに読書力があるのに納得。文体が少々小難しい。でも引き付けられます。
短編集ですので気が向いた時に軽く読めます。
投稿元:
レビューを見る
「俊寛」を青空文庫で読みました。うーん、なんか練れていない村上春樹の短編という感じ、、、、、俗世の醜さを孤島で悟って幸せになるという、、、大河ドラマもこの話に向かいます。