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紙の本
エピソードは子どもたちからの贈りもの
2005/09/28 01:06
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:momo - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書に登場する塾は、単に学習だけの場ではない。現在、子どもたちが抱える全問題をトータルにフォローし、しかも学習力も獲得してゆく塾の話だ。そんなことは可能か? 可能なのである。子どもたちの声に耳を澄まし、子どもたちに寄り添う心があれば。「指導」という言葉はいらない。ただ、傍にいてこどもの話に共感する。そして個々の存在をまるごと受けとめ、肯定する。子どもは自分を認められて初めて「自分が在る」世界を肯定できる。スタートはそこからだ、ということが本書のエピソードやインタビューを読むと、ひしひしと伝わってくる。読みながら自然と感涙している自分にハッと気づく。一気に読ませるエピソードの数々。
例えば、3歳で別れたお母さんに会いに行く中2の女の子。でも、父や祖父母、弟に内緒で。その心の重荷を塾の先生や塾生と共有する。なぜ共有が可能なのか? この塾はふだん勉強していても、話していても、何をしていてもいい。その子がいちばん切実なことを最優先している。そして教室の雰囲気は和気あいあいとしている。時には塾に泊まったりする。だから、どんなことも話せる。自分のペースで過ごせる場なのだ。
また、こんなことも。これから30人ほどで決闘になる場へ行く男子高校生が塾に寄る。先生は殺気だった様子に気づき、話を聴く。そして諭すのではなく、自分の内ゲバ体験を話す。その子は、喧嘩できない先生のサンダルを履いて決闘場へ行き、決闘を止めさせる。ほかにも不登校の子の生き生き過ごす塾での様子など、子どもが難所をクリアしながら今を生きる姿が印象的に描写されている。
子育てで悩んでいる親や教師、そして子どもたちも、こんな場があり、こんな生き方があるんだ、と感じられる本だと思う。著者があとがきで、本書は子どもたちからの贈りものへの返礼と書いているけれど、読者にとっても、胸が熱くなるような贈りものをもらったような読後感だ。一読をお勧めしたい。
紙の本
こんな塾ありえるの!
2005/08/18 16:36
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mirutake - この投稿者のレビュー一覧を見る
こんな塾があり得るのだ。
それは今の学校が子ども達を、お前はこのくらいの力しかないとか、しっかり勉強やってるのかと、脅かし萎縮させてばかりなので、子ども達の能力の最低ラインの偏差値でしか振り分けられない学校状況だから、このことの反証だと思ったのです。
この塾での東さんは、学習はやりたいときにやればいいという在り方で、まずは安心していられる場所を提供しているという感じです。ですから子ども同士が安心して話せる場を作ること、個々の子どもの思春期の問い掛けによく答えてきているんだろうと思いました。そうして得られた子ども達の内面の安定だから、君ならこういう風に大丈夫だよと、個別に安心を提供しえており、面接試験での安定と、少しの試験問題の暗記は安いことなのかもしれないと思われた。こう言う心理的な安定こそ大事なのであり、結果に結びついているのだと読めました。
だからこの安定が、学校の押しつけから逃れて、自分を見つけて歩き出している子ども達がいるんだと、その離れ具合をいろんな子ども達の在り方で示してもらえる。そんなことがあり得るんだと、うれしくさせてもらえるのでした。
卒塾生とのインタビューがいくつもあります。
信じられないくらいですが、子ども達との友達付き合いである関係が、あからさまに子ども達から語られています。こんなにストレートに塾の居心地のよさ、それを造っている東さんの在り方を全面肯定で示されている。読者として呆れながらもいい場所になっているんだなーと、羨ましいことしきりです。そしてそんな生き方が、こんな場が本当に可能なのだと、そのあからさまから信じることもできました。
最後に現在の子ども達が置かれている情報化社会の密度と、学校の教えているものとの余りの乖離に、子ども達が学校での学習意欲を失っているのは当然だと指摘されている。そして学力テストの脅かしで延命しようとし、ますます子ども達の不適応をおこさしている。社会(学校)の在り方がおこした引きこもりは、社会(学校)が受け入れる体制に変わらねばならぬはずなのに。そしてその答は、この塾の遊びと勉強が一緒(時代への興味)という在り方が解答なんですよね。学校がここに行くにはあまりにも遠いことになっているのでしょうが。
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