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131221 中央図書館
『知の武装』で、佐藤優が、最近の中国と日本の関係を捉えるヒントとして竹内好を見直せばどうか、と述べていたことから、偶然書架で見かけた本書を手にとったもの。竹内について何の知識も持たずに、評伝から読むこととなったわけだ。
現役の評論家が、堅苦しい学術書スタイルではなく人間臭い評伝として竹内の思想形成を表わしたものなので、抵抗なく最後まで読めた。
しかし、ここで用いられる内容や言葉は、安保闘争以降に生まれた世代にとって、あまりにも古臭く、リアルに訴えてくるところがない。歴史を貫く原理が変わったわけではないだろうが、20世紀前半から中盤にかけて社会を把握・説明するために彼らが用いてきた概念や言葉は、もう使用期限が切れている。もちろん、市民/共同体と政治権力との関係構造としては同じと思うが、市民を構成する要素が大きく変質し、彼らによる社会の見立てや言葉遣いも50年前とは異なってきているのだから。
市民やプロレタリアート(死語)と政府、日本と中国、アジアと西欧の関係をどのように個人の行動と折り合いをつけるかは、当時の「知識人」(死語)にとって重要な問題であったわけだが、今はそのようなことを考えるインテリ(死語)は、往時でいう「労働者階級」(今の言葉ではビジネスパーソン)のなかにしかいない。
あと、忘れていけないのは農村共同体に世界の基盤を置く思想が、今はどうなっているのか、今後はどうなっていくのか、という論点だ。