紙の本
脳は常に「予測」しながら、見て・聞いて・触れている
2005/03/31 04:02
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Masa@宇都出 - この投稿者のレビュー一覧を見る
●「予測をたてる能力こそが、知能の本質」●
著者は従来の人工知能・ニューラルネットワーク研究を批判しつつ、ズバリ言い切っています。
この本のキーワードは「予測」です。
確かに人間は常に「予測」して行動しています。しかし、著者がいう「予測」はわれわれが思い浮かべるような行動レベルや能力レベルのことではありません。著書が本書で展開しているのは、見る・聞く・触れるといった認識レベルにおける「予測」なのです。
「人間の脳は蓄積した記憶を使って、見たり、聞いたり、触れたりするものすべてを、絶えず予測しているのだ」
「人間の認識は、感覚と、脳の記憶から引き出された予測が組み合わさったものなのだ」
著書はその理論の核心である「記憶による予測の枠組み」を用いて、人間の持つすぐれた認識力の謎を解き明かしていきます。特に脳の中の「新皮質」に焦点を当て、「階層構造」と「逆向きに流れる情報」といった要素を用いながら、わかりやすく仕組みを説明しています。
その仕組みから、無意識に行ってきた見る・聞く・触れるについて、深く考えさせられるほか、創造性開発のヒントも得ることができます。
しかし、著者も少し触れていますが、脳が自然に行っている「記憶による予測」は、言ってみれば「固定観念の判断」とほぼ同じことです。脳の固定観念・思い込みのワナにはまらないためにも、意識的に懐疑的態度を取り、無邪気な好奇心を持つことの重要性も痛感させられます。
主著者はPalmの生みの親、ジェフ・ホーキンス。そこに『脳の中の幽霊』(角川書店)の著者でもある科学ライター、サンドラ・ブレイクスリーが加わり、とても読みやすい本に仕上がっています。
紙の本
日経コンピュータ書評
2005/04/14 18:51
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:日経コンピュータ - この投稿者のレビュー一覧を見る
米パーム・コンピューティングの創業者であり、モバイル業界のビジョナリストである著者が、もう一つの本業である人工知能の研究についてつづった。
ノイマン型コンピュータに基づく従来の人工知能や、脳の働きを単純な神経細胞の連鎖に還元するニューラル・ネットワークの理論を否定。大脳新皮質や海馬など、実際の生体の働きを踏襲し、直感で真実をすばやく見分けるといった、真の人工知能を実現すべく自説を展開する。
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Palmの生みの親はレッドウッド神経科学研究所なる研究所を作り、コンピューターの世界と脳の世界の両方の探究を続けていたのだ。それだけで充分に読むに足る話だと思った。
現在の脳の研究成果とそのコンピューターへの移行の可能性についての冷静な意見が光る。そして個人的にだが、先日読んだスピノザに関する本が効いている。こういうこともあるのだなあと驚く。
DNAのおかげで人間は素晴らしい記憶や言語を用いた表現までを可能にする脳を手に入れた。しかし生まれた時にその脳はまっさらなのだ。そう言われてみれば確かにそうだ。そこにインプットが続く。これは脳が母体の中で形成された時から始まっているに違いない。そしてそれが意味のある記憶や感情に向かうまで長い時間をかけて蓄積を続け、やがて記憶から連想、憶測が可能な状態になっていく訳だ。納得。
つまり、前世もないし、後世もない。生まれ、蓄積し自我が出来たところで始まり、死ではなく脳の終焉で終わる。これが心のあり方だ。死後の世界なんてもういらない。そう断言出来る文章に出会った、というところだ。
ここでスピノザが活躍する。そうではあっても自分という存在は永遠である。ある時間に存在したという事実が存在する。この存在する、という事実自体が永遠に真理であるのだから、自分という存在は永遠である。
私は宗教に関心はないが、このふたつの考え方を知った今、正直、死が怖くなくなっている。死後の世界がない、という断言は自分がそこで終わるというなんとも心残りな話と、一方で永遠性の捉え方により永遠性はすでに保証されているという話。読書が重ならない限りこういう喜びはない。
人工知能、ニューラルネットワークなどの試みの行き詰まりを打破してくれるかもしれない。ジェフ・ホーキンスとその仲間たちにはその可能性を感じる。
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大事なのは記憶だ、人間の脳は記憶を元に構成されちる。目から鱗知っていたようでしらない、明確なようで曖昧、でも確信をついていると思います。今までのなかで一番インパクトを受けたし思っていたことを解明してくれた。自分で思いついたと思っていてもそれは、誰かのアイデアの記憶を加工したもの、きっとその通り人類は少しずつ進歩していく・・
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おもしろかった。
脳の仕組みが解らないのは断片とした情報をあてはめる大きな理論・構造がないからであるという話。んで、その理論となる道筋を提示。
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2008年2月ごろ。市立図書館で。
人工知能と人間の知能の違い。
「考える」とはどういうことなのか。
人間の「予測演算」とコンピュータの「シミュレーション」の違いが、おぼろげながら見えた気がした。
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著者の論理展開がとても面白くて、個人的にはすごく好きな一冊。本当はすごく難しい内容の話なのに、全然難しく感じません。
正しいか正しくないかではなく、物事の考え方についていろいろ参考になる良本。
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Palmの発明者で、脳科学者でコンピュータエンジニアである著者が書いた人工知能の本。これを読むとなぜか知能を持つ機械が作れる気がしてくる。早くこんな機械を作ってほしい。
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脳の中で、情報はどうやって処理されているのか。
考えるということはどういうことなのか。
科学的な事実と大胆な推論で、なるほど!と納得させてくれた1冊。
人が手を動かす時、脳が指令して動かしているのではなく、「手を動かしてものを掴む」という予測を脳がしている!?
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タイトルがミスリーディングだと思った.脳の仕組みとコンピュータの仕組みを比較していくような内容だと思っていたら,メインテーマは「知能とは何か,脳(新皮質)はどうやって知能を実現しているのか.「記憶」がカギ」だった.
言いたいことは,まぁなんとなく分かる.あとはどうやって証明するか?ですよね
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サンドラ・ブレイクスリーがかかわっている本だけあって面白い。
内容はあまり覚えていないが納得した気になれる。あとで考えると
それを実際に実装するまでを望んでしまうが。
むしろ必ず説明可能というジェフ・ホーキンスの態度が素敵である。
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興味深く読めた。知能の鍵は「記憶による予測の枠組み」にあるという仮説。筆者の言うコンピュータの持ちうる知能とは、いわゆる「人間らしい振る舞い」を求めるものではなくて、非常に現実的。これなら近い未来に実現化されるかも、と言う気にさせられる。
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Palmの生みの親であり、コンピュータ科学者兼脳科学者であるジェフ・ホーキンスの著作。
元々この本を読もうと思った動機は、今のコンピュータのあまりの阿呆さに呆れていたからであり、この人工無能に代わるもっと知的な人工物を作ることは可能なのだろうか、という疑問からだった。
以前ペンローズの書いた意識に関する本を読んで、うーん、単純なアルゴリズムの積み重ねでは無理で、生体的に人間の脳を模した物を作らないと知能は宿らないのかな、と悲観的になっていたが、この本によればそんなことは無く、単にアルゴリズムの問題である、という。
そのアルゴリズムとはすなわち、「記憶と予測」によるものである。曰く、通常我々は「物から発せられる光を目が捕らえて、それを脳が認識する事によって見る」と考えがちであるが、さにあらず、「脳が周りの状況と過去の経験から勝手に先に予測して物を『見て』しまう。その後、目からの信号が入力され、その予測が正しければ何事も無く、間違っていたら違和感を感じつつ、フィードバックを受けて回路(=シナプス)を修正する」というロジックなのだという。
つまり、「脳は見たいように見る。ただしフィードバックは常に受付中」という原理らしい。で、フィードバックについても、視覚であれ聴覚であれ、どの五感、さらには運動神経についても同じ構造の細胞で処理されていて、情報が常に交換されているのだという。
そう書くと何となくフーンって感じがしてしまうが、実はこの理屈によって非常に多くの事が説明できるなと思い、目からウロコが落ちた。
以下は本に記載されている内容ではなく、自分の考察に過ぎないのだが、例えば・・・
・止まっているエスカレータに乗り込んだ時に感じる猛烈な違和感は、「エスカレータは動くもの」という予想が大きく外れた事によって、脳への大量のフィードバックが発生しているということ。
・夢を見るという事は、感覚器官からのインプットが無い状態で、脳が勝手に見たい物を見ている現象。夢遊病は更に運動神経にまで勝手に信号を送ってしまっている状態。
・音が色として「見えて」しまう共感覚という現象は、視覚情報を処理する細胞と聴覚情報を処理する細胞が、何らかの理由で接続されたままになってしまって何かのきっかけで情報を交換する事があるという状態。
・痴呆や狂気というのは、当事者にとっては間違いなく「正しい現実」であるということ。ただしフィードバックを受け取ったり、Reflectionする回路(=シナプス)に問題が発生しているため、現実との乖離が発生している状態。
・なので、脳に適切なフィードバックを送り続けることができれば、仮想世界を現実と「騙し」続けることも可能。要するにマトリックスの世界。
しかしこの本の理屈の凄いのは、更に本来形而上学の世界であった問題に対しても回答を提示してしまえる事。すなわち
・私とは・・・過去の体験を通じて得られた記憶と、その記憶によって作られた現実認識のためのモデルの集合。
・意識とは・・・脳が現実に先んじて見せている「早出しの記憶」。
・心とは・���・脳が脳自身の活動をうまくモデル化できないが故に、思考が肉体とは独立して存在しているように感じてしまう錯覚。
・魂とは・・・従って脳と独立した魂というものは存在しない。脳が死ねば心は無くなる。
・神とは・・・人は常に自分の中で作られたモデルでしか想像できない。従って宇宙を創造したことの無い人間が神を想像することは不可能である。すなわち(仮に存在しても)、絶対に知ることのできない存在である。
・善とは・・・生物として生存するにあたり、その時点で最適なモデルの事。
・哲学とは・・・ちょっと考えきれて無くて難しいのだが、モデルを作る過程をさらにモデル化する方法について考える、メタロジカルなプロセス、かもしれない。
というように。
個人的には拍子抜けしたというか、でもやっぱりそうなんだろうな、というような諦めというか、そんな感覚を感じてしまった。が、何となく真実である気がする。何としても、脳を科学的研究の対象として解明することで、上記のような形而上学も、ついに科学のまな板に乗ってしまった事は間違いなさそうだ。
さて、ではそんな知能をもった人工物を作れるか、という疑問に対しては「8TBの記憶容量を持ち、各ユニットが各5,000~10,000の接続点を持つ回路が作れれば可能」という。で、すでに工学的な対象として研究も進められているのだそうだ。
しかしその知能を持った機械は、本質的に人間と同じ心(=モデル)を持つには至らない。何故ならば、現実からのフィードバックを受けるためのセンサーが人間と全く違うものになるだろうし、同じにする理由も全くないから。ということで、この機械が実現した暁には、人間はついにこの宇宙上で知能も意識も持ちながら、全く違う心を持つ「友人」を手に入れることができるのだろう。ちょっと楽観的な、この本によれば。
うーむ。。。。。正直考える事にキリがない。1冊でこれだけ考えさせられる本はそうそう無いと思う。著者自身が書いているように、これはあくまで仮設であり、今後誤りが見つかる可能性の方が高いとは思うのだが、基本的な理屈は筋が通っていると僕は思う。
では、そう考えた時に、この現実は、人は、宇宙は、美は、愛は、色褪せてしまうだろうか?
「そんな事は無い。」
そう言い切る著者の心に、人としての、溢れる優しさを感じた。
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脳と知性の解明を新皮質に絞り込んで「記憶による予測の枠組み」という明快な考え方を打ち立てているところが着目。そこでは階層構造にループ制御を持ち込むというところにソフトウェア工学的斬新さを感じた。よく知性を持つ機械が人に悪作用するというSFがあるけれど、そんな人間っぽい振る舞いには実は旧脳が深くかかわっていて新皮質は純粋に知性のみが活用できるとしていると説くところに著者のビジネスマンとしての特性を感じる。
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興味がある(あった)分野である、脳活動をコンピュータで再現する関連の話を分かりやすく纏めてくれた名著。やや機械側に偏っているので、ナショナルジオグラフィックの『華麗なる天才たちの頭脳 (2007)』も見ると良いかも。