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みんなのレビュー94件

みんなの評価4.3

評価内訳

高い評価の役に立ったレビュー

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2005/07/01 11:58

ほっと和む時代小説

投稿者:紫月 - この投稿者のレビュー一覧を見る

『ぼんくら』の続編に当たります本書は町方役人の平四郎、平四郎の甥で超美形の弓乃助が活躍する人情捕り物帳です。
前作に引き続き、二人の他にも主だった登場人物が勢ぞろいするのがファンには嬉しいところ。
湊屋の内輪のごたごたが本書でも尾を引いているので、ぜひとも『ぼんくら』を読んでから本書を読むことをお勧めします。
宮部みゆきさんが描くキャラクターにはとりわけ暖かな人柄が多く、主人公から脇役にいたるまで、彼らのセリフの一つ一つが彼らの深みを感じさせて、読書に浸る喜びを感じさせてくれます。
また、個性豊かに書き分けられたキャラクターにはそれぞれファンも多いのではないでしょうか。
私は葵が好きです。
本書の中では数少ないクセのある人物ですが、けして少なくない数の人間を不幸にしているにも関わらず、とても魅力的な女性です。
あと、主人公の平四郎と弓乃助はもちろん、おでこと呼ばれる異常なほどに記憶に長けた純朴な少年、きっぷのいい煮物屋のお徳、お人よしの佐吉など、魅力溢れる登場人物は数え上げれば両手の指では足りないほど。
彼らの個性を一つずつ楽しむのも、一つの読み方でしょう。
物、情報が溢れる慌ただしい現代に身をおいていると、ゆったりとした時間の流れを感じさせる時代物には、どこかしらほっとさせてくれるものがあります。
それでも。
——一日、一日、積み上げるように。
てめえで進んでいかないと。
——積み上げてゆくだけなんだから、それはとても易しいことのはずなのに、ときどき、間違いが起こるのは何故だろう。
自分で積んだものを、自分で崩したくなるのは何故だろう。
崩したものを、元通りにしたくて悪あがきするのは何故だろう——
平四郎の自問は、そのまま現代の私たちにも当てはまります。
人はいつの時代も、物語の中でも現実の世界でも、結局は同じようなことを考え、悩み、生きているのかもしれません。
帯にあるキャッチフレーズそのまま、『読み終えるのがもったいない』くらい楽しめる下町時代小説です。

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低い評価の役に立ったレビュー

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2005/05/24 00:52

宮部ファンならずとも心を癒される「日暮らし」の人情世界ではあるが………

投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

毎日、毎日を平穏に平凡につつがなく生きていくこと、それ以上のことは望まない人たちがそのご近所にはたくさんいる。周囲と調和することで最も安らぎを得られるタイプ。町方役人・平四郎とその女房、平四郎の甥で藍玉問屋河合屋の五男坊・弓之助13歳、世話好きな煮売屋・お徳、植木職人・佐吉夫婦、本所元町に住む岡っ引き・政五郎、その子分で13歳のおでこなどなど。そこではこれらやさしさにあふれた人たちが助け合いながらおまんまを食っている。市井の片隅にこぢんまりとした、あったかい人情に包まれた日常がそこにある。
「 でもそうはいかねえんだよなぁ。一日、一日、積み上げるように。てめえで進んでいかないと。おまんまをいただいてさ。みんなそうやって日暮らしだ」
題名の「日暮らし」とはどうやらここにある意味のようだ。
現代を生きる多くの人にとって失われた、だから郷愁を抱く世界である。しかも60歳を超えたものたちにとって先日まで身近にあった世界でもある。
「 それ(日暮らし)はとても易しいことのはずなのに、ときどき間違いが起こるのはなぜだろう」
「自分で積んだものを、自分で崩したくなるのは何故だろう。崩したものを元通りにしたくて悪あがきするのは何故だろう」
なにか徳の高いお坊さんの説教を聞くような気がする。
「それはな、人生とはそもそも苦であるとお釈迦様がおっしゃられておられることでな。
親・兄弟・妻子、愛するものと別れる苦しみ。
怨み憎むものと会う苦しみ。
求めるものを得られない苦しみ」
ってなもんで、わかりやすい、心にしみるお話が始まる。
いくつかの事件がおこるが、多くの騒ぎは親と子の愛情のもつれが原因になっている。子を思う親の真心、親を慕う子の哀れさ、実子との別離、妾腹の子を育てる母の苦悩、子供に恵まれない夫婦の願望。
私らが小さかったころに「母もの」と呼ばれる映画があった。三益愛子が主演であった。「母のない子と、子のない母」「娘・妻・母」「母ふたり」とかタイトルだけでその悲しい話の組み立てがわかるというものだが、私を含め観客の大勢が目を泣き腫らしていたものだ。
それにこれもまた古く日本的に湿っぽい、男と女の愛憎・嫉妬あるいは真情が複雑に絡む。
『日暮らし』はこれだから、時代を超えて涙を誘うはずのテーマといえよう。
人はやさしさから嘘をつくことがある。あるいは思いやりから本当のことを教えない場合がある。真実を述べるつもりが言葉にすることが下手で相手に伝わらない場合だってある。もともと真実なんてありゃぁしない、なんてことだってある。それを解きほぐすのであるからこの人情噺の短編集はミステリーとされるようだが、正直申し上げて犯人当てのミステリーとしては無理がありすぎる。
私は宮部みゆきの「時代小説」を始めて読んだのだが、これは時代小説なのだろうか。食い物、着ているもの、住まいは江戸時代のものなのだが、事件そのものは江戸という時代性や江戸という地域性には関連性がない。パズル型謎解きであるならそれでもいいが、人間を書いていて、その時代性が感じられないという違和感が残った。
宮部はそこにあっていいはずの政治、経済という枠組みをあえて捨象して、抽象的な「日暮らしの人情世界」をこしらえたようである。喜怒哀楽の「怒」を失った「長いものにはまかれろ」を地でいく人たちの世界である。
現代に潜む魔物をえぐりだした『火車』『理由』『模倣犯』の傑作を時代小説にも期待していたものからすればいささか肩透かしであった。
ただ、百鬼夜行の今日であるから、このありふれた日常性の賛歌に癒されるところがあるのだろう。海外旅行へいって「やはりお茶漬けがうまい」と感じるようなものなのかもしれない。

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94 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

ほっと和む時代小説

2005/07/01 11:58

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:紫月 - この投稿者のレビュー一覧を見る

『ぼんくら』の続編に当たります本書は町方役人の平四郎、平四郎の甥で超美形の弓乃助が活躍する人情捕り物帳です。
前作に引き続き、二人の他にも主だった登場人物が勢ぞろいするのがファンには嬉しいところ。
湊屋の内輪のごたごたが本書でも尾を引いているので、ぜひとも『ぼんくら』を読んでから本書を読むことをお勧めします。
宮部みゆきさんが描くキャラクターにはとりわけ暖かな人柄が多く、主人公から脇役にいたるまで、彼らのセリフの一つ一つが彼らの深みを感じさせて、読書に浸る喜びを感じさせてくれます。
また、個性豊かに書き分けられたキャラクターにはそれぞれファンも多いのではないでしょうか。
私は葵が好きです。
本書の中では数少ないクセのある人物ですが、けして少なくない数の人間を不幸にしているにも関わらず、とても魅力的な女性です。
あと、主人公の平四郎と弓乃助はもちろん、おでこと呼ばれる異常なほどに記憶に長けた純朴な少年、きっぷのいい煮物屋のお徳、お人よしの佐吉など、魅力溢れる登場人物は数え上げれば両手の指では足りないほど。
彼らの個性を一つずつ楽しむのも、一つの読み方でしょう。
物、情報が溢れる慌ただしい現代に身をおいていると、ゆったりとした時間の流れを感じさせる時代物には、どこかしらほっとさせてくれるものがあります。
それでも。
——一日、一日、積み上げるように。
てめえで進んでいかないと。
——積み上げてゆくだけなんだから、それはとても易しいことのはずなのに、ときどき、間違いが起こるのは何故だろう。
自分で積んだものを、自分で崩したくなるのは何故だろう。
崩したものを、元通りにしたくて悪あがきするのは何故だろう——
平四郎の自問は、そのまま現代の私たちにも当てはまります。
人はいつの時代も、物語の中でも現実の世界でも、結局は同じようなことを考え、悩み、生きているのかもしれません。
帯にあるキャッチフレーズそのまま、『読み終えるのがもったいない』くらい楽しめる下町時代小説です。

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紙の本

宮部みゆきは時代小説がいい、そういう人は多い。その切り札が、これ。弓之助と三太郎が手を繋いで走る姿の懐かしいこと

2005/02/20 21:46

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

いや、困るのである。これほどに楽しい本が年末(奥付では2005年の出版)に出てしまう。読者は、これを2004年のベストに上げるのか、それとも早々と2005年のナンバー1にするのか、どうでもいいけれど楽しい悩みで頭を抱えることになる。この本の前段にあたる『ぼんくら』も、文句なし、ぶっちぎりの傑作だったけれど、その続編だって比較し様もない大本塁打というのだから恐れ入る。装画・題字は村上豊、装幀は緒方修一。村上の絵の魅力も凄い。

登場するのは前作『ぼんくら』に出てきた人たち。といっても私は二人の少年以外は殆ど忘れていたので書いておくと、まず町方役人の井筒平四郎がいる。美人の細君がいる。二人には養子にしたいと思っている少年がいて、それが平四郎の甥で佐賀町の藍玉問屋河合屋の五男坊、13歳の弓之助である。ケチのつけようのないべらぼうな美形である。正直、この少年のことを書き始めると筆が止まらなくなる。我慢、ガマン。

そして、本所元町に住む岡っ引きの政五郎がいる。そして彼の家には、あの可愛い「おでこ」、額が異様に広い、そして異様に物覚えがいい13歳になる三太郎がいる。これまた別の意味で可愛くてしょうがない子供である。弓之助と三太郎、それから豆腐小僧に小鳥遊練無、ルートの5人というか4人と一匹というか、彼らがいれば人類滅びてもいい、と私は思う。

それから「植半」の職人で嫁をもらったばかりの佐吉がいて、彼にぞっこんの恋女房で短気なお恵がいる。最愛の夫・新吉を失い子供二人を抱え途方にくれるお六と、彼女に魔の手を伸ばそうとする悪魔・孫八がいる。それから、煮売屋を営む、世話好きな、男勝りの切符のよさが心地よいお徳がいる。

平四郎付きの中間で「連日お天道さまに照らされすぎて頭に少しばかり す が入り、裏庭で、地べたに落ちる自分の影に入って涼もうと試み」ている、ときどき「うへい」などといった合いの手を入れる変な奴もいる(これって、落語の「あたまやま」ですな)。いやいや、書き始めたら二少年だけではない、定町廻り同心の佐伯錠之介も懐が深くて、大物である。愛しくて懐かしくて思わずそばに擦り寄っていきたくなる市井の人々のオンパレードなのだ。

でだ、読者の誰もが気づくようなことを敢えて書いてしまおう。私はこの本を読んだあとですぐに長女に廻した。今は次女が読書の最中である。で、長女と私が同時に叫んだのだ、「ね、ぼんくらって、豆腐小僧だよね(京極夏彦『豆腐小僧双六道中ふりだし』)」「あの弓之助と手を取り合って町を走っていく姿が、可愛いよね」。例えばラストのほうで、三太郎が泣き止まないおはつを宥めるために、奇妙な踊りをする場面がある。これだって、娘と「いいよね、あそこ」と。まさに豆腐小僧。「それから、あの三代目白蓮斎貞洲って、おぎんじゃない?(京極夏彦『巷説百物語』)」ということになる。

「要するに、宮部と京極は同じ事務所(大極宮)所属なわけだし、たとえば宮部の『ぼんくら』読んで、夏彦様が「あれ、俺に貸してよ」「分かったわ、その代りといってはなんだけど、又一とおぎんさんを使わしてくれる?ね、いいでしょ」てなことだってあるわけで」などという発想は、母親が言わない限り娘には思いつきもしない。無論、即理解はするけれどね。

それにしても上手くまとめるものだ。一見解決したかに思える話が、最後で綺麗に繋がる。そして、愛すべき人々がいる。これで文句をいったら罰が当たるだろう。『ぼんくら』とともに、時代ミステリの頂点にある作品といって間違いない。最後に、もう一つ娘と意見が同じだったのが「やっぱり宮部は時代ものがいいよね、ファンタジーは明らかに失敗。だって、こんなに素晴らしい人間が出てこないもの」ということ。そう、江戸の空には夢がある。

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紙の本

何とも心が騒ぐ、あったかい物語でした。

2004/12/30 17:26

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:風(kaze) - この投稿者のレビュー一覧を見る

 鉄瓶長屋を舞台にした前作『ぼんくら』の事件から一年が経った頃、井筒平四郎と彼を取り巻く人たちの前に、再び新たな事件が持ち上がります。先の「鉄瓶長屋」事件の火種は消えておらず、今回は大火事が起きたとでもいった風に話が繋がっているので、ぜひぜひ、『ぼんくら』を読んだ後に本書に向かうことをお薦めいたします。

 前作同様、この『日暮らし』でも、初めにいくつかエピソード的な話が置かれた後に本編に進むという構成になっています。料理に喩えれば、いくつか前菜が出た後にメイン・ディッシュが供され、最後にデザートで締め括られると、そんな具合に話が展開して行く。「おまんま」「嫌いの虫」「子盗り鬼」「なけなし三昧」が話の“一の膳”とすれば、上下巻にまたがる「日暮らし」が“本膳”、おしまいの「鬼は外、福は内」が“二の膳”になっていると、こんな風に言っても良いかと思います。
 それで、最初の四つの話に登場する人物と事件が、本編に入って寄り合わされ、織り上げられて行くんですね。登場人物と彼らのエピソード風の話が、一枚の美しい衣装の中に織り込まれて行く。それぞれの話の生かし方、登場人物の動かし方が、もう惚れ惚れしてしまうくらい絶妙でした。特に本編の後半から終盤へと話が進むに従って、「ここにあの時の話が繋がってくるのか」「ここであの場面が生きてくるのか」と、何度も膝を叩きたくなりました。

 ざっかけない、さばけた人柄の井筒平四郎。思わず見惚れてしまうくらいに美形の少年で、かつ非常に聡明でもある弓之助。“人間コピー機”とでも呼びたくなる程、記憶力のいいおでこ。面倒見が良く、しゃきしゃきした煮売屋のおかみさんのお徳。彼らを始め、登場人物のキャラクターが実に生き生きと描き出されているので、自然、親しみを覚えてくるんですよね。
 また、彼らに注がれる作者の眼差しがあたたかく、そして厳しくもあったところ。そこにも共感させられました。とりわけ、登場人物それぞれの胸の奥に潜み、彼らを苦しめる“心のざわめき”を描写する件りでは、読んでいるこちらの胸の中もざわざわと騒いだり、ぐっと胸を衝かれたりしました。

 本書単行本の下巻の帯に、>と記されています。これ、ラストの「鬼は外、福は内」の一章を読んでいて、しみじみと感じましたねぇ。「ああ、あともうちょっとで終わっちまう」と思うと、なんか本当に惜しい気がして、ゆっくり、味わうようにして、このラストを読んでいきました。そうして最後の頁を閉じて、「ああ、いいものを読んだなあ」と、胸の中がほっこりふくらみました。

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紙の本

葵さんが優しそうで良かった

2016/05/10 11:48

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:maki - この投稿者のレビュー一覧を見る

ぼんくらに続き再読。
今回は、スピンオフ形式の短編週なのね~んなどと思っていたら
それはあくまでも序章であった(>_<)伏線であった ( ̄〇 ̄;)!
葵さんが、ぼんくらのラストに出てきたイメージとは全然違って
なんだか優しそうな人で嬉しかった。。。。
のに!?
さて、佐吉さん!?(@_@;) 再読なのに、結末覚えてない!?
ドキドキしながら下巻に続きます!

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紙の本

宮部ファンならずとも心を癒される「日暮らし」の人情世界ではあるが………

2005/05/24 00:52

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

毎日、毎日を平穏に平凡につつがなく生きていくこと、それ以上のことは望まない人たちがそのご近所にはたくさんいる。周囲と調和することで最も安らぎを得られるタイプ。町方役人・平四郎とその女房、平四郎の甥で藍玉問屋河合屋の五男坊・弓之助13歳、世話好きな煮売屋・お徳、植木職人・佐吉夫婦、本所元町に住む岡っ引き・政五郎、その子分で13歳のおでこなどなど。そこではこれらやさしさにあふれた人たちが助け合いながらおまんまを食っている。市井の片隅にこぢんまりとした、あったかい人情に包まれた日常がそこにある。
「 でもそうはいかねえんだよなぁ。一日、一日、積み上げるように。てめえで進んでいかないと。おまんまをいただいてさ。みんなそうやって日暮らしだ」
題名の「日暮らし」とはどうやらここにある意味のようだ。
現代を生きる多くの人にとって失われた、だから郷愁を抱く世界である。しかも60歳を超えたものたちにとって先日まで身近にあった世界でもある。
「 それ(日暮らし)はとても易しいことのはずなのに、ときどき間違いが起こるのはなぜだろう」
「自分で積んだものを、自分で崩したくなるのは何故だろう。崩したものを元通りにしたくて悪あがきするのは何故だろう」
なにか徳の高いお坊さんの説教を聞くような気がする。
「それはな、人生とはそもそも苦であるとお釈迦様がおっしゃられておられることでな。
親・兄弟・妻子、愛するものと別れる苦しみ。
怨み憎むものと会う苦しみ。
求めるものを得られない苦しみ」
ってなもんで、わかりやすい、心にしみるお話が始まる。
いくつかの事件がおこるが、多くの騒ぎは親と子の愛情のもつれが原因になっている。子を思う親の真心、親を慕う子の哀れさ、実子との別離、妾腹の子を育てる母の苦悩、子供に恵まれない夫婦の願望。
私らが小さかったころに「母もの」と呼ばれる映画があった。三益愛子が主演であった。「母のない子と、子のない母」「娘・妻・母」「母ふたり」とかタイトルだけでその悲しい話の組み立てがわかるというものだが、私を含め観客の大勢が目を泣き腫らしていたものだ。
それにこれもまた古く日本的に湿っぽい、男と女の愛憎・嫉妬あるいは真情が複雑に絡む。
『日暮らし』はこれだから、時代を超えて涙を誘うはずのテーマといえよう。
人はやさしさから嘘をつくことがある。あるいは思いやりから本当のことを教えない場合がある。真実を述べるつもりが言葉にすることが下手で相手に伝わらない場合だってある。もともと真実なんてありゃぁしない、なんてことだってある。それを解きほぐすのであるからこの人情噺の短編集はミステリーとされるようだが、正直申し上げて犯人当てのミステリーとしては無理がありすぎる。
私は宮部みゆきの「時代小説」を始めて読んだのだが、これは時代小説なのだろうか。食い物、着ているもの、住まいは江戸時代のものなのだが、事件そのものは江戸という時代性や江戸という地域性には関連性がない。パズル型謎解きであるならそれでもいいが、人間を書いていて、その時代性が感じられないという違和感が残った。
宮部はそこにあっていいはずの政治、経済という枠組みをあえて捨象して、抽象的な「日暮らしの人情世界」をこしらえたようである。喜怒哀楽の「怒」を失った「長いものにはまかれろ」を地でいく人たちの世界である。
現代に潜む魔物をえぐりだした『火車』『理由』『模倣犯』の傑作を時代小説にも期待していたものからすればいささか肩透かしであった。
ただ、百鬼夜行の今日であるから、このありふれた日常性の賛歌に癒されるところがあるのだろう。海外旅行へいって「やはりお茶漬けがうまい」と感じるようなものなのかもしれない。

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2004/12/08 14:25

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2005/01/19 19:29

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2005/02/06 06:00

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2005/06/03 22:25

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2005/06/11 23:49

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2005/09/07 14:05

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2005/09/14 14:02

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2005/09/18 15:25

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2005/10/20 12:45

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2005/10/30 15:12

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