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遺失物管理所 みんなのレビュー

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みんなのレビュー25件

みんなの評価3.1

評価内訳

25 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

「北の町」を覆う独特の空気を匂い立たせながら、自分の手を通り過ぎていく「失くしたもの」「拾ったもの」「見つけたもの」について思いめぐらせるよう誘う、ふところ深い小説。

2005/02/23 11:09

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 この前に書かれた『アルネの遺品』も翻訳されている。物悲しい話で、静かに、しかし読後まで強く響きの残る良い小説だった。「遺品」につづき「遺失物」かと思い、カバーに付されたあらすじを読む。管理所に次から次へ物を失くした人が現れる。誰にもそれぞれのドラマがある…という展開の連作短篇風かとうっかり思わせられてしまうのだが、作者はそのような凡庸なものは用意していない。
 読むとすぐに人となりが透けてくるような分かりよい人物がいて、彼が体験した悲しい事件や不思議な出来事などを核に、起承転結を伴った物語が繰り広げられていく。読者のカタルシスは大きく、評判も集まりやすいだろう。だがしかし、小説は読み手の娯楽需要を満たすためだけに書かれるものではない。読み手が日常では見えないもの、知り得ないものに触れる手助けをするのに表現される場合も多い。2作だけ読んだところで、このレンツという作家は、その手助け部分のふところが深いのではないかと感じさせられた。

 原題である「フントビューロー」のfundは遺失物というより「発見」というポジティヴな意味がある。その語同様、逆境を転じさせていく軽めのノリは、赤字再建を至上課題とする鉄道会社の遺失物管理所に転属されてきたヘンリーの救いある資質でもある。
 鉄道会社における窓際とも取れるその部署で、彼は信じられない遺失物の数々や引き取り手たちとの交流を面白く感じ、業務に前向きに取り組む。数少ない同僚たち各々との関係も、若干ずつのしたたかさと繊細さを自分なりのバランス感覚ではかりながら結んでいく。
「遺失物」という思わせぶりなモチーフに人間存在そのものを投影してみるとか、「ものを失くした人」に当たるドイツ語がlooserのように「負け犬」の意味も含むらしいとか、そうした含みを読み取りながら、狭いながらもヘンリーのまわりに広がっていく世界を俯瞰するのも悪い趣味ではなかろう。
 だが、きょうはその方面のほじくりはやめて、レンツの作品世界がどうしてこうも読後しばらくして余韻を残すのかについて、少し考えたことを書いてみたい。ごく単純にばっさり言ってみると、物語が近視眼的に書かれていくのではなく、遠いまなざしが保たれていることに起因する気がする。

 舞台はハンブルクらしい北ドイツの都市に定められているが、『アルネの遺品』もこの『遺失物管理所』も、読み終えるとまるで自分がそこへの旅から帰着したかのような懐かしさを残してくれる。その旅で何か忘れ物をしてきたかのように、蜃気楼の残滓が意識の底に感じられる。
 これは、人物をめぐっての事件や出来事が鮮明に書かれているということではなく——むしろそうしたものは抑制されたように控え目に扱われている——、町に漂う空気がちょっとした素材のうちにすくい取られているからなのかもしれない。「匂い立つような文体」というものがあって、自分もそのように書ければ…と願わなくもないが、レンツの小説からは、文体でなく「北の町」の匂いがどうしようもなく香り立ってくる。同僚と勤め帰りに寄るレストランの魚介料理の匂い、一部の人間に根強い外国人差別の目線、暗鬱な気象と景気を反映した荒れる若者たち……。職場にもアパートにもダンスホールにもアイスホッケーのスタジアムにも、ヘンリーの立ち寄る先はどこも同じ「空気」に覆われている。
 ひと言ふた言で分かり易く説明し得るのでない、ある時代ある土地での「空気」を記録していくこともまた、小説の大きな使命だという気にさせられる。
  

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紙の本

人生の待避線

2015/12/02 02:00

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る

本書はドイツのベテラン作家の作品です。驚くような展開や、めくるめく恋愛模様はありませんが、読んでいて心が落ち着くような小説でした。

ドイツの駅の中にある遺失物管理所に赴任した自由奔放な青年が主人公の話で、主人公ヘンリーの人柄だけでなく遺失物管理所で働く同僚も魅力的な脇役です。また、出世コースから外れた職場に流れるゆったりとした雰囲気や、遺失物にまつわる様々なエピソードも本作の魅力だと思います。上司が「待避線」と表現する遺失物管理所で繰り広げられる小さくて暖かいストーリーを楽しんでみてください。

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紙の本

忘れてみたい気もするのだった

2005/02/23 13:35

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ぼこにゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

「星の王子さま」とか「モモ」などを読んで、人並に感動する一方でなにかこう、「カネにばかり価値を見出す大人は愚か者である」とか、「大人よりも子供の方が大切なものごとをよく知っている」といった一元性に疑問がぬぐい去れなかったことも確かである。年をとれば誰だって背負う荷物が増えて行くのだし、その重圧に耐えるには金銭やら力やらが不可欠なんじゃないかと感じるかたわら、第一「カネにばかり価値を見出す大人」なんてものは子供っぽい(田舎の人は優しい、というのと同様の)幻想の中にしか存在しないようにも思えたのだ。それやこれやを飲み込んだ上で物語に酔う、というのがオトナのたしなみかも知れないのだが。
 駅の遺失物管理所に配属された主人公ヘンリーは、まさに「星の王子さま」の世界観をシッポのように(尾てい骨ではなくて現役のシッポ)引きずった永遠の少年タイプ。重役の親戚なのに出世に興味がないとやらで、みずから閑職に転属を願い出たという変り種である。「くまのプーさん」の中の「トラー」を思わせるような、毎日を楽しく過ごせればいい、というフワフワした無邪気なお坊っちゃまで、周りの人はみんな微苦笑しつつ彼の魅力とテンポに巻き込まれて行く。電車や駅に残した忘れ物を捜しに来る人達の人生が断片的な装飾になっているのもたまらなくいい。商売道具のナイフを受け取りに来た芸人が、身元証明のためにヘンリーを的にしてナイフ投げをやって見せる場面がなんともオカシイ。
 ある種絶好調にも思える彼の生活だが、身辺に出没する暴走族とか、異国から来た友人と周囲との軋轢が心に影を落とし始める。
 資本主義への懐疑というところに身を置いていたとおぼしきヘンリーが、あの社会主義に根ざした狂気(ナチだけど。ドイツの小説なのでついそう感じてしまった)、を象徴しているかのような人々との対立を通して最後に劇的な行動に駆り立てられる。永遠の少年返上か? 現実の苦味を絶妙の按配で織り込んで、お伽噺になり切らない辺りが小説として優れているのだろうけれども、これほど楽しいストーリーだったのでその部分は読んでいてひどく切ない。でも、単なる能天気青年だったヘンリーにちょっと大人の要素が加わりつつも、いつか心の傷が癒えて行きそうな、希望を抱かせる終わり方が清々しい。
 そう言えば私は子供の頃にはしょっちゅう探し物をしていたものだが、あの、なくしたものを探す時の取り乱した絶望感と見つかった時の幸福を忘れて久しい。ヘンリーみたいな係の人がいるのなら、一度くらいはぜひ忘れ物を探しに行ってみたい気もするのだった。


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紙の本

だめなのだ、こういう駄目男が。人の心を弄ぶ、不真面目な人間が。いつもエヘラエヘラしている輩が。そう、主人公の性格の評価でこの本のそれも決まる

2005/05/26 22:11

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

レンツを読むのは2003年に出た『アルネの遺品』に続いてだから、二年ぶりだろうか。
Sculptures & Photograph by Maeda Masayoshi Design by Shinchosha Book Design Division
「婚約指輪を列車のなかに忘れた若い女性があれば、大道芸に使うナイフを忘れた旅芸人がいる。入れ歯が、僧服が、そして現金を縫いこまれた不審な人形が見つかる。舞台は北ドイツの大きな駅の遺失物管理所。巨匠レンツが、温かく繊細な筆致で数々の人間ドラマを描き出す、待望の新作長篇。」
「遺失物管理所では、今日も
さまざまな人間ドラマが幕を開ける。
失うことは人生の基本モチーフである 。巨匠レンツ、待望の新作長篇。」
主人公はヘンリー・ネフ、「遺失物管理所」に異動してきた24歳の青年である。性格は、ずばり総領の甚六。甘いのだ。金持ち特有の身勝手、悪ふざけ、はては一種のストーカー行為までする。悪気がないのは分るが、傍から見ればどうしようもない奴である。彼の性格を決めているのが、伯父が連邦鉄道の本部長であり、高級陶器を販売する「ネフ&プルムベック」という会社の経営陣の家族であること。で、彼には何度も結婚話が流れているバーバラという勝気で魅力的な姉がいる。
ヘンリーの勤める遺失物管理所にはボスのハネス・ハルムス、痴呆気味の父と暮らすベテラン職員のアルベルト・ブスマン、声優を夫に持つパウラ・ブロームがいて、そこにも経営建て直しをはかる連邦鉄道の合理化の波が押し寄せようとしている。そういう状況の中で、ヘンリーは殆ど悪ふざけ、自分の欲望を満たすだけの行為を繰り返す。実は、ここにユーモアを感じる人もいるわけで、それがヘンリーの評価に関係してくる。
他に、重要な役割を果たすのがロシア国籍のバシュキール人であるフェードル・ラグティーン博士で、訳者あとがきで松永美穂は、博士を巡るドイツにおける人種差別、というか排外的な動きについて現代ドイツの問題点としてあげているが、それはそのまま日本にもアメリカにもフランスにも当て嵌まるので、その点に関しては物語としてはともかく、解説としては短絡に過ぎるといいたい。
で、この本を最初、どこかで出会った文章だけど誰だったんだろうと思いながら読んでいて、もしかして村上春樹?と思い、そう考えると何となく主人公のすぐに女にのぼせて関係を持とうとする、しかもそれが下品ではない、でも所詮はセックスというそれでしかないもので繋がる、やっぱり村上に似ている、と手を打ったものだ。
でも、それは訳者あとがきの文章を読みながら、これって女性の文?もしかして松永美穂って男なの?と余りに訳文と生の文章の落差に失望したことを書いておく。むしろ、このあとがきは、そのまま池内紀の文としてもおかしくはない、そう思う。さて、この現実逃避を続ける嫌なヘンリーについて、あとがきで気になるところを見つけた。
これはハネスから彼が留守の間、ヘンリーに所長代理を勤めてほしい、といわれることについてで、松永はこれを昇進と書いているが、文脈から言ってもハネスは昇進をいってはいない。あくまで、留守の間の臨時的な代理である。だから、これはヘンリーの昇進拒否ではなく、単に責任逃れ、遊んでいたいだけの逃げとしか思えない。
ヘンリーの性格を肯定するか否定するかで、前者ならば彼は出世よりも実務を大事にする真面目な青年ということになるし、後者であれば、ヘンリーはいつまでも学生気分の抜けない無責任なガキということになる。で、それによって、この作品も巨匠の傑作か、若さと資本家に迎合した作品かという評価の差にもなっていく。うーむ、書評は人格の表出か、こわいこわい。

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紙の本

飄々とした青年の物語

2005/09/10 22:24

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る

北ドイツの大きな駅とおぼしき場所の遺失物管理所。そこへ24歳のヘンリー・ネフが職を得たところから物語は始まる。
 ヘンリーは鞄を無くしたバシュキール人のラグーティンと知り合いになるが、彼との親交を通じて見えてくるのは、異邦人に対して不寛容な現代ドイツの姿だった…。

 ドイツ連邦鉄道でこの遺失物管理所というのは決して花形職場ではありません。そこへ伯父のコネで就職したヘンリーは野心があるでもなく、どこか飄々とした感じで日々を過ごしています。とりあえず食うために職に就いたという程度の無気力な青年かという色眼鏡を通して読み進めていたのですが、これが意外と芯が強く、寛容の精神に富み、そして義理人情に篤い青年だということが見えてきます。
 出世欲は相変わらずないにも関わらず、やがてヘンリーは自身の仕事に当初に比べれば熱意をもってのぞむかのような姿勢を見せ始めるところで物語は幕を閉じます。

 物語展開に激しい起伏は見られません。職場の同僚である人妻パウラとヘンリーとの仲も、最初に予感させるほどの波風が立つことはありません。ヘンリーの飄々ぶり同様、物語も静かに進行するといってよいでしょう。
 その点に物足りなさを感じないでもありませんでした。

 翻訳にはもうひと踏ん張りほしかったところです。ドイツ語原文の過去形を日本語でも律儀にすべて過去形で表記したために、「〜た」で終わる文章が延々と連なる結果となっています。リズムが単調になり、読んでいて味気ないという思いをしました。
 「〜ではないかと思った」とやらずに「〜ではないか?」で切ってみたり、適度に体言止めを用いたり、思い切って現在形を混ぜてみたりという工夫をすれば、もっとテンポある翻訳文になったことでしょう。

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2005/09/19 12:06

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2005/10/15 18:01

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2007/05/25 00:48

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2008/06/14 11:55

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2008/07/25 22:47

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2010/07/19 18:34

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2007/07/29 21:53

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2012/01/31 01:08

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