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紙の本

その眼差しを見つめる眼差し。

2005/03/09 05:54

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ソネアキラ - この投稿者のレビュー一覧を見る

ヒッチコック本つーと、大判の『定本 映画術—ヒッチコック・トリュフォー』がもう定番中の定番で、トリュフォーのヒッチコックへの敬愛に満ちたインタビューは実に楽しいものだった。いまはもうどちらも鬼籍の人なのだが。

この本は、ジジェク以下ジジェク一派(フロイトーラカン主義者)からカイエ・ドゥ・シネマの執筆者までおのおのがヒッチコック映画の素晴らしさを批評している。ヒッチコックへのいわば小難しいラブレターのようなもの。

ほら、万年筆は男性器の象徴であるとか、そっから入って登場人物の設定、なぜ、かような人物をつくりあげたのか、ヒッチコックの精神世界にまで踏み込んで解釈を試みる。

彼の映画を見たことがある人なら、大概気がつくそこらへんを、例によって実に持って回った表現で書いている。

ええとこんなとこ。

「『裏窓』はパノプティコン(一望監視装置)のヒッチコック的表現であり、ベンサムおよびフーコーのヒッチコック的例証である」(『完全には死んでいない父親』ムラデン・ドラールより)

『サイコ』に関してジジェクは、こう記述している。

「怪物のいちばん怖いところは、それがつねにわれわれに注いでいる眼差しである。この眼差しがなかったら、怪物の欲動の盲目的な執拗さはその不気味さを失い、単なる機械的な力になってしまう」(『あの人の蔑むような眼差しの中に、私の破滅が書かれているのが見える』スラヴォイ・ジジェクより)

眼差し。私立探偵は、英語で「private eye」というけど、ヒッチコックの映画を見ているときの観客は、犯人の眼差しを目撃している眼差しである。

たぶんに映画のネタバレやがあるけども、ヒッチコックは、直接的な殺しのシーンは見せないで、間接的なもの、意外なものとのモンタージュで、死をイメージさせた。このカット割を最初に見たとき、驚いた。

それからユーモアがあってイキ。デ・パルマには、そこが欠落している。

めんどくさいんだけど、なれるとおいしいジジェクとクサヤの干物である。一昔前、ちょっと小利口ぶった若者が、蓮實重彦の文体に感化されたように。

翻訳が内田(樹)くんと鈴木(晶)くんの『大人は愉しい』のオジサンコンビなんで、いつものジジェクよりはわかりやすくなっている。

イギリス時代のヒッチコックの作品は、ほとんど見ていない。機会があれば、まとめて見てみたいなあ。

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