紙の本
宮部ファンならずとも心を癒される「日暮らし」の人情世界ではあるが………
2005/05/24 00:52
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
毎日、毎日を平穏に平凡につつがなく生きていくこと、それ以上のことは望まない人たちがそのご近所にはたくさんいる。周囲と調和することで最も安らぎを得られるタイプ。町方役人・平四郎とその女房、平四郎の甥で藍玉問屋河合屋の五男坊・弓之助13歳、世話好きな煮売屋・お徳、植木職人・佐吉夫婦、本所元町に住む岡っ引き・政五郎、その子分で13歳のおでこなどなど。そこではこれらやさしさにあふれた人たちが助け合いながらおまんまを食っている。市井の片隅にこぢんまりとした、あったかい人情に包まれた日常がそこにある。
「 でもそうはいかねえんだよなぁ。一日、一日、積み上げるように。てめえで進んでいかないと。おまんまをいただいてさ。みんなそうやって日暮らしだ」
題名の「日暮らし」とはどうやらここにある意味のようだ。
現代を生きる多くの人にとって失われた、だから郷愁を抱く世界である。しかも60歳を超えたものたちにとって先日まで身近にあった世界でもある。
「 それ(日暮らし)はとても易しいことのはずなのに、ときどき間違いが起こるのはなぜだろう」
「自分で積んだものを、自分で崩したくなるのは何故だろう。崩したものを元通りにしたくて悪あがきするのは何故だろう」
なにか徳の高いお坊さんの説教を聞くような気がする。
「それはな、人生とはそもそも苦であるとお釈迦様がおっしゃられておられることでな。
親・兄弟・妻子、愛するものと別れる苦しみ。
怨み憎むものと会う苦しみ。
求めるものを得られない苦しみ」
ってなもんで、わかりやすい、心にしみるお話が始まる。
いくつかの事件がおこるが、多くの騒ぎは親と子の愛情のもつれが原因になっている。子を思う親の真心、親を慕う子の哀れさ、実子との別離、妾腹の子を育てる母の苦悩、子供に恵まれない夫婦の願望。
私らが小さかったころに「母もの」と呼ばれる映画があった。三益愛子が主演であった。「母のない子と、子のない母」「娘・妻・母」「母ふたり」とかタイトルだけでその悲しい話の組み立てがわかるというものだが、私を含め観客の大勢が目を泣き腫らしていたものだ。
それにこれもまた古く日本的に湿っぽい、男と女の愛憎・嫉妬あるいは真情が複雑に絡む。
『日暮らし』はこれだから、時代を超えて涙を誘うはずのテーマといえよう。
人はやさしさから嘘をつくことがある。あるいは思いやりから本当のことを教えない場合がある。真実を述べるつもりが言葉にすることが下手で相手に伝わらない場合だってある。もともと真実なんてありゃぁしない、なんてことだってある。それを解きほぐすのであるからこの人情噺の短編集はミステリーとされるようだが、正直申し上げて犯人当てのミステリーとしては無理がありすぎる。
私は宮部みゆきの「時代小説」を始めて読んだのだが、これは時代小説なのだろうか。食い物、着ているもの、住まいは江戸時代のものなのだが、事件そのものは江戸という時代性や江戸という地域性には関連性がない。パズル型謎解きであるならそれでもいいが、人間を書いていて、その時代性が感じられないという違和感が残った。
宮部はそこにあっていいはずの政治、経済という枠組みをあえて捨象して、抽象的な「日暮らしの人情世界」をこしらえたようである。喜怒哀楽の「怒」を失った「長いものにはまかれろ」を地でいく人たちの世界である。
現代に潜む魔物をえぐりだした『火車』『理由』『模倣犯』の傑作を時代小説にも期待していたものからすればいささか肩透かしであった。
ただ、百鬼夜行の今日であるから、このありふれた日常性の賛歌に癒されるところがあるのだろう。海外旅行へいって「やはりお茶漬けがうまい」と感じるようなものなのかもしれない。
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宮部みゆきの時代小説は、時代考証がしっかりとされていて、リアリティのある人々の生活描写がすごく面白いです。「ぼんくら」の続編のこの本、期待度120%。出版が待ち遠しい一冊。早く読みたい!
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宮部さんの時代物は、本当におもしろい。中でも、前作「ぼんくら」の続編である今作は、それぞれのキャラクターが愛すべき人物像に描かれていて、読み終わるのがもったいない気分でした。
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「ぼんくら」の続編。臨時廻りの同心井筒平四郎と甥の美少年弓之介を中心におなじみの面々が再び活躍する。市井の哀感をにじませながら、じんわりと暖かい読後感を感じさせる作品であり、宮部みゆきの真骨頂といえる。著者は、時代、現代、SF、ファンタジーと何でもこいの人だが、作風的には時代ものが一番あっているのではないかという気がする。前作は主要人物のキャラ立てが周囲の人物に比べて少し弱いかなという印象があったのだが、「継続は力なり」ということかもしれないが、本作ではそのような不満を感じなかった。短編と中篇を連ねていき、全体として一つの大きな物語を構成するという仕立ては前作の「ぼんくら」と同様。本作は前作との関係性が非常に強いので「ぼんくら」を先に読むのが必須。
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うーん…面白いのだろうが、「この人上手いからなぁ」ってのが正直な感想。そのくらい。ブログに長い感想文があります。
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あちこちに、置き去りにされるのかと思うような罠や仕掛けが、きっちりまとまって一気に流れていくさまは、いつ読んでも爽快。
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表紙帯より『宮部みゆきは「進化」する。本当のことなんて、どこにあるんだよ?江戸町民のまっとうな日暮らしを翻弄する、大店の「お家の事情」。ぼんくら同心・井筒平四郎と、超美形少年・弓之助が、「封印された因縁」を、いよいよ解きほぐす。まさに格別の味わい。『ぼんくら』に続く、待望の下町時代小説!』
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ぼんくらの続編。
忘れ掛けていたからぼんくらを再読したけど、しなくてもよかったのかも。
井筒平四郎と甥っ子弓の助のかけあいもよいし、鉄瓶長屋の人間達のその後がどんどん意外な展開ですごく面白い。
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『ぼんくら(上下)』の続編。
なんと、井筒の旦那と湊屋との因縁は、ちっとも切れちゃあいなかったんだ(お徳ふうに書いてみた)。
にしても宮部さんの凄いトコは、この騒動の、おおもとである人物をいともあっさり殺してしまうところだ。
読んでいて思わず
「えぇぇーーーっ?!」
と声をあげてしまった。
いやぁ、剛毅なお方だよ(またもお徳さんふう)。
あまりにも、この2作品のキャラたちに馴染んでしまったので、更に続編も読みたい気がするけど、もうエピソードは無いわいね。
こちらも上下、読んでくだされ。
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宮部みゆきは江戸モノのほうが好きで、そっちばかり読んでいるんだなあ。現代モノも読んでみたほうがいいかな?
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上下とあり、上巻は、ぼんくらの事件の後、ぼんくらに出ていた人たちはどうなったのか。ということが書いてあり、後半は、佐吉の母親の葵が殺されたところから始まります。
こちらも、読むと止まりません。
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「ぼんくら」の続編。
いやはや、面白かった。
ぶっちゃけ「ぼんくら」の内容とかすっかり忘れてたんですが、それでも全然問題なしに読めました。
殺人事件の謎解きやら犯人やらはこの際どうでも良くって、江戸の下町に住む人たちの日常を見るのが凄く楽しくって。
どの登場人物にもそれぞれ個性や想いや日常があって、読む側としてはそれを見守るような気持ちになってくるというか。
久しく忘れていた「何か」を思い出させてくれたような気がします。
今の時代には、誰かの生活や人生に他者が介入する事ってあまり無いと思うんですよね。
でも昔は、身近に困っている人がいたり、事件があったりすると必ず周りの人たちが首を突っ込んできたりする。
それがおせっかいであるにせよ、そうやって人と人が声を掛け合ったりする事って凄く大事なんじゃないかな、と思います。
夫婦関係や親子関係に問題が起こった時、解決する糸口を教えてくれるのはやっぱり「人」であって、本でもインターネットでも無い。
最近起きている暗い事件の背景の一つには、昔あった「人と人」とのやりとりが減った事にあるのかもしれないなぁ、なんて、ありきたりだけど思いました。
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さァさ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい、鉄瓶長屋で大活躍の面々の登場だぃ。木戸銭がたけぇ、そんな野暮なことは言いこなしだよ、江戸っ子だろう。なかにゃ、お上に追われた幻術一座も現れるてぇ寸法だぃ。
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図書館で見つけて借りたんで、これの前作の『ぼんくら』読んでないんですが、それでも面白かったです。おでこ&弓之助コンビが可愛い!!
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「ぼんくら」続編で2年くらい後の話。
下町で起こった種々の事件から人の心の闇まで迫る構成が今回も見事です。
鼻毛を抜き抜き町を巡回するぼんくら同心の井筒平四郎、美少年の弓之助、目明しの政五郎などは健在です。
鉄瓶長屋に関わりある人々のその後の話といった調子の短編で始まり、徐々に謎の人・葵の身辺に焦点が集まる感じ。最後の長編「日暮らし」に至り、単なる後日談では収まらない急展開をみせます。
遂に「ぼんくら」で封印したはずの秘密がすべて明らかになるのか。上巻では何も明らかにならず、じれったいまま下巻に持ち越しです。
一応、コレ単体でも楽しめるとは思いますが、「ぼんくら」を読んでからの方が数倍おもしろいと思います。後半どうしても随所に以前の事件が顔を出すので、読んどかないと複雑な事情について行けなくなる恐れあり。