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紙の本
やっぱりこういう物語を読むと、山田風太郎と比較しちゃうわけ、で、山田風太郎、偉大なりってなるんですね、これが。でも、龍谷大学、これって穴かもしれません
2005/07/16 21:18
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
COVER ILLUSUTRATION&DESIGN:北見隆、BOOK DESIGN:岩郷重力+WONDER WORKZ.で、今までカバーに写真を中心に使っていたミステリ・フロンティアとしては、ある意味、オーソドックスなデザインです。北見隆の手馴れた技といっていいでしょう、馬上の多分諏訪王姫であろう人物像は、この小説にぴったりです。
どことなく貧相に見える牛に乗り、弟子の若者を連れて諸国を旅する小柄な老人。頭にすっぽりと頭巾を被った、達磨の座像を思わせるこの老人こそ、天下一の名医の呼び声も高い残夢である。しかし、この残夢、行く先々で怪事件にばかり巡りあう。合戦の最中に密室から消失した姫君、不可能状況下の刺殺事件、忍者軍団の死闘の裏に潜むからくり・・・・・・。
室町幕府崩壊前夜、諸国を放浪する伝説の医師の名推理。第十回創元推理短篇賞受賞の気鋭が満を持して放つ、トリックへの情熱にあふれた伝奇的連作本格推理!
タイトルの中に地名が織り込んであるのはほぼ共通で、第一話「諏訪堕天使宮」は当然、諏訪が舞台です。話の中心にいるのが諏訪王姫という、陳腐な表現ですが絶世の美女で、彼女というか諏訪王家を守る赤黒青白の四武者で、享禄4年(1531)年に彼らに軍師として招かれたのが勘介で、この話の主人公になります。第二話「美濃蛇念堂」は、勿論、美濃が舞台。天文3年(1534)のこの話には新九郎、父親の新左衛門尉が出てきて、司馬遼太郎の有名な小説を読んだことのある人は???と思うところがあります。キーマンは26歳の明智光隆で、探偵役の残夢は97歳。
以下、第三話「大和幻争伝」は大和は筒井と郡山が闘争の場で、筒井順興の首を付け狙う百首妖蓮斎の争いが軸。時代としては天文2年(1532)あたりなので、第二話と順番が前後しています。第四話「織田涜神伝」は、場所こそ特定しませんが、天文7年(1538)が発端で、今川氏豊、織田信秀が重要です。
案内にもありますが、揺り椅子探偵役をしている残夢は、天正4年(1576)に139歳で没したといわれる伝説の人物のようで、私は知りませんが実際の記録にある人間のようです。八百比丘尼に関連して「本朝神社考」に奥州には残夢という者がいて、義経や弁慶のことをまるで見てきたことのように語るとありますが、それが出典でしょうか。 この小説では、享禄5年のとき95歳とあって残夢90代の活躍ということになります。彼の供をするのが医業の弟子の永田徳二郎で20歳、ただしワトソン役というにはあまりに影が薄く、極端に言えば、いなくても成り立つかな、と思います。
パターン化が気にはなりますが、そのこと自体を楽しむことも可能なので、いいとしておきましょう。むしろ、一番引っかかったのが第三話「大和幻争伝」で、読んだ人はだれもが山田風太郎を連想するに違いありません。それは、ある意味この連作集自体にいえて、山田の明治物に近い気もします。変な表現ですが、山田風太郎が如何に偉大であったかを思わずにいられません。
あとがき、は架空の対談形式ですが、例えば第二話「美濃蛇念堂」の???となった部分についての詳しい解説があって、そうか、そうなのかと納得できます。ま、この砕けた対談というスタイルがよかったかどうかは疑問ですが、中身は立派なものでしょう。
最後になりましたが獅子宮敏彦は奈良県生まれ、龍谷大学卒で、本書が本格的なデビュー作だそうです。龍谷大学、どこかで聞いたなあと思い調べてみたら、SF『グアルディア』を書いている仁木稔(1973年長野生)が龍谷大学大学院文学研究科卒でした。京大中心のミステリ界に、同じ京都から新しい波が生まれているのかもしれません。要チェックですね、龍谷大学。
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