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紙の本

水が歌ふ - 私の奥入瀬紀行

2008/07/02 20:00

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 初夏の奥入瀬渓流を歩いた。
 奥入瀬(おいらせ)は十和田湖から流れる唯一の川だ。その川沿いの景色を旅ガイド風にかけば、明治の文人大町桂月(といっても今ではほとんどの人が知らないだろうが)が「住まば日の本/遊ばば十和田/歩けや奥入瀬三里半」とうたった名勝の地ということになる。八戸(青森県)からバスでおよそ一時間半。奥入瀬渓流のなかば、石ヶ戸(いしげど)から十和田湖の河口にある子ノ口(ねのくち)までの約9キロを三時間かけて歩く。瀬あり滝あり、まさによく写真などで見かけるとおりの、水と光と新緑の木々との競演である。しかし、「写真でみたとおり」というのはおかしな話で、まずこの自然があってそれを写し取った技量を評価すべきだろう。いや、こういう自然の世界にはいると、そういうことさえ関係なくなる。あるがままの自分があるだけだ。詩人佐藤春夫がその詩「奥入瀬渓谷の賦」(この詩碑が子ノ口近くの本流にかかる唯一の滝、銚子大滝のそばに立っている)の冒頭の一節でこう詠っている。「瀬に鳴り渕に咽びつつ/奥入瀬の水歌ふなり/しばし木陰に佇みて/耳かたむけよ旅人よ」
 本書はその奥入瀬と十和田、八甲田といった青森の自然を撮影した写真集である。書名の『青い森話』は「あおいしんわ」と読む。そもそも青森という地名は「青い森」と親しみを込め語り継がれてきた。そして、奥入瀬でもそうだが、森の情景は太古を彷彿させ、まさに神話のように厳(おごそ)かだ。それらを懸詞のようにしてできた書名だ。それぞれの森の四季が時に優しく、時にはげしく表情をかえてそこに写し出されている。著者は<あとがき>に「豊かな自然の中に身を置くことで、不思議と優しい気持ちになれます」と記しているが、奥入瀬の自然の中にいると生命の不思議さを強く意識させられたのは実感としてある。生命とは実は大いなる包容力であり、だからこそ優しい気持ちになれるのだろう。旅から戻り、本書の写真でもう一度その優しさに包まれる幸福感。しかしながら、ある一点において、本書は私を充足させてくれない。それは、音の喪失である。実際の奥入瀬は溢れかえらんばかりの音に満ちていた。もういちど、その音にふれたくて、目を閉じる。自分の目の前に広がった光景を追体験し、音を再生させなければならない。耳をすませて。
 奥入瀬は女性だ。さらさら、さらさら。川はアルトのように、緩やかで優しく、歌う。そして、やや早い流れになり、歌声は高くなる。ソプラノがはいりこむ。しゅる、しゅる、しゅる。水は速度を早めながら、苔を背負ったいくつかの岩をくぐる流れになる。あるいは瀑布となって下り落ちる。そこに、男性の強い声がまざりこむ。テノールだ。ざわざわ、ざあー、ざわざわ、ざあーといわんばかりに。奥入瀬渓流でいえば、<阿修羅の流れ>と名づけられた瀬のように、男と女が激しく絡み合っていく。そして、時折水の深みに水自身がはまりこむ音が、どどんどどんと、バスのように響く。水の音が大きく、そして小さく、行き過ぎる。やがて、たゆとう瀞となってあらたな旅立ちの準備をはじめる。水の音に共鳴するように、光が弾ける。さしずめ管楽器だ。フルートの音色が零れ、弾け、水にまといつく。風は弦楽器。調べが波に呼応して通りゆく。奥入瀬渓流は、それら水と光と風の交響曲(シンフォニー)だ。自然は大いなる調べとなって、人をつつみこんでくる。そのことで、私たちは優しくなれる。新しい生命の息吹を感じる。
 静かに裏表紙を閉じる。そこに<心に優しく>と題された紅葉に色づく樹林の写真がある。秋に、もういちど奥入瀬をたずねてみよう。その写真は招待状のようにしてそこにある。

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2010/10/10 02:23

投稿元:ブクログ

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