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紙の本
これって、やっぱり今年一番の作品だとは思うんだけれど、なんだか京極夏彦の小説をもっと易しくしたような気がしないでもない。でも登場人物は、好みの人ばかり
2004/11/26 20:32
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ブックデザイン=熊谷博人、カバーデザイン=京極夏人+坂野公一(welle design)、図版製作=小野不由美。そう、あの「京極夏彦」様と「小野不由美」様である。京極は、文春の本格ミステリ・マスターズシリーズで、小野は笠井潔『オイディプス症候群』のダイダロス館の見取り図担当者としてその冴えを見せているが、いやあマルチ人間というのは、おるもんですなあ。
で巻頭の献辞は「亡き父に」である。詳細はわからないけれど、一応ご冥福を祈っておこう。
全六部、二十八章の構成で、間に六つの間奏曲の章、蛇足、あとがきがつく。舞台となる時代は1991年、場所は九州地方中部熊本県Y※※郡百目木峠近くの影見湖の小島に建つ洋館『暗黒館』。これぞ本格推理の王道という設定である。その設定からも推測できるように、この館は主要人物たちがそこに集合した時点で孤立する。ここまで大上段に構えた本格ミステリというのも凄いとしかいいようがない。
しかもである、なんと主要人物二人が記憶喪失なのである。一人は江南孝明26歳、今までの綾辻の館シリーズにたびたび登場する。長崎県島原生まれ、総合出版社「稀譚社」勤務、今までもたびたび事件に巻き込まれた男は、中村青司の「館」に執着を持つ探偵役の推理作家 鹿谷門実と連絡も取れないままに単身「暗黒館」へ向かう。そして記憶を喪失するのである。
もう一人の記憶喪失者というのが私こと中也である。といっても、彼は現在記憶喪失に罹っているわけではない。半年ほど前にショックで記憶を無くし、その時知り合ったのが「暗黒館」の持ち主浦戸一族の玄児であり、その結果として今回の事件現場に招かれたことになっている。話の途中でしばしば記憶の混乱を起こしていくあたりは京極夏彦のシリーズの関口巽、三津田信三の三津田みたいなものである。
で、暗黒館を建てたのが初代の浦戸玄遥であり、そのきっかけとなったのがイタリアで玄遥と出会い彼と結婚することになる美女ダリアである。そして、近年になってその建物に手を加えたというのが、江南を惹きつけてやまない天才建築家で、娘千織の後を追うように46歳で亡くなった中村青司ということになる。そして鬼丸老がいる。「それはわたしへのご質問ですか」「どうしても答えよと云われますか」という彼の決まり文句の面白さ。
でだ、この小説、連続する殺人事件の謎を解くものではあるけれど、基本は「暗黒館」に招かれることになった私と、招かれざる客の江南の二人、そして浦登家、特に玄遥とダリアの秘密にあるといってもいい。だから、広義のミステリとして読書に堪えるのである。それは小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、中井英夫『虚無への供物』、笠井潔『オイディプス症候群』、山田正紀『ミステリオペラ』、或はちょっと系列は違うけれど半村良『石の血脈』、小野不由美『屍鬼』と同列にあるといえる。
全体で2500枚にもなるという小説だが、上巻の後半になってやっと事件が起こるような、悠然とした堂々たる歩みである。しかし、それが詰まらないかといえば、私、あるいは江南の精神の混乱という部分を除けば、楽しく読むことができる。それは登場する人物がその数にも拘わらず分かりやすく描き分けられ、さらに魅力的な造形が多いせいだろう。
たとえば美女の姉妹 美鳥と美魚がいる。悲劇的な存在であるにもかかわらず、彼女たちの無邪気な美しさは何だろう。あるいは九歳であるにも拘わらず老成したところを見せる清。知恵遅れの慎太少年や、反抗期の中学生 市朗、或は彼らの美貌の母親たち美惟、望和も、精神を病みながらも魅力的である。玄児の父親で事件が起きても警察の介入を極度に嫌う柳士郎も、存在感をみせる。そして玄児。小説は人物造形こそ全てであることを実感させてくれる本である。
紙の本
シリーズ集大成は異色の“館”なれど、完成度はきわめて高い。
2004/10/27 11:36
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:カルバドス - この投稿者のレビュー一覧を見る
いやあ、長かった。講談社の雑誌に連載されていた期間である。何回まで読んでいただろうか。途中で面倒になり、それからはただ完成を待つことにした。そして上下巻を読んでみて、やはり「いやあ、長かった」となった。
連載中から“館シリーズの集大成”と話題になっていて前評判が高かったものの、なかなか全容が明らかにならず、完成品がどれほどのものになるのか予測できなかった。実際読んでみればスラスラ進み、読みにくいということはなかったのだが……。
連載中にも感じていた違和感が、下巻の終盤までずっと続く。完成したはずのジグソーパズルのはめ込みが微妙に違うような、ハッキリしない不安感にも似た感じ。閉ざされた空間で起こる連続殺人という定石ともいえるパターンなのに、どうにもしっくりこないのだ。その違和感の原因は、解決に至る手前までに予想がつくのだが、ラストでそれが明かされてもあまり納得のいくものではなかった。
確かに、館シリーズの集大成に相応しい。分厚い上下巻のボリュームもさることながら、物語としての完成度も高い。だがSFというかオカルトというか、なぜ今回のような手法をとらなければならなかったのか、という疑問が残る。殺人事件の謎解きそのものには納得できるだけに、惜しい気がする。
作者が仕掛けた罠を見破りつつ謎を解く、という楽しみ方をするには、特殊な文章の書き方に惑わされないよう注意しなければならない。かといってそればかりを気にしていると、大事な部分を見落としかねない。「やってくれるなあ」と素直に脱帽できるか、「こんなのあり?」とイライラしてしまうか、それは読み手の受け取り方次第。ただ、どちらの感想になろうとも、損したとは感じないはずだ。“館シリーズの集大成”には違いないのだから。