紙の本
飛ぶことをめぐる少女の成長と、3世代の女たち
2004/11/08 23:51
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投稿者:ひろえ - この投稿者のレビュー一覧を見る
訳者による後書きによると、作者は、「ハンセン家の女たちは、どんなに天気が悪くても、かならず夜に飛ぶ」という着想からこの物語を書いたという。ただし、魔女的なファンタジーではなく、少女のイニシエーションと家族の変容が、飛ぶ行為・飛ぶ女の姿を通じて鮮やかに描かれている。
ハンセン家には、おばあさまの言い渡した「敷地内に男は住むべからず」の決まりどおり、男がいない。主人公のジョージアは15歳。母親のメイヴとその姉妹(ジョージアの叔母たち)のエヴァとスキ、おばあさまのマイラと3世代で暮らしている。彼女たちを結ぶのは、飛べる家系であること。ファンタジーらしいのはこの一点だけなのだが、飛行の描写では、風の冷たさや飛翔の高揚感、方向を定めたり着地したりするときの緊張など、大変リアルで、飛んだことがなくても、こんな感じなんだろうな、と思える。
おばあさまの力が圧倒的な屋敷の中で、ジョージアの16歳のイニシエーション(「単独飛行(ソロ)」をめぐり、母の世代とジョージアとがいかに自由になるかが語られる。家族の葛藤とそこから羽ばたいていく若い少女、という普遍的な物語であるからこそ、飛行の皮膚感覚にあらわされるジョージアの怒りや大人の女性になることへの想いが具体性を帯びる。また、飛ぶことを特別視するのではなく自分の体験としてリアルに捉えられることも魅力だ。
長い間この屋敷から離れていたカルメンの造形がいい(名前も示唆的である)。16歳を迎えたジョージアの美しさも想像できる。叔母たちそれぞれの優しさとあたたかさを感じる。
酒井駒子さんの装丁が素敵。
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酒井駒子さんの絵に惹かれて。
ちょこっと読みづらいところもあったものの、読後感がとってもよかったー。
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ハンセン家の女たちはどんなに天気が悪くても、かならず夜に飛ぶ。この一行から始まる素敵なお話。支配からの独立の物語でもある。黒くて素敵なドレスを来て単独飛行(ソロ)の儀式をする少女・・・なんてそれだけでご機嫌なんだけれど、表紙が酒井駒子だというのも嬉しい。黒くてひっそりとした夜のようなお話。
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ハンセン家の女たちは、空を飛ぶことができた。しかし、彼女たちは厳しい
規則に従って生活していた。15歳のジョージアは、祖母との葛藤、飛ぶ
権利を奪われた母との関係、謎めいた叔母との出会いを経て、儀式の夜へ
向かう…。
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最初は1884年、アルバニアからアメリカへ渡るための船が難破し、夫と息子を亡くしたルイーザだった。
心を引き裂くかなしみが、彼女を空へと駆り立た。
以来、ハンセン家の女たちはみんな空を飛んできた。
空を飛ぶ能力を持ち、いくつもの規則に縛られた女たちの一族に生まれ育ったジョージア。
おばあさまと母親のメイヴ、叔母のエヴァとスキに囲まれた小さな世界は、ジョージアが十六歳を迎える誕生日の前日、外の世界で暮していた伯母カルメンが帰還した夜から壊れ始め、彼女はそこから出ようともがき始める……。
広がるはてしない闇、隊列を組んで飛ぶハクガンの群れ。儀式の夜の黒いドレス。嵐の夜の飛行。ジョージアの心の動きに重ねた飛翔の情景を美しく描く、夜のファンタジー。
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最初から最後まで、わりと静かに流れていく物語。空を飛ぶ一族に生まれた女の子が、家族や自分について葛藤する。
物語のもつ静けさがとてもいい雰囲気をもっている。冒頭の一文がとてもいい。
”ハンセン家の女たちは、どんなに天気が悪くても、かならず夜に飛ぶ”
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ハンセン家の女たちは、どんなに天気が悪くても、かならず夜に飛ぶ。印象的な文章で始まる物語は、心浮き立つファンタジーとはいかなかったのです。
空を飛ぶというのは自由を表わしているように見えて、ハンセン家ではそうではないのです。ジョージアの5代前のルイーザが飛んで以来、ハンセン家には様々な規則ができる。敷地内に男は住むべからず、肉を食べるべからず、昼間に飛ぶべからず。
そして祖母は規則と財力で家を支配し、娘や孫のあらゆることを決める。母は飛ぶことを禁じられ家事に縛られている。ジョージアは単独飛行の儀式を目前に控えている。
そこに規則を破り家を追い出された叔母のカルメンが現われ、ジョージアの心を揺さぶる。禁じられている単独飛行を昼間に行なうほどに。
飛ぶことがジョージアにとって本当に自由を表わすものとなる描写が美しい。飛ぶことが自由であり、独り立ちすることであり、未来へと進むことである。
これは家というものに縛られている女たちの物語でしょう。飛ぶことで縛られていたものが、飛ぶことによって解き放たれる。そこに様々な意味合いを見ることができます。
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何かの規則や誰かを使って規則を正当化する事はあまりいい行為とは言えないということを言っている感じがした。