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本は保管したらいいでしょう、という図書マニアな本。訳者は、原著者の本に対する執愛ぶりがおもしろくって仕方ないのか、とにかく読ませる文章になっている。
私の中では、おじいちゃんのお小言・薀蓄本。
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火、水、無知、子供、etc…本の「敵」について色々書いてある。元々は1880年に書かれた本。
火事、水害、価値を知らないから暖炉の焚き付けに使ったり、余白をメモに使うために破ったり、棚に入らないから切ったり、と色々事例をあげては著者の嘆きがそれに続く。真面目な内容なんだけど、軽妙な感じで面白かった。
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目次を見ると、一見、学術書バリの難文が列挙されているのだろうか不安にもなるが、実際そうではなかった。文字から書物愛がにじみ出ていて、熱いです。
『水の暴威』の項では、こんなことが書かれている。
1785年に世界に名高い蔵書の持ち主から売られた本を、ロンドンへと持っていく時に三隻の貨物船を使っていた。しかし、航海の途中で海賊に襲われ、一席が拿捕(だほ)される。海賊はその貨物船に財宝がないことに苛立ち、なんとすべての本を海に投げ込んだ。
ひどい! もし、自分が引っ越し中で、引越車が海岸線を走っていて、本を積んだ荷台だけがポロリと取れて、海に落下したらと考えてみれば……
当時は本の量産が難しい時代である。世の中に二冊と存在しない本なんて、沢山あっただろう。自分がその時代にタイムスリップして、それをやられたら、海賊狩りのゾロ(漫画ワンピース参照)に100万ベリーで懲らしめてもらう。
と共に、どこかユーモアがある。怒り狂った海賊と、搬送してきた人の悲しそうな顔の挿絵がそのシーンを再現していて、妙にマッチしているし。
『召使いと子供の浪籍』の項は、最も共感できた。
お手伝いさんが「本や書籍を動かしたら必ず元の場所に戻すから」と言いながら、埃等の掃除を始め、戻っていなかった場合があるのに腹を立てている。『埃と粗略の結果』の項では埃を書物の敵だと指摘しているから、掃除しないで汚い状態がいいと言っているのではなく、掃除される時は眼のとどくところでやらせるべき。とフォローかつ、アドバイスに転じている。これってさぁ~書物の敵、つーか自分の敵じゃん。なんて思っちゃいけませんよ~
僕は心の中でうんうんと頷いていた。お手伝いさんがいて、やらせるってのは少々傲慢チックではあるものの、その場所にあったはずの本が移動されているのは、本当にくやしい。特に読みかけであったらなおさら。探し回った結果、部屋が余計に汚くなってしまったら、もう涙目だ。
いろいろ想像力を掻き立てられた本です。
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2011 9/5読了。筑波大学図書館情報学図書館で借りた。
印刷屋を営み書誌学者でもあった著者が、タイトルのとおり、物理的に書物を脅かす「敵」をあれこれ列挙しながらエピソードを綴った本。
原著は19世紀イギリスの本だけど、著名でありつつ完訳がない、ということで2004年に邦訳が出た、とのこと。
タイトルからして文化破壊の歴史とかの本のようにも思えるし、実際に宗教的な理由や無知によって本を処分するような人間の描写も多く出てくるのだけれど、それに限らず自然現象や害虫も含めひたすら物理的な本の破壊者について思いの丈を書いていく。
それがなんというか・・・この著者、本が好きすぎで、紙魚がけっこう好きで、製本屋と女召使にトラウマ持ち過ぎだろう!w
紙魚の章の記述は秀逸。当時まだ紙魚についてよくわかっていなかったということもあるのだろうけれど、図書館で見つけた紙魚を箱に入れて持って帰ろうとしたり、郵送で送られてきた虫に古い紙を与えながら18ヶ月も飼育を試みたり。
一方で製本業者に対しては余白を切り落としたり手際が悪くて本を傷つけたりに相当ご立腹なようで、切り落とされた紙で弱火で火あぶりにしてやりたいとまでいう始末。きっとこの人、現代日本のブックオフで古書が似たような扱い受けるかも、と聞いたらアルバイトを火あぶりにするとか言い出しそう。
図書館学的には解題にも書かれている書誌学の立役者としての側面が重要なんだろうけど、本好きで面白いおっさんとしてのブレイズが最高すぎてもうね・・・。
ところでうちの図書館版のこの本、表紙にコーヒーらしき染みがあるんだが、これもまた書物の敵の手になるものだよな・・・(苦笑)
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世の中には本の内容ばかりではなく、物体としての本が気になって仕方のない人たちがいる。そういう書物愛(ビブリオフィリア)に取り憑かれた人を愛書家と呼ぶが、この本の作者もその一人である。それだけではない。イギリス活版印刷の祖であるウィリアム・キャクストンの手になる本の蒐集者として知られ、後に書誌学として確立することになる学問の第一人者とも呼べる人らしい。専門の学者ではない。印刷を生業にする人である。
専門の学者でもない人が書誌学の礎となる業績をなぜ上げられたか、それは偏に本に寄せる愛情の賜物であった。印刷工として出発したブレイズは、英国初の鋳造活字によるキャクストン本を体系立てて蒐集し、活字の摩耗具合などから判断してイギリスで活版印刷が行なわれるようになっていった歴史を明らかにすることに成功する。しかし、書誌学という学問成立以前のこと、その蒐集過程でブレイズが出会うことになったのは今となっては信じられないほど無造作な取り扱いに甘んじている書物の姿であった。
愛書家が書物の美点、長所について語るのは当然である。しかし、真の愛書家にとって何より問題となるのは、愛すべき書物に襲いかかる敵の数の多いことである。ブレイズがここに挙げる書物の敵の中には、「ガスと熱気」のように、時代の移り変わりの中で自然に消滅していった例もふくまれるが、「火の暴威」や「水の脅威」のようにいまだに強敵として君臨する者もいる。なかでも、ブレイズが最も力を入れて言及する最大の敵は「紙魚」である。
その他、作者が挙げる敵を列挙すれば、「埃と粗略」「無知と偏狭」「害獣と害虫」「製本屋の暴虐」「蒐集家の身勝手」「召使と子供の狼藉」と枚挙に暇がない。表紙の修理を依頼した製本屋が原本の奥付や内表紙を勝手に切り取ってしまったり、また、逆に価値ある書物の天地を自分の書棚の寸法に合わせて裁断したりする蒐集家もあったという。飾り文字の部分を切り取って自分のイニシャルを作る子どもや、装飾付きの題名の部分だけを切り取ってスクラップする蒐集家もあったらしい。召使いが本の値打ちを知らずに暖炉の焚き付けに一枚ずつ引き毟ったり、トイレで事後の処理に供されたりもしたというから、愛書家が胸を痛める気持ちも分かろうというもの。
アレクサンドリア図書館を襲った大火の模様や、財宝が見つからないので腹を立てた海賊によって海中に投じられた積み荷の蔵書の運命に一喜一憂するもよし、ヴィクトリア朝英国の図書事情について当事者であるブレイズの一家言を聞くもよし、本に関することなら何でも興味関心があると宣う御仁なら。読んでおいて損はない。ただし学者ではないブレイズ氏、記憶違いもたまにはある。だが、心配御無用。たっぷりとった余白に原註、訳註が親切である。
原本にあったエングレーヴィングや石版による挿画も多く採られ、愛書家に関する書物らしくゆったりした版組や活字の選択等、造本もまた興趣を添える。語り口はといえば、少々時代がかった口吻に巧まざるヒューモアが感じられ、愛書家ならずとも、本好きにとって古き良き時代を偲ぶ絶好の読み物となっている。冬の夜、暖炉の傍に肘掛け椅子など引き寄せ、サイドテーブルに置いた洋燈の火影で読まれるならば、これに勝る愉しみを見つけることは難かろう。
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書物に害を及ぼす存在が網羅されています。
書誌学の本として大変優秀で、少し難い内容です。
又、1896年の訳書であるため、当時と現在の認識が違うものもあります。
とはいえ、書物を扱う者…いや、単なる読書好きにも大きな知識を与える一冊です。
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19世紀に書かれた書物の敵論。敵として火や水、ガスなどを取り上げ、文献を引用しつつ論を展開させる学術書ではあるけれど、とても親しみをもって読めた。それはたぶん、時代は違えど共通する本好きの気持ちやあるあるが詰まっていたからだと思う。「結語」に書かれてあることは特に心に響いた。改めて自分の本棚に入っている本、図書館の本の取り扱いを考えさせられる作品。