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紙の本
我々が宇宙に行くための宇宙計画へと復帰しよう
2005/05/24 10:50
17人中、17人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:松浦晋也 - この投稿者のレビュー一覧を見る
1969年、子供達はロケットの先端に乗って宇宙に行くことを夢見ていた。12年後の1981年、子供達が夢見るのはスペースシャトルの操縦席に変わっていた。その間にあったのは、アポロ計画の終了とスペースシャトルの開発開始、そして米航空宇宙局(NASA)の宣伝だった。1981年4月12日、スペースシャトル「コロンビア」が初めて宇宙へと打ち上げられた。
実際、スペースシャトルは見事なほどに絵になる機械だった。特に帰還時、悠然と滑空しながら降下し、主翼の両端に空気の渦を巻き起こしながら着陸する映像は、多くの人に「これこそ未来」と印象づけるのに十分な迫力と魅力があった。
それから24年、すなわちアポロ計画が2回以上実施できる時間が経過した。その間にスペースシャトルは113回飛行し、2回の致命的な事故を起こした。1981年、NASAは年間50回シャトルを飛行させるとしていたが、24年後の現在、打ち上げは「コロンビア」空中分解事故によって2年以上停止している。スペースシャトルのコクピットを夢見た子供達は大人になったが、子供の頃に夢見ていたほど宇宙は身近な場所になってはいない。
それもこれも、スペースシャトルがNASAの宣伝とは裏腹の巨大な失敗作であったことの帰結である。確かにアメリカは巨大な夢を見た。しかしそれは悪夢だった。
以前、宇宙開発OBに昔の話を聞いていたところ、一枚のイラストが出てきたことがあった。OBの方は言った。「スペースシャトルが飛び始めた頃にね、体の悪い画家さんからもらったんだよ」。イラストには多くの人が列を作りスペースシャトルに乗り込んでいくところが描かれていた。列にはベレー帽をかぶった足を引きずる人物も並んでいた。「その画家さんの自画像だ。『私のような者でも乗れるのでしょうか』といって、この絵を送ってきたんだよ」。
20年前、足の悪い画家の方はどんな思いでこのイラストを描いたのだろうか。どんな希望をスペースシャトルに抱いたのだろうか。スペースシャトルの歴史は、そのような世界中の人々が抱いた宇宙への想いに対する裏切りの連続であった。
本書には、スペースシャトルのどこが失敗で、失敗の結果何が起きたかをまとめた。シャトルの毒は世界中の宇宙開発に回り、真に宇宙を目指す人類の努力を抑圧してきた。日本もまたその影響を免れなかった。
そろそろ真実を直視し、過去の失敗を精算する時期だ。真に我々が宇宙に行くための宇宙計画へと復帰しよう。私はそう考えている。
紙の本
夢の終わりに気付くべき時
2005/07/03 22:11
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Skywriter - この投稿者のレビュー一覧を見る
スペースシャトルの就航は1981年。宇宙へのアクセスを容易にする、夢の機体と騒がれたものである。だが、それから25年近くが過ぎたにも関わらず宇宙が近づいたようには感じられない。
それどころか1986年にはチャレンジャーが、2003年にはコロンビアが墜落し、14名の命が失われ、事故のたびに打ち上げが中断されてきた。アメリカの宇宙開発はむしろ後退した、と言っても良いほど低迷しているのが現状である。
なにが今日のこの事態を招いた原因なのだろうか。
その答えとして、著者が導き出したのは「そもそも設計思想が誤っている」ということだ。”夢の機体”とされた機体はなぜ”欠陥品”なのか。本書ではスペースシャトルの構造、性能は勿論、アメリカの政治的、軍事的な思惑にまで立ち入って設計段階での過ちを指摘されている。背景となる理由の一つ一つは大したことがないかもしれない。しかし、結果としてスペースシャトルは多機能のつぎはぎとなってしまい、万能マシンであるがゆえどの機能をとっても専用機に負けることになってしまった、という指摘は重要だろう。
今後の宇宙開発がどうあるべきなのかを考えるには最適と言える。なによりも、まずスペースシャトルに託した夢が潰えたことを認識し、その上で次にどのように進むべきなのか、を示してくれた本書に感謝したい。
なお、チャレンジャーの事故については事故調査に携わったファインマンさんの困ります、ファインマンさんが面白いのでお勧めである。
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