紙の本
進化論の科学読み物のようであるが、最終的には自己とは何か、倫理とは、につながっていく、哲学者が書いたあまり哲学書らしくない本。文体が評価を分けそう。
2007/07/22 12:07
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
自由と進化?なんだかこのふたつ、関係なさそうな感じがするけど、ここに書かれているのは「自由は生物が進化して獲得したものなんだ」って考えなんだ。著者は一応哲学者なんだけど、考え方は社会生物学者、進化論者ってところ。まずは「物理的な法則にすべてが従っているとしたら、自由ってあるの?」っていう話から始めて(まあ、決定論世界というやつだね)、物理法則に従っている世界でも自由意志はやっぱり進化できる、だから責任も倫理もある。そして、自由は進化で獲得されたものなんだから、責任や倫理も進化で獲得されたもので、これからも進化していくんだよっていうんだ。すごーい。
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「動こう!」と意識するよりも前に筋肉には電位が発生しているというリベットの実験(ベンジャミン・リベット「マインド・タイムー脳と意識の時間」に詳しく書かれている)や、「すべて決定された世界」としてのコンピュータシミュレーション世界など、あまり哲学者が真っ向からは取り上げてこなかった題材をたくさん取り入れている点では哲学書としてはかなり独特な切り口である。これまでの哲学の意見への論評が少ないが、「それを書くと否定的な結論になり、長くなるだけなのでここでは省いた」そうである。確かに8章、9章の「自己とはなにか」とか「自律性」、「道徳の発生」など、核心の話題に到達するまでだけでも本筋を見失いそうに長い。その辺の読みづらさについては翻訳者がちゃんと代弁してくれていて、親切な要約解説をつけてくれている。著者とは少し意見が違う部分についても書かれている解説なので、読者にも批判的に読む姿勢を喚起してくれる。親切ついでに、本書で引用される重要な文献のうち、邦訳で読めるようなものの一覧や、索引を用意してくれればよかったと思う。なにしろこんなに長く、話が見えづらい本なのだから。
道徳の起源を進化から考えた本は、既にマット・リドレー「徳の起源」などがあるので、考え自体はそれほど新しいわけではない。それでも哲学が構築してきた「自己意識」や「自由意志」「理性」といったものを最近の科学的なデータと結びつけたらどうなるのかの一つの考え方、自由という視点でとらえたことという点からは一読の価値があるだろう。ただ、やはり実験のデータなどをもとにした決定論や不可知論の話に偏ってしまい、哲学書というよりは「少し哲学よりの(ある種の)進化論、科学書」のように読めてしまう。著者にはこの本で省いた「これまでの哲学」との結びつき、今後への活かし方を、今度はもう少しすっきりとまとめてぜひ著して欲しいと思った。
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ところで、この書評の最初の数行、読んでどう感じられただろうか。この厚い本、400ページ余りがこんな文体で書かれている。最近のアメリカのニュース系の雑誌の文章のようだ(Hmm.とかNo!とか文末に間投詞がしばしば入る)。翻訳者の解説もこの調子である。親しみやすいと感じる部分もあるが、軽く弾んだり転がりすぎて静かに考える、という感覚にはなれなかった。少し、押し付けっぽい印象もついてくる。この文章への好みで、きっと読みやすい、読みづらいがはっきり別れる本ではないだろうか。「決定論、自由、自由意志、責任、道徳」などの問題を興味深い方向から考察していて、じっくり読みたい、そう思う内容なのだが、正直静かに内容を味わい、考える気分になりづらく、私的には苦痛に近かった。
内容は興味深いが、ほんとに読みづらかったので評価は保留。
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6点
山形氏の翻訳に感動している読者がたくさんいるようだが、僕はそうは思わない。哲学書をわかりやすく翻訳しようという試みは買うが、如何せん読みにくい。誤訳(というか、変な日本語)たっぷりだし(彼のサイトで誤訳の訂正が行われてはいるが)。話し言葉で書いたからって哲学やデネットが僕らに近づいてくるわけじゃないし。最後に「かしこい」山形氏が手短に解説してくれるなんて、ホントに「ありがとう!」って感じ(笑)「心脳問題」についてもずいぶん辛口なコメントではないか!(本書はこんな感じでよく”!”が挿入される)まあ、中身は科学的手法で哲学してるかんじで面白いとは思いますが
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(20090506〜20090527読了)
・哲学的な探求は真実を求める自然科学の試みと手を組むものであり、科学的発見や理論の成果を哲学的理論構築の材料としてちゃんと受け入れるべき。P27
・エンジニアたちは自分達の設計する橋に何千人もの安全がかかっているのを知っているから、わかっている範囲で自分達の設計が安全かつ危なげないことを確実にするために指定制約条件を使った集中的試験を行う。学者も世界への影響力を高めたいなら、もっと応用的な学問分野の態度や習慣を身に付ける必要がある。P31
・参考、自由意志に関する哲学文献。「石の崩壊」(ジョージ・コインズリー)「意識的な意思という幻想」(ダニエル・ウェグナー)P39
・決定論とは「どの瞬間にも物理的に可能な未来はたった一つしかない」というテーゼ。P41
・ライフ世界の物理。P56
・人間は問題の認識と解決能力は光速に届かんとしている。P79
・可避性 ?一部の決定論世界には害を避ける回避体がいる。?だから一部の決定論世界では、あるものは回避される。?回避されるものは全て、回避可能、つまり可避である。?したがって決定論世界の一部では、全てが不可避ではない。?したがって決定論は不可避性を意味しない。P83
・参考「ダーウィンの危険な思想」「本物のパターン」「心はどこにあるのか」「衝突検出、ミュースロット、落書き」P93
・決定論は人の機械を奪い、過去にさかのぼる因果連鎖の網目の中に運命を封じ込めてしまっているようにみえる。人は大抵この暗鬱なものの見方を無視している。物事が明日や来年こうなるかもしれないとか、あるいはあれさえこうだったなら事態はこうだったかもしれないのに、なんてことを考えるのにかなりの時間を費やす。つまりこの世界が決定論的ではないと想定しているらしい。P95
・自由意志に関する従来の問題は、決定論が真なら、人は自由意志をもたないという命題から始まっている。P141
・「物理的観点だけからみれば、自由意志は偶然のようにみえる」。P187
・ゲーム理論の分析が進化論にも応用できるのは間違いない。P210
・我々が現在の状態になるようにプログラムされているなら、その特性は不可避である。意志や教育や文化でこれらを別の方向に向けるくらいは出来ても、変えることはできない。P219
・我々がある文化的環境で育てられ教育を受けた場合、その環境が我々に負わせた特性は不可避である。意志や教育や文化でこれらを別の方向に向けるくらいは出来ても、変える事はできない。P221
・行為者または志向システムが、あらゆる面から考えて一番いい行動についての判断を下すとき、その「いちばんいい」というのが誰の視点で判断されているのかを考える必要がある。P249
・人は選択をする時、自分の選択を将来の選択の予測材料として内省的に利用する。P293
・脳の運動中枢から前腕部の運動神経に活動が降りてきて腕の筋肉に伝わるけれど、でもそれより際財800ミリ秒前に、ほとんど1秒近く前に脳の中ではっきり検出できる活動の波が生じる。P318
・「人は自分の振る舞いに対するものすごい数の機械的な影響について、全て知る事さえできない。我々が住んできるのはとてつもなく複雑な機械だからだ」P340
・「人々は、仕事を終えたいと言う単純な理由でその仕事を忘れ去るが、これは行動が終わればその内的な意図との接触が失われることを示す。そして改訂された次の意図に今度は動かされるようになる」P352
・人間意識はアイデア共有のために作られた。これはつまり、人間のユーザインターフェースは生物学的にも文化的にも進化で創られたということ。P360
・人間への道の最初の敷居は、その人物の育て主がちゃんとしたコミュニケーターをたきつけられるかどうか、ということ。P378
・人間性の探求は一種のチーム活動で、コーチやサポーターがサイドラインのところで重要な役割を果たし、人々の最高の部分を引き出すように設計された足場を環境の中に作り上げている。P382
・人は状況に立ち向かう存在なので、状況や機械をたっぷり用意し、よりよい自分を他人や自分自身に対して示せるようにすることで、そうしたよりよい自分が将来的にもっと楽に登場できるようにしておくのはよいことなのだ。P384
・エンジニアは政治家と同じで、可能な事にしか関心がない。これには人間が実際にどういう存在か、そしてなぜそういうふうになったかについて、現実的に考える事が必須だ。P388
・自由は、「各種の状況下で価値あるモノを実現する能力」P419
・全ての合理的行為者に上昇をうながすような規範にたどりつくにはどうすればいいかを示す事。こうした動きの成功例は存在する。ブートストラップは過去に機能したし、ここでも機能するはず。P420
・自由がどうやって生まれてきたかをもっと理解すれば、それを将来にわたり保全して、多くの天敵から守るのも上手になるだろう。P424
・哲学者たちは哲学者であるからこそ、他の領域の成果を見なければ自分の専門テーマにおける専門家としての仕事を果たしているとはいえない。P426
・多くのテツガクシャどもは、哲学ってのが自然科学の上にあるという変な思い上がりを抱いている。デネットにはそういう思想はない(参考「解明される意識」「ダーウィンの危険な思想」)。P435
・自由とはシミュレーションのツールである。P437
・各種の状況において効用を最大化する選択は一つしかないはずだ。ということは、デネットの「自由」ってのは、それ以外の選択肢を実質的にありえなくするものじゃないのか?自由ってのは選択肢を増やすはずなのに、かれの理想とする自由の行き着く先というのは選択梓が一つしかない究極の不自由世界じゃないの?P454
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ダニエル・デネットの著書は、『ゲーデル・エッシャー・バッハ』や『メタマジックゲーム』で有名なダグラス・ホフスタッターとの共(編)著の『マインズ・アイ』を読んで以来15年ぶりくらいになります。細かい内容はさすがに忘れていますが、問題意識はその頃から変わっていない気がします。『ダーウィンの危険な思想』や『解明される意識』など少し気にかかっていましたが、もう大御所ですね。
本書のテーマは、第1章にある通り、「人間の意志について統合的で安定して経験的にも十分根拠のある一貫した見方を提供する」ということにあります。なるほど。見るからに難しいそうです。ここでタイトルの"自由"は、基本的には人間の意志(自由意志)を指しています。
私の理解では、自由意志とは、ヒトという種(だけ)が、言語の獲得を契機として、他者/自己とのコミュニケーションの要求ために(生存上有利であったために)進化的に獲得されたものであり、生物学的なインタフェース(脳)の上に構築された空間的にも時間的にも広がりをもった仮想的に構築されたインタフェース(心)だということです。あまり自信がないですが。比喩としてコンピュータのハードウェアと、その上にインストールされるオペレーティングシステムを挙げています。
そうやって、「(物理法則による)決定論が真なら、自由意志というものはないのではないか」(決定論と自由意志は両立しない)という疑問に対して、決定論と自由意志は両立し、本当に自由意志というものはリアルに存在するものだと論証したことになっています。だからこそ道徳的責任が発生するのだと、いうことを進化論的に説明していっています。それが一点の曇りもなく存立して対論を斥けるものなのかということは残念ながら自分には確証できるところではないのですが、言いたいことは何となく伝わるぞ、という感じです。
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こういう類の本では、翻訳者というのはとても大事な要素になります。本書の翻訳者の山形浩生さんの仕事は、好き嫌いはあるかと思いますが、できるだけよいものにしようとする意志は感じられます。訳者による解説が付いているのですが、これも山形さん特有の言い回しをしていますが、理解を助けるものと評価できると私は思います(これも評価は分かれるところかとは思います)。
ちなみに本文中にも出てきた参考文献のエインズリーの著書名が『意志の崩壊』となっていますが、実際に同じ訳者によって本書の後に出版された本のタイトルでは『誘惑される意志』となっています。"Breakdown of Will"なので、最初の案でよかったのに、とは思いますが。
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当たり前ですが、決して読みやすい本ではないです。しかも長い。ただし知的刺激はあります。
星4つくらいです。
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決定論や自由意志の否定に対する否定について。
正直なところ、決定論か否かの二分法に陥っていて、微妙。決定論ー自由意志/の対立が決定論ー妥協案の構図に帰着される。何かしらの絶対主義の方向に妥協案が偏っていかざるを得ないという穏健派にとっては残念な結論になる。双方部分的な真なんだと思う。個人的にはある程度決定論的な部分はあると思うが、あまりに単純化された因果律の導出やレッテル論にはいらっとくる。レッテル的なポストモダン批判色もつよくて、あんまり情熱を添えて読めない。
本書の内容はあまり好きではないが、訳者の山形さんの訳が個人的にはチャラくて読みやすくて好き。最後に「せっかちな人のための要約」というのがあって、それだけ読めば十分だと思う。
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自由をどう定義するか、ということだが、議論が行きつ戻りつするので、結論のわりに読みにくい。訳者後書きのほうが分かりやすいという、何とも、という本ですが、内容自体は面白い。
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思想というより哲学書で、途中でパス。
半分以上は何とか読んだのだが、内容が難しい!
書いてあることは理解できるのだが、流れについていかない。理解力が落ちているのを痛感。
話自体も分かりやすい例を挙げながら、そこから展開される文章はとにかく装飾が多くて難解。
書いてある日本語そのものが分かりにくい、というのもめったにない体験だった。
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献本御礼.……しつつ、本編は正直あまりきちんと読めなかった。
難解なところはないけど、抽象的な話が延々と続くうちに脳のメモリがいっぱいになってしまう。
結局山形さんの訳者解説を最初に読んで、そのあと最後にも読み返してレビューを書くことになった。
-自由がないと選択肢が減って人間(人間社会)が弱くなる。
-だから人間はより自由になるように進化してきた
-食べるためだけを考える時間が減ったり、移動距離が増えたり..そういう活動は自由を増やしてきた
そうした遺伝的アルゴリズムみたいなのが、デネットのいう自由らしい。
たぶん、そういう全体像を頭に入れた上で、では自由がいつ始まり、自由とそうでない状態の境目はなんで……
などのように味わい尽くすのが本書の魅力だと思う
多様性と自由は近いし、自由を訴えつつ相手の話を聞かないのは馬鹿げているし、そういう様々な思いがぼんやりと浮かんでくる。