紙の本
精神医学専門家以外には読みにくく、不適当
2007/05/20 13:30
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:この病気を知りたい一般人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
精神科の専門家や学生には分かりやすい内容かもしれないが、一般人が統合失調症や精神分裂病に対する理解を深めようという目的で読むには全く適していない。本書は講義録であるため、文章が会話調・口語調(余計なことも入っている)で非常に読みにくく、話が飛んだり、読み手(この場合は講義の聴講者)が分かっていることが前提で内容が話されるため、予備知識がない一般人には何のことだか分からない。また、著者が英語の専門用語をカタカナにしたものを乱用するため、英語が分からない一般人の理解は完全に不可能である(小生は米国在住なため英語に問題はなく、そのおかげでカタカタ語に相当する英語が分かるが、それでもカタカナはキツイ)。省略語や内容の省略(分かって講義を聴いているものと著者は思って話している講義録であるため)が本書全般にわたっているため、読み終わった後も全く理解が深まっていない。ちょっとした症例のエピソードを読んだだけである。「養老氏や野村氏が絶賛」とあるが、医学会で有名な著者に(どういう理由かは不明だが)賛同しただけであろう。一般人ならば、『統合失調症がわかる本』がお勧めだ。こちらはまさに、入門的内容から専門的内容まで網羅されており、A to Zという感じで役に立つ。
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これまで病気に関する本は結構読んで来たつもりですが,この本は久々にワクワクしながら読みました。「ワクワク」したのは,自分が病気について考えていたことについて,腑に落ちない感じがしていたことが解明されたからですし,新しい見方について知ることができたからです。
統合失調症という病気は健康だと思っている私たちのものの見方や他者との関係の取り方などと深い関係があり,自分の精神的安定性を得るために行っていることとの連続性のなかに病理があるのだということを再確認できたからです。
統合失調症の患者さんは意味不明で了解不能であるという考え方ではなく,当事者を理解するための考え方が多く紹介されています。
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千葉県精神科医療センターで行われた連続講義をまとめた書籍。講義で喋ったことをそのまま文章にしているため口語体であり、それゆえ読みやすい素人向けのような印象を受けるが、内容は医療関係者を対象にした講義録であって決して大衆向け解説書ではない。平易な文体に騙されて漫然と読んでいると何を言っているのか全く理解できず、同じ場所を何度も読み直すことがしばしばあった。
かつて「精神分裂病」と呼ばれていた病気は最近「統合失調症」という新しい名前に変わったが、著者は必ずしもこの言い換えに賛成ではないようだ。と言っても単なる言葉狩りへの反発ではない。
そもそも「分裂」とか「統合」の対象は何なのか、「自我」とか「精神」の本質は何なのか、現在の精神医学は実はこれらの質問にちゃんと答えられるレベルではなく、しかも答えられないという事実をちゃんと説明していない。そんなありさまで分裂だの統合だのもっともらしく語るとはなにごとか、ということのようだ。
著者はこの講義のおよそ三ヵ月後に定年退職するまで、精神科の救急診療で約7300人の患者を診たという。精神科の救急がどんな世界か想像しづらいが、理論ではなく実践の最前線でこれほどの症例を相手にしてきた医者の言葉は力強く響いてくる。
心が脳に宿るものであるなら、脳の生化学的解明がやがて精神の解明となることが予想される。実際に現在、ハードウェア的な脳機能の解明は急速に進んでおり、ソフトウェア的な精神とか心の研究と繋がりつつある。しかし著者は当分これが実を結ぶことはないと考えている。なぜなら精神病は、何をもって正常と異常を区別するかさえ明確に定義できていない世界だからだ。
精神病は神秘ではなく「ただの病気」であるという著者の主張は明確に伝わってくるものの、他の分野に比べるとはるかに未解明な分野だということも絶望的なまでに感じられる。普通の人がこの本を読んでもどうにもならないかもしれないが、とりあえず誤った認識を捨てる役には立つのではなかろうか。
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病とはなにか、統合失調症とはなにかといった話から始まる。
独自の視点による著者のストレートなメッセージが印象的。
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内容が内容だからか、知識のある人でないと理解できない。口が悪くて既存の考えへの反論も多いので、人によって評価が分かれるだろうと思う。
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筆者の計見さんのことを、口が悪いけど優しくて、本当に頭のいいタフな知性を持った方だと感じた、現実に即した、とても面白い本だった。
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それは知情意ではなく、行動・運動を準備するという形で現実を作ってゆくための脳内の統合が可能でなくなる。これがひとつの答えで、泣く・笑う・抱きつく・吸うという始原からの発達が、エレガンスやエスプリを身にまとうまでにいたるグラデュエーションの最中で起こることどもは、靴下を履くという行為連合に象徴される。(無意識裡の0.5秒前、意識に進入しての0.2秒前、そこから行為の発動までの間にあるストップ・コントロール・ポイント。それが意志と呼ばれるものである?)
精神医学のベースラインから自我心理学、アフォーダンス、現象学といろいろ出るが、肝心なのは急性期医療の現場から、というリアルなのだろうが、ではリアルとは、それは「患者である」なのか?「患者がいる」なのか?
こんな問いは有効なのだろうか?
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日本初の精神科救急を作った著者による統合失調症論。
脳科学ー精神医学ー彼/彼女たちに一体何が起きていて何に困っているのか、というのが一つのラインでキレイにつながって見えて大変説得的。
行為を分解してその完遂を助ける、という発想は実際の援助にも大いに役立つ。
病気そのものは非連続的ながらも、個々の困り事は普通に経験される十分に了解可能な出来事だ、というのが印象的。
「行動を準備するという形で現実を作っていく」ということが出来なくなるのが統合失調症だ、というのが著者の見解だけれど、これ、切り口が違うだけで中井先生らと同じ事を捉えているように感じた。
本人が言う通り口調が強いので苦手な人は苦手かもしれないが、患者さんの事好きなんだろうなというのは伝わってきて悪い気にはならなかった。
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急性期精神病の診療に長年にわたりたずさわってきた著者が、精神分裂病あるいは統合失調症をめぐる精神医学の問題について論じた本です。
著者がおこなった講演がもとになっており、歯に衣を着せぬ著者の語り口で、既存の精神医学に対する批判が展開されており、おもしろく読みました。
アフォーダンス理論や現代の脳科学的アプローチなどにも言及されていますが、本書の基本的な構図は、精神医学の言説における権力分析といえるように思います。ただし、著者のこうした批判が、「臨床医の力量を決めるのがなによりも経験であることは、精神科と他科に違いはない。いかにたくさんの病人を診たかが、すべてに優先する」という点に依拠したものであることは、本書自体の言説のありようとして踏まえておくことは必要であるように思います。