紙の本
有名な詩を
2017/05/04 10:38
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投稿者:くまぜみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
読むだけに購入。人がいいと思う本がいいとは限らない。
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死んだ後で何といってもらいたいかという石川淳の質問に「詩人」と答えたという逸話を記憶してます。これを読むと詩の方が寿命が長そうな気がします。いいです。岡山出身の内田百間は中世が現代に顔を突き出したという評言(種村季弘の言葉だったか)がありますが広島出身の井伏も同じ気配があります。中国地方の文学風土は江戸戯作を通過してないのかな?
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井伏さんの詩って「勧酒」が有名だけどそれしか知らなくて、これを買ってみた。素朴なかんじがとても良い。「勧酒」が入っている「厄除け詩集」に、他で発表された詩も併せて収録されており、お徳。
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かの有名な「勧酒」目当てで購入した1冊。
前半から漢詩の訳のあたりまではわくわくしながら読めたけれど
後半は少しだれてしまったような印象。
あまりリズムとか韻にはこだわらずに書かれていたからかな。
散文を書きたくなったときに、厄除けのつもりで書いたとは、よく言ったものです。
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1937年(昭和12年)。
訳詩が素晴らしい。孟浩然『春暁』を直訳と井伏訳で比較すると(カッコ内が井伏訳)、
春眠暁を覚えず
(ハルノネザメノウツツデ聞ケバ)
処々啼鳥を聞く
(トリノナクネデ目ガサメマシタ)
夜来風雨の声
(ヨルノアラシニ雨マジリ)
花落つること知んぬ多少ぞ
(散ッタ木ノ花イカホドバカリ)
直訳の格調高さも良いけれども、井伏訳の大らかな自然体も捨てがたい。
そして何と言っても、于武陵『勧酒』の訳の完成度は一頭地を抜いている。いつか自分がこの世に別れを告げる時もこんなふうに飄々と去っていけたらいいな、なんて思ったりする。
君に勧める金屈巵(きんくっし)
(コノサカヅキヲ受ケテクレ)
満酌辞するを須(もち)いず
(ドウゾナミナミツガシテオクレ)
花発(ひら)けば風雨多く
(ハナニアラシノタトヘモアルゾ)
人生 別離足(おお)し
( 「サヨナラ」ダケガ人生ダ)
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無骨で老獪な小説の印象の強い井伏鱒二の詩集はどのようなものかしら、と手にした。
無知で恥ずかしいが、あまりにも有名な「サヨナラダケガ人生ダ」の「勧酒」は井伏の訳だったか。
吐き出されるように書かれた詩は情緒的ではないが、不思議と「詩的」である。
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引用
なだれ
峯の雪が裂け
雪がなだれる
そのなだれに
熊が乗ってゐる
あぐらをかき
安閑と
莨をすふやうな格好で
そこに一ぴき熊がゐる
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有名な「勧酒」と、他の詩も読んでみたくて購入。
のどかでありながら、どこか醒めた感じも受ける詩が多かった。
高校時代に教科書で読んで印象に残っていた「秋夜寄丘二十二員外」が収録されていて、懐かしい気持ちになった。
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井伏鱒二という「詩人」の全貌がやっと身近なものになった。私は彼の詩の一部しか知らなかった。今回の詩集は今まで一番充実していた「全集」のそれよりも「拾遺詩篇」19篇が付き、まさに「決定版」になっている。彼の詩は一言で言うと「個性の塊」である。そして一方では「柔らかい日本語」なのだ。そして時々「どきりとする表現」があり、時々「謎な表現」がある。
例えば「逸題」。「今宵は中秋名月/初恋を偲ぶ夜/われら万障繰りあわせ/よしの屋で独り酒をのむ 春さんたこのぶつ切りをくれえ/それも塩でくれえ…」この見事なリズム感、見事な庶民性。そしてなぜ「われら」が「独り」なのかという謎。
また訳詩という作業において、井伏はまだ誰も追いこしていない換骨奪胎の偉業を成し遂げている。「ハナニアラシノタトエモアルゾ/「サヨナラ」ダケガ人生ダ」干武陵の「勧酒」を見事に訳したこれだけではない。「ドコモカシコモイクサノサカリ/オレガ在所ハイマドウヂヤヤラ/ムカシ帰ツタトキニサヘ/ズヰブン馴染ガウタレタソウダ」(杜甫「復愁」)今回彼の詩を全部読んで気づいたのはその詩の中に庶民から見た戦争の影がどうしようもなくまとわりついているということだ。これは井伏でしか書けなかった詩であり、もう現代では誰も書けない詩である。そういう目で見ると「つくだ煮の小魚」も「顎」も「春宵」も突然いなくなった者たちへのもの哀しくオカシイ鎮魂歌の様にも思える。のは私だけだろうか。
2004年12月8日読了
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好きな詩
『春暁』『聞雁』『田家春望』『紙凧』『泉』。
特に好きな詩の抜粋
『田家春望』p.56
ウチヲデテミリヤアテドモナイガ
正月キブンガドコニモミエタ
トコロガ会ヒタイヒトモナク
アサガヤアタリデ大ザケノンダ
『勧酒』p.59
コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
『花に嵐のたとえもあるぞ「サヨナラ」だけが人生だ』は、何度考えても自分なりの解釈が思いつかない。しかし、つい口ずさみたくなるお気に入りの詩。
岩波文庫3/100冊目。次は、『黒猫・モルグ街の殺人事件 他五篇』を読む。