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紙の本

沈黙を守ることの怖さ、それをこういった形で小説に出来るのは、やはりこの人でしょう。それにしても埼玉県、犯罪王国の感が拭えないのは困りものです

2005/12/20 21:06

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

《埼玉県北東部の人口七万の久喜市。新聞配達の学生が巻き込まれた二件の大量殺人事件。奇跡的に助かった被害者の弟が失踪した》
ダチョウ倶楽部ではないですが、掴みが良ければ小説の大半は成功と言ってもいいもの。折原一の推理小説は、どれも冒頭で読者をひきつけずにはおかない点で、それに似ています。それにしてもこの小説の舞台である埼玉県、昔はダサイなどと笑われていたのですが、最近は犯罪が頻繁に起きる場所のイメージが強くなっています。ワールドカップもあったことですし、そろそろ汚名挽回と行きたいところですね。
埼玉県北東部の人口七万の久喜市、そこで新聞配達をする大学生の立花洋輔が事件の発見者です。配達先の鍵の掛からない玄関に不審を抱いた彼が見つけたのは一家4人の惨殺事件でした。一人生き残ったのは同じ大学理科大の学生 田沼ありさです。十七歳の弟省平の行方はようとして知れません。その発見者である洋輔がまたしても出遭ったのが元警視庁署長である吉岡一家殺人事件でした。
平行して描かれるのが、十七歳の少年が引き起こした万引き事件です。彼は事件そのものこそ認めたものの、頑なに名前を明かすことを拒み続け、警察の心証を悪くしたまま留置所の留め置かれます。留置番号池袋警察署39番と呼ばれ、姓名を明かすことを拒み続ける少年は一体誰なのでしょうか。殺人事件との関連は。失踪した省平はどこに。心の傷を乗り越えてありさは再び幸せを掴むことができるのでしょうか。
五十嵐友也のレポートを小説に構成したという形式をとっています。叙述トリックが得意な作家だけに、単純な推理小説ではありません。ただし、古いところでは中町信『新人文学賞殺人事件』、記憶に新しいところでは逢坂剛『水中眼鏡の女』の切れには及ばない気がします。
むしろ構成ではなく、私がもっとも感心したのは、頑なに沈黙を守り続ける万引き少年の描写です。読んでいるこちらの心が痛くなってくる、とはこういう小説をいいます。

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