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思わず引き込まれる高橋直樹氏の重厚な歴史小説集!早くも文庫本で登場!
2005/01/10 02:05
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、戦国時代に題材を取った3つの中篇小説が収められている。
『城井(きい)一族の殉節』は、豊前に所領を持つ名族城井一族が、豊臣秀吉の島津攻めの一翼を担って進駐して来た黒田官兵衛孝高の姦計にはめられ滅んでいく様を哀感を込めて描いている。
『大友二階崩れ』は、九州の雄、大友義鑑と嫡男の義鎮(後の宗麟)の対立とその悲劇的な結末を臨場感溢れる筆致で描いている。
『不識庵謙信の影』は、越後の虎上杉謙信亡き後、喜平次景勝と三郎景虎の養子同士の熾烈な家督相続争いを題材にしている。
この3編を通読すると、作中に使われている言葉ひとつひとつが選び抜かれていて、作品に凛とした趣を与えていることに感心する。
最近の歴史小説は、読んでいてその作品の世界には不似合いな現代的な言葉が不用意に使われていて、興醒めになることが多々ある。古代や戦国時代の東北の英雄をスケール豊に描く高橋克彦や、最近『信長燃ゆ』などの力作を多く発表している安部龍太郎などは、評者の愛好する作家なのだが、これらの練達した作家にしても、そのような弊害を間逃れていない。高橋直樹は、そうした問題を感じさせない唯一の作家かもしれない。歴史小説は、はるか以前の歴史の細部を読者の眼前に違和感無く展開させるものである以上、歴史小説作家たるべきもの、著者の高橋直樹のように作中に用いる言葉については、もっと意識的になるべきであろう。
本書には、登場人物の描写に著者の人間洞察が光っていることも見逃せない。
大友義鎮(後の宗麟)の果断な人物像や、上杉謙信の美顔に時折宿るこの世とも思えない眼差しを描いているところに、著者の人間洞察の冴えを感じるが、それにも増して印象的であったのは、『城井一族の殉節』で登場する三宅三太夫という人物である。三太夫は、城井一族と黒田官兵衛の間に立って折衝する黒田家家臣で、表裏無く信用できる枯淡な人物であるかのように描かれている。最後に、この人物は城井一族に非道な裏切りをする訳であるが、えてしてこのような一見誠実そうに見える人間が一番油断ならないことは、今も昔も変わりなく、著者はその辺りの機微を的確に描いている。あまり目立つとはいえないこうした脇役にも目配りしているところに、高橋直樹の人間洞察の厚みを感じる。
本書は、このように見事な中篇を集めているが、ただ3つの作品を並べただけではなく、いずれも戦国大名の総領と嫡男の関係がテーマとなっていて、一本芯が通っていることを申し添えておこう。
評者は、この作家の作品を読むのは初めてであるが、このような充実した作品を読むには久々である。文章力・歴史への深い造詣・用語の的確な使い方・
ストーリーテーリング・登場人物の造形、すべて第一級である。著者には、今後とも緻密な作品を書き続け、我々歴史小説ファンを唸らせて欲しいものである。
なお、タイトルの『戦国繚乱』は漠然としていてあまり好いとは思えない。初出単行本のタイトル『大友二階崩れ』の方が、戦国の無惨さや無常を伝えていて本書に相応しい。
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城井氏を扱った珍しい作品
2012/06/29 01:34
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:部屋住冷飯郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
現在の福岡県西部~大分県北部は古くは豊前国という一つのまとまりでした。
もっとも豊後の大友だの周防の大内だのといったような統一勢力は登場せず、あたかも甲斐武田氏と越後長尾(上杉)氏の間にあった信濃国同様、国人勢力が割拠する状態。しかも宇佐八幡宮や英彦山修験といった宗教勢力も強力なのがいました。後の豊臣秀吉による九州征伐では肥後とならんで豊前国人一揆が勃発していますから、まあ独立性の高い土地だったのでしょう。よくいえば。
さて本作で扱われている題材のひとつが、まさにこの豊前国人一揆の中心となった城井氏であります。下野国の名族宇都宮氏の分家にして、かつては豊前国守護もつとめた家柄。うまく時流にのれば後に豊前の戦国大名ともなれたであろう家でしたが、南北朝時代に没落して以降は(分家筋も含め)豊前でも最大規模の勢力をほこるとはいえ一国人領主として代を重ねていました。
島津氏による大友攻めが始まり、さらには豊臣氏による介入(九州征伐)が始まるころからこの物語は始まります。時流が大きく変わるとき、昔ながらの国人たちはいかに世を渡っていくのか、いけるのか。中世武士から近世武士への脱皮を成し遂げられなかった地方豪族の、しかし必死で一所懸命な姿がここにあります。
そして、ついに発生する豊前国人一揆。
その中心となったのは、片田舎の国人・城井氏でした。
かの黒田長政を幾度も撃退し、ついに正攻法での戦をあきらめさせた偉大な武人・城井一族。しかしその次に控えていたのが戦国一の策士・黒田官兵衛でした。
かつて天下の豊臣、天下の黒田と対等に渡り合った偉大な武将のことを、いまでは地元の人間でも知る人は多くありません。まして作品になっているものは皆無です。それだけでも、この作品は高い価値があるといえます。
おそらく戦国時代、日本中でこのようなことがおこっていたのでしょうね。
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3つの作品が入った短編。
上杉謙信の跡目争い「御館の乱」を書いた『不識庵謙信の影』目当てに購入。
上杉景勝が主役の本はあまり無いと思うのですが、彼が無口になった状況が伺えて面白い(史実で景勝は話さず笑わずだったらしい)。
トップに立ち続けなくちゃならないのって切ないね!
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短編三本からなる一冊。その一つが景勝様が主役という、本当にとてつもなく珍しい作品です。それを目当てで買ったのですが損はしません!
読んでいての壮快さは全く有りませんが、景勝の心の変化が渦巻くように流れるように描かれていて、読んでいて凄く引き込まれました。しかし、直江との殴り合い噛み付き合いがある作品なんてこれだけではなかろうか…(笑)
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収録の三編ともずずん…と低音で心に響く読後感。景勝の心を侵略していく陰鬱でど黒い渦巻きに巻き込まれそう。非情な与六に圧倒されました。この主従、怖くて萌ゆります。
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3本のお話が入っている中篇小説集。
3本すべてが面白い!!!
この先生の小説、すごく伏線を上手く引いて、心の動きの表現が巧みで、最後には、「うわぁ〜、そうくるか!?」と唸らずにはいられなかった。
以下、腐った女子の感想です。
『城井一族の殉節』
豊臣の家来、黒田官兵衛の謀略に陥り、九州の名門宇都宮家が滅ぶお話。
主人公の小鶴姫の兄・弥三郎が格好良い!!最期に「黒田の指図は受けぬ!」と叫んだシーンで、ハートを鷲掴みされました!!
父・兄・そして、姫。それぞれの最期が胸に沁みます。
『大友二階崩れ』
大友宗麟の若かれし頃のお話。
キリシタン大名のイメージと、大砲『国崩し』のイメージしかなかった宗麟に、こんな過去があったのだと驚きました!
父が若い女に溺れていく様を目の当たりにしつつ、それでも嫡子として政務を全うしつづける五郎(宗麟)の姿が悲壮でした。そんな中でも、「父を信じたい」「嫡子としての自分の存在だけでも必要とされたい」という想いを父に寄せていたのに……、『廃嫡』という父親の裏切りには、正直、読んでいて私の方が腹が立ちました。
しかも、その所為で、五郎をもっとも慕っている、田口という近習を失うのですよ!!!田口が可哀想すぎるぅ!!!
なんだかこの小説を読んで、宗麟がキリシタンになった、底の心境みたいなのを感じました。
『不識庵謙信の影』
このお話を読みたいが為に買ったようなもんなんですが、読んでいる間中、顔がニヤけて電車では読めませんでした。
景勝様、可愛いすぎますよvvv三郎派にいじめられるわ、戦いが始まれば大泣きするわ、与六は怖いし、謙信は憎い、どうしようもない状況で追い詰められていく精神状態で、蝕まれていく心の様子が描かれていました。ホント、この先生、巧い!!
登場早々に、猿に里芋あげながら景勝様は上機嫌で笑っているし、可愛いったらありません!!しかも、その姿を与六(兼続)に見咎められ「若、その妙な籠(里芋が入った籠)を捨て、お召し替えをなさいませ」とか言われちゃうし(笑)。
この小説の二人の関係は萌えました。だって、与六、ドS発言を連発しますもん。
内容的には、御館の乱を軸に、上条政繁VS樋口与六が景勝をどう操るか…みたいな話になっていた。
政繁(謙信の三人の養子の一人)は景勝を己の思うままに操れるお人形さんにしたいようでしたが、与六がそれを阻止してましたね。
物語が進むにつれて、景勝様の心が壊れていくのですが、今まで言いなりになっていただけだった景勝が、初めて与六に反抗した場面では、指を噛み、顎に頭突きを喰らわせ、首を絞めるという抵抗をみせていました。しかもそんな姿の景勝に与六がめっちゃ嬉んでいたのに笑った(精神的ドSで、肉体的にはMなのか?)。
とにかく、景勝様の気持ちが心が壊れていく様が恐ろしく巧く書いてあった。
もう少し、三郎の気持ちが描かれていれば、なんだか対比できて面白いんじゃないかなぁ〜と思うのですが、それをしたら、話が飛びすぎちゃうからダメですよねぇ。番外編で、三郎の気持ち、政繁の気持ち、与六の���持ちを書いてくれたら嬉しいかも。
ホント、面白かったぁ〜。
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とりあえず書店でなかなか見つからないので友人に「不識庵謙信の影」を読ませてもらったんですが…。
なんとまぁ後味の悪い…。
なんか主従が殴りあい噛み付きあいの喧嘩をするという噂を聞いてちょっと期待しすぎたようです。
想像と全然違ったわ。
この主従が後に語られるような良好な関係になるとは想像できない。
一分の隙もないパーフェクト主従にはなりそうだけどね。
最後の猿のくだりが切ない。
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黒田家に誅殺された宇都宮一族の反乱、大友二階崩れ、上杉家の御館の乱を描いた計3作の短編集。どれも反乱へと繋がっていく過程が丁寧に描かれております。僅かな心のズレであったり、小さな歪みであったりが徐々に広がっていく、ジワジワと進む感覚に先が気になってどんどん読み進めました。どれもどこかやり切れない結末なのですが、それすらも作品を際立たせているようです。一読の価値はあるかと思いますので是非。個人的には「大友二階崩れ」がオススメ。あとは皮肉な直江が素直な直江になるのが個人的には微笑ましかったです。
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どの作品も、読後感の重さが半端ない。
暗いけども目が離せない。
殴りあう景勝・兼続主従が見られるのはこの本だけ!
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とりあえず上杉目当てで買ったので上杉カテゴリに。
黒田の謀略で滅ぶ宇都宮家を描いた『城井一族の殉節』、大友家の後継者争いを描いた『大友二階崩れ』、上杉の御館の乱を描いた『不識庵謙信の影』の三本。
どれも重く読後感といえば苦いものが残るばかりですが、だがそれがいい。
景勝の覚醒っぷりがすさまじい。乱のはしょりかたがちょっと気になったけどそれを補って余りある独特の世界観と今までにあまりないキャラ付けが光ります。おすすめ。
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どの話も面白い。
上杉目的で買ったのですが、冒頭の猿にエサをあげる景勝公が可愛い。猿と別れる場面には大泣きしました。
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戦国時代の上杉、大友のお家騒動、九州名家の滅亡を描く短編集。渋いけど不思議と引き込まれる作品ばかり。歴史小説好きにはオススメ。
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黒田官兵衛&息子が謀略的な意味で大暴れの第一話。これはむごい。
大友宗麟の若い頃の苦い思い出な第二話。このあと五郎御曹司どうなってしまうん…
愛の人が大変よい性格な第三話。御館の変での景勝の変貌がいたわしい。
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城井一族の殉節では400年守り続けた所領を絶対的権力者秀吉とその軍師官兵衛に謀略によって奪われるが当主鎮房はじめ一族が武士としての最後の誇りを魅せる。大友二階崩れでは父義鑑と子の義鎮との確執を描き唯一信じていた嫡子としての存在が崩れた時父子の関係を超え戦国武将へと変貌する。不識庵謙信の影では不慮の病で亡くなった謙信。養子の景勝は実父を謙信に殺されたと憎しみながら生きてきたが自分の意思とは関係無く権力争いに巻き込まれライバル達を葬り去ると同時に謙信が当主として向き合っていた景色を見る事で当主の覚悟を知る。